終. 黄泉戸喫
「なんとなく、そんな気はしていたんだ。」
ヨリコは力なく呟いた。元の世界には帰れない。あの日、ホデリに刺された日。死ぬはずだったのに、気が付けば過去に戻っていた。過去に戻ったはずなのに、元の世界ではなかった。あの日から、もう帰れないのではないかとうっすらと感じていた。
「黄泉戸喫、って?」
気を取り直してヨリコは尋ねた。元の世界に戻れない理由を、『黄泉戸喫』が原因だと将軍に説明されていたからだ。
「ヨモツヘグイとは、簡単に説明するなら死者の国の物を食べること、になりますね。今回は、異世界… ヨリコ様の世界とは異なるこの世界の食べ物を口にしてしまっていることが原因になるかと。」
「まさか、そんなことが… では、別の世界から召喚された者は元の世界に帰れないということではないか。」
将軍の説明に、ホオリが苛立ちを隠せない様子でそう言った。召喚した当日に帰せるわけでもないなら食事はしないといけない。飲まず食わずで生きていられる訳がない以上、それが原因で帰れないというなら、これはもう拉致と同じだ。
ようやく全てにケリが付き、やっと帰れるとヨリコが喜んだのも束の間だった。十分に準備を進めてから、異世界と繋ぐ門を開く儀式を行った。儀式は成功したはずなのに、ヨリコは帰れず、門は閉じてしまった。その後、数日かけて原因を調べた結果が『黄泉戸喫』だった。
ヨリコはすっかり肩を落としている。タマヨリはヨリコに寄り添う。かける言葉も見付からない、とヨリコの手に手をそっと触れる。せめて、一人ではないと伝えられたらいいのにと思っていた。
「…異世界からの召喚は禁止にするよう、法を定めるよう陛下に進言しよう。」
眉間にしわを寄せホオリは言った。少なくともそれで新たに異世界から召喚される犠牲者が出ることを防ぐことができるだろう。だが、ヨリコは。
「申し訳ない、ヨリコ殿。」
ヨリコに向き合いホオリは頭を下げた。もう訪れることの無い未来で、ヨリコの召喚のきっかけになったのは間違いなく『魔王ホオリ』の存在があったからだ。
「いえ、召喚を提案したのは私なのです。帰還のことまで調べず、安易なことをしました。」
魔道将軍が提案した未来はもう来ないが、それでもヨリコがここに居るのはあの未来での発言だったと将軍は認めヨリコに謝罪する。
「…わたし、どうしたらいいんでしょう…」
ホオリと将軍の謝罪に緩く首を振ったヨリコは力なく呟いた。
「では、わたくしの妹になりますか?」
ヨリコの呟きに、一瞬静まり返るがトヨタマがそうヨリコに話しかけた。
「こんなにも似ているのですもの、誰も疑いませんわ。」
「え? でも急に妹は出来ないよね?」
「体が弱かったから領地で静養していたことにすれば良いと思います。王国の保護下に入るよりは自由になると思いますわよ?」
ヨリコが怪訝な顔をするが、良い思い付きとばかりにトヨタマがヨリコの手を取る。
「確かに、伯爵領であれば余計な政争に巻き込まれないよう手配してもらえる… か?」
ホオリが顎を擦りながら言う。ヨリコの力は特殊である以上、国の保護下におけば目立つだろうし、利用しようと近付いてくる者もいるだろう。護衛を軽々しくつけることもできなくなる市井での生活に至っては論外である。伯爵は訪れたはずの未来を知っているし、その未来は彼にとっても望ましくない未来だった。ヨリコ一人くらいなら庇ってくれるだろうし、隠し通すくらいの力は持っている。
「ヨリコの気持ち次第だが。」
「わたし、は…」
昔々のこと。魔王がアマハラ王国を襲った時、どこからともなく聖なる力をもった少女が現れて人々を救った。魔王の瘴気を浄化できたその少女はやがて聖女と呼ばれるようになった。魔王を倒した聖女は、いずこかへと姿を消したという。
聖女の伝説だけが遺され、異世界人を召喚する術は国の威信によって禁じられた。はずだった。
新たに聖女召喚の術が編み出されるのがそれから千年の時を経てからである。
『人ノ部 其之弐 最初の聖女は二周目で復讐を遂げる』
いったん完結です。ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
ちょっと構成と言うか配分がバランス悪いような感じがしているので、
人ノ部 其之参を完結させたら修正すると思います。
其之参ですが、いよいよ完結編と言うかざまあ編と言うか、です。
元のざまあ編を加筆修正にするか完全に新しくするか… で少し悩んでいるので、
其之参は15日から順次公開を予定しています。
最後までお付き合いいただけると嬉しいです。
よろしくお願いいたします。




