五. 聖剣 十拳剣
ミサキの言葉の通り、フシノヤマの中腹あたりにそれはあった。
岩肌が剥き出しになっている所に大岩をはめ込んで幾重にも張られた注連縄が印象的だった。紙垂は長い間に風化したようで、ぼろぼろになっている。
幾重にも張られた注連縄と紙垂は封印の結界のようだ、とミサキも捜索隊の魔術師も口を揃えて言った。さて、どうしたものか。と一行は頭を悩ませる。見たことも無い封印に迂闊に手は出せないだろうと、ミサキと魔術師たちの見解は一致したところだ。
聖剣トツカノツルギは、アマハラ王国の中興の祖が剣であると伝わっている。今はもう入手が困難な神代の鉱石ヒヒイロカネ製の剣だ。神懸かった力が秘められたトツカノツルギは国宝でもあり、勇者として魔王討伐に向かう王太子に貸し出されたモノだ。
公爵たちに聖剣の縁起を説明され、実際にその目で確認したミサキとイブキは徒ならぬ力をその剣から感じ取った。
「それは確かに封印を解く最有力候補ですね。まずは…」
ミサキはその聖剣に満ちる力が何モノなのか捉えきれずにいた。安全も保証できない以上、聖剣で以て結界を破るという決断はすぐには出来ないとミサキの言葉はどこか歯切れが悪かった。
だが、王太子はミサキの歯切れの悪さを気に留めることも無く、聖剣を構えた。
そうして、あっ、と声を上げる間も、公爵や側近が止める間もなく、王太子はトツカノツルギを抜き、注連縄を薙ぎ払うように剣を振るった。
愕然とする一同。ミサキとイブキは驚愕の表情のまま視線を公爵に向ける。公爵も側近も捜索隊も、顔色を失っているので彼らに物申すのは止めておこうと二人は思い直す。
今は知る者が居なくなったトツカノツルギ、その正体は、アマハラ王国の初代国王ヒルコが兄弟神を屠った憎悪と怨念に満ち満ちた剣であった。同時に、二度と兄弟神がこの地に降り立つことが無いようこの岩屋戸に封印を施した剣でもある。
ヒルコは、己の神としての力と十拳剣の一歩間違えれば呪われた武器になるほどの力の両方を使い、十拳剣なくしては解放できない呪いに近い封印を岩屋戸にかけた。ヒルコは力を失くした十拳剣を城の地下深くに厳重な封印をし、誰の目にも触れぬ様に隠した。万が一にも岩屋戸の封印が解かれることの無いように。
その後ヒルコは岩屋戸があるフシノヤマを禁足地として定め、何人たりとも近付かぬよう勅令を出した。その後、ヒルコは五百年の時を生きた。岩屋戸に封印を施した際に神としての力をほとんど使い切った彼には寿命が出来ていた。それでも他の人族に比べれば長く生き、アマハラ王国を基礎を盤石たるものにした。
だが、彼の死後、五百年ほど経った頃。人の寿命で五百年は長く、ヒルコが盤石にしたはずの国の礎も根腐れを起こし内乱の憂き目にあった。その際にヒルコの残した文献の一部も失われることになった。同時に隠されていた十拳剣が発見され、ほんの少し残っていたヒルコの神力も相俟って国宝として祀り上げられることになる。
そうして、魔王討伐に向かう王太子に貸し出され今に至る。
そうだ。この世で唯一、岩屋戸の封印を解けるモノ。十拳剣は、ヒルコの願い空しくこの時、岩屋戸に振り下ろされたのだ。




