序. 終わりの始まり
聖女は失われた。
魔王と聖女が玉座から消えた後、どれだけ魔王城の中を探し回っても二人の姿は見当たらない。影も形も無く、まさしく忽然と消えたのだ。
「おかしい…」
肩で息をしながら、勇者である王太子は呟く。
魔王はどこにもいない、なのに瘴気は薄くなる気配はなく、小物ではあるが魔物が出現し襲い掛かってくる。倒しても倒してもキリがなく、疲労が蓄積されていく一方だ。
「一度、引き返しませんか?」
「城外で待機させている騎士達と合流しましょう。」
同じく疲労を隠せないメンバーが口々に言う。手持ちの回復薬も尽きそうであるし、聖女が戻るまでの限定でパーティーに組み込んでいる回復役も聖女に比べれば心許ない。
聖女が姿を消してから、その戦力不足を補うために騎士団や魔術師団から十数名同行させていた彼らだったが、魔王城に乗り込むまでは騎士達に魔物討伐をさせていた。魔王城に着いてからは、力を温存していた自分たちに任せろと言い放ち、城門で待機させていた。
「合流して何と説明するつもりだ?」
王太子は苛立ちを隠せないでいる。
まさか、まさかとは思うが、あの時聖女の名前を呼んだせいで魔王と聖女が消えたのだろうか。だとしたら…
最悪だ。まだ瘴気が色濃く残っているというのに、瘴気を浄化できる聖女を、よりにもよって勇者である王太子が消してしまったことになる。次の聖女を召喚できるようになるまでのブランクは早くても十年、瘴気が消えていない今は下手をすると百年の時を必要とする。
不味い不味い不味い。冷や汗と脂汗の混じったような、嫌な汗がどっと溢れ出すのが分かった。
「…魔王に殺されたことにすればよろしいのでは。」
おずおずと挙手をして、回復役が発現した。
「何?」
「ええと… 殿下が魔王に止めを差し、絶命寸前の魔王が殿下を道連れにしようとしたのを聖女が庇ったことにする… とかどうでしょうかね? 私たちは多少お叱りを受けるでしょうが… 少なくとも聖女の行方が分からないと報告するよりは体裁が整うかと思うのですが…」
瘴気が残っている状況で聖女を失うのは手痛いが、どこか消耗品と認識している国民性なら王太子を庇っての絶命なら何だかんだと納得するのでは、と言うのが回復役の考えであった。
しばし王太子は逡巡する。この回復役も、他のメンバーも『王太子が聖女の名前を呼んだから消えた』と言う発想には至っていないらしいと、彼らの様子を見て確信する。
「そうだな、そうしよう。出来るだけ聖女の美談のように話を持っていこう。」
ぎり、と歯を食いしばり絞り出すように王太子は言った。
彼らはまだ知らない。
聖女召喚そのものが出来なくなっていることを。混乱と、糾弾と、内乱の待つ未来を。それこそが聖女の復讐であることも。
終末音楽が鳴り始めたことも。
最終章のスタートです。
奇数日更新で進めたいと考えています。
最後までお付き合いいただけたら嬉しいです。




