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鬼人の恋  作者: 渡邉 幻月
人ノ部 其之参 頽れる虚飾の王国と神々の復活
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三. 蓮の花の向こう側

 魔物を討伐しながら、魔王城までの道程を一気に駆け抜ける。野宿も厭わない強行軍だったこともあり、勇者御一行が必要とした前回の日程より遥かに短い期間で魔王城まで辿り着いた。

 公爵は即、王座の間に向かう。まずは魔王と聖女が最後に立っていた場所、何らかの因果で二人が水と成り果てた場所だ。半年以上も経った今、術の痕跡が残っているとも思えないが何らかのヒントがあれば御の字と、公爵は同行している魔導士に調査を命じる。


 あの日、魔王と聖女が立っていた場所にはもう、何もない。水は既に蒸発したのだろう、跡形もない。


もちろん、何もないというのは目視でのことだ。何か、魔力の残滓のようなものでも僅かに残っていれば良いのに。それは公爵だけでなく、同行した魔導士も同じ気持ちでいた。藁にも縋る思いで玉座を中心に調査を進める。

『せめて、もう二、三か月早く調査が出来ていたら。』

とは、魔導士たちの誰もが考えていることだ。苛立ちが募るのは、何も目に見えた結果が無いからだけではない。王太子たちの悪びれることもない様子が、余計に神経を逆撫でるのだ。

『初めから包み隠さず報告すればよかったものを。』

そうすれば、すぐに調査に来れたはずだ。聖女召喚の術も、失われずに済んだかもしれないというのに。

 不満たらたらであったが、公爵が何も言わない以上、彼らもまた何も言えなかった。王太子たちに対する公爵の態度は、冷ややかなものだったから王太子たちの味方ではないはずだ。おそらく、証拠が出そろうまでは何も口にするつもりはないのだろう、とそれぞれ勝手に解釈して作業を進めるのだった。


「ご報告いたします。」

「うむ。」

「玉座周辺から、液体が流れ出たと思われる範囲を調査いたしましたが、魔力の残滓すら確認できませんでした。」

予測できた結果であったが、やはり肩が落ちる。口を開こうとする王太子を制止して、公爵は指示を出す。

「時間が経ち過ぎているのか、魔王の目論見かは判断付かぬな。城内を探索する。書物は勿論だが手記のようなものも残さず確認するように。少しでも手掛かりになりそうなものがあれば報告するように。」

「待て、城内なら探索済みだ。」

流石に業を煮やしたのか、王太子は苛立たし気に公爵の指示に物申す。

「…では、その探索の際に何が見つかりましたかな。まさかとは思いますが、凱旋時の宝飾品や武具の類とは仰せになりませんよね。」

「そ、れは…」

「…。今回はそのようなものを探しているのではありません。おそらく貴方方が歯牙にもかけなかった書物の中身が肝要なのです。」

そう言うと、公爵自らも城内奥へ歩を進めるのだった。


 探索隊のメンバーを三隊に振り分けそれぞれに探索場所を指示する。

探索を進めていくと、中庭に辿り着いた。手入れがされなくなったからだろう、草花は鬱蒼と生い茂っていた。公爵は、ふと足を止め庭の中央に位置する池に視線を落とした。

 蓮の花が咲いている。深い緑か黒い花に染まるこの中庭で薄い桃色に色付く蓮が、やけに印象深い。


 蓮の異質さを感じつつ、公爵は書斎か書庫はないかとさらに歩を進めるのだった。


 いくつかの部屋を探索し、書庫に辿り着いた。その蔵書の多さに圧倒されつつ、公爵は書物をしらみつぶしに調べるよう指示を出す。

探せど探せど、それらしき記述は見付からず、結局書庫にある全ての書物を総当たりで読み漁ったが何一つとして参考になりそうな物は無かった。

 あとは、魔王の私室がまだだったと、仕方なしに書庫を後にする。書庫を後にし、魔王の私室へ向かう途中、中庭が視界をかすめた。思わず視線を向ける。


 一面が、薄桃色に染まっていた。

「あれは… 先ほど通った中庭ではないのか?」

鬱蒼と茂っていた黒い花と深い緑の葉は、一体どこに行ったのだろうか。蓮の花が一面に咲き乱れどこか別の場所に紛れ込んだような錯覚に襲われる。

 公爵始め探索隊の隊員たちはざわめく。そうして吸い込まれるように中庭に向かった。


「…どちら様ですか?」

不意に聞き慣れぬ声が、蓮の花の向こうから聞こえた。

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