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鬼人の恋  作者: 渡邉 幻月
人ノ部 其之参 頽れる虚飾の王国と神々の復活
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二. 失われたものは

「お前たち、どう見る。」

正直なところ、水鏡の術で映し出された過去の映像から分かる事はそれほど多くなかった。国王は王太子の発言含め意見を求める。


「発言をお許しください。」

そう言ったのは水鏡の術を展開していた魔導士の一人で、発言の許可を得て続けるには、

「魔王が消える間際、何かの術か呪いが発動しているようでした。詳細は精査する必要がありますが、おそらく瘴気が消えない原因はその術か呪いの類ではないかと思われます。」

彼の発言を軸に考察が進められるが、情報が少なすぎることもあり埒が明かない。もう一度、今度は王太子が聖女の名前を呼ぶあたりから術を展開し魔王の状態を確認することになる。


「確かに、何らかの術が発動しているようです。」

司祭の一人がそう発言する。

「おそらく魔王自身が自らにかけた術か呪いでしょうか。巧妙に隠されているので詳細が一向に分かりませんね。」

「何度水鏡の術を展開しても解析は出来ないでしょう。この術は出来事のみを見るための物ですから。」

他の司祭や魔導士が口々に述べる。彼らの顔色は芳しくない。

 結局、最も重要なことが分からないままだ。王太子の言う通り、少なくとも魔王は居なくなっている。討伐されたと云う表現が当てはまるかどうかは別にして、だが。そうなると困るのは、今なお残る瘴気と魔物だった。どうやら魔王にかけられた術の類が原因なのだろうとは分かったがそれだけでは対処のしようがない。


「大変でございます!」

重苦しい空気が支配する中に、一人、慌てた様子で飛び込んでくる。

「王の御前であるぞ、何を…」

「聖女が、聖女が召喚できません!」

窘める貴族の言葉を遮るように、大聖堂に飛び込んできた彼が言う。水鏡の術を展開しているチームとは別に、聖女の次回召喚時期について調べていたグループの一人だった。

「何を戯けたことを。聖女は居なくなったばかりだろう。すぐに召喚できないのは誰もが知っていることだ。」

「そうではございません。もう二度と、召喚できないのです。今後何年、何百年経っても、聖女召喚が出来なくなりました。」

「なんだって? どういうことだ!」

「理由は現在調査中です。状況としては、聖女召喚術に関する術式に係わる情報が、術者の記憶どころか記録一式全て消失しております。」

ざわり、絶望に近い不安がその場の全員を襲った。

 国王が再度詳細を報告するよう命じるも、ほとんど要領を得ない。

「術者の記憶から、聖女召喚に関する記憶だけが綺麗に無くなっていると申しますか、全く思い出せないそうです。文献も、聖女に係わる記述部分だけを狙ったようにインクを零したかのように塗りつぶされておりまして… ただ、それがインクや染料の類ではないことは判明しているのですが、何かまでは分からず、復元不可能な状態です。」

要は何が何だか分からないが、記憶も記録も無くなっている。最初の報告そのままである。

「気付かず忘れてしまっていることもあるかもしれませんが、それを調べる手段もなく…」

その場にいる一同の顔面から、完全に血の気が失くなった瞬間でもある。


「…。状況を整理しろ。」

頭を抱えた国王が命じた。その一言に、司祭や一部の魔導士たちと高位貴族が動き出す。しばしの間、私語も移動も禁じられ奇妙な沈黙が聖堂内を支配する。状況が不明なまま、不安を煽る内容を触れ回られては国内が混乱するのが簡単に予測できたからだが、下位貴族はともかく市民たちは冷静さを失う一歩手前まで不安と不信と恐怖に追い詰められていた。彼らの不安定な状態に気付いた司祭がケアをしつつ、次の指示を待つよう宥める。

 別室に移動していた司祭と高位貴族が戻ってきたのは、どれくらいの時間が経ってからだろうか。

「ご報告申し上げます。」

筆頭公爵が国王に発言の許可を得、報告を続けるには、

「先ほどの水鏡の術によって判明した事項は以下となります。

一つ、王太子が聖女の名を呼んだことが何らかの術のトリガーとなったこと。

一つ、その何らかの術によって魔王と聖女が水と思われる液体となって崩れ落ちたこと。

一つ、魔王がおそらく消失しているにもかかわらず瘴気も魔物も消えないこと。

一つ、魔王が崩れ落ちると同時に何らかの術が新たに発動していること。

一つ、これらの事実に関連は不明ですが、聖女召喚に関する知識が文献含め消失していること。

以上を踏まえ推測できることは、魔王が聖女召喚の消失に係わっている可能性です。魔王が崩れ落ちると同時に発動している術は呪いの可能性もあるとのこと。呪いの中には消失の呪いがあるとも言われているそうです。

事実については魔王城を探索する以外、現状では打つ手は無いかと思われます。」

深い溜め息が漏れる音と、誰ともない絶望の声が響く。


 国民には詳細を確認するためには魔王城を探索する必要が出たことが公表された。水鏡の術をもってしても何も分からなかったとあり、国内の雰囲気はさらに落ち込む。荒んだ気配が一層増し、不穏な状態が長引くことが予測できた。

 国王は魔王城の探索を正式に決定し隊長には筆頭公爵を任じた。また通信の術に長けた魔導士を同行させ、何か発見した場合にはリアルタイムで報告することを命じた。王太子たち、以前の勇者御一行も同行を求め認められた。彼らは、前回の討伐時の不備による汚名を少しでも返上したい一心でのことだった。

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