九. 魔王との邂逅
「一度、魔王に会ってみようかと考えている。」
唐突にホオリが言った。起こっても居ない未来の出来事でホデリを断罪することは出来ない。だからと言ってみすみすホオリの命を危険にさらすわけにもいかない。さて、どうしたものかと思案している最中のことだ。
「ホオリ様、何を…」
「良く分からんが、魔王には害意は無いのだろう? 協力を仰げるかもしれないだろう?」
ホオリのその言葉に、一同は顔を見合わせる。害意が無いのであれば、危険も無いのかもしれない。だがしかし。
「ホオリ様、魔王城はそう簡単に行って戻れるような場所にはありませんぞ。ホデリ様に悟られずに実行できるものでしょうか?」
眉間にしわを寄せ、伯爵が意見する。
「それもそうか… 変に勘繰られ、足元を掬われるのも避けたいしな。」
「…それでは私が行くのはどうでしょう?」
おずおずと手を挙げてヨリコは言った。一斉に驚いた顔を向けられて、ヨリコは狼狽えるがそれでも続けて、
「今のところ、私は存在しないはずじゃないですか。それに魔王の城に近付けば近付くほど、人は居なくなるから見付からないかなって…」
名案ではないですか? と首を傾げる。
「言わんとしていることは分かるが…」
「女の子が危険ですわよ?」
口々にそう心配されてヨリコはますます首を傾げる。いや、ホデリに刺される前は魔王討伐の遠征に参加していましたが? と思ったところで、自分が九才くらいに戻っていたことを思い出す。確かに子供を魔獣のいる森とかに行かせたくはないな、と納得する。
「では、私が同行しましょう。」
と将軍が言った。そうして将軍が同行する方向で計画が練られていく。本当は魔王に会いたかったらしいホオリが内心拗ねているようだったが、さすが王子なのかそれを表には出さない。
信頼のおける将軍の同僚が同行できるようにホオリも協力すると言っている。魔法の開発のための遠征と言うことにするようだ。ヨリコは伯爵領から、伯爵家の家人に連れられて合流地点に向かうことになった。
まずは将軍たちの遠征の許可を得、日程を調整する。連絡はホオリが請け負うと言い出して一同焦るが、ヨリコが伯爵領に身を寄せるなら、許嫁に会いに行くという口実で連絡係くらいできるとホオリは言い張る。
「まあ。この計画に参加したいのですね。」
トヨタマが鈴の音のようにころころと笑う。
「わたくしは、領内で大人しくしていましょうね。」
そう言ってホオリと笑い合うトヨタマ。自分と同じ顔なのが不思議ではあるけれど、本当にお互いを想い合っているのだと、ヨリコは感じる。そうして、あの時の魔王の顔がちらついた。
あの未来は何としても避けよう、と、一人心に誓うヨリコだった。
ヨリコが伯爵領に身を寄せてから数か月が経った。未来の記憶を持っているヨリコと将軍にはもどかしい時間でもあった。それでも疑いの目を向けられる訳にはいかないので、皆慎重に計画を進めていった。そうして漸く出発の時である。
人目を避けるように西の果てを目指す。数か月の後、漸く魔王の城に辿り着いた。
「ここが、初代魔王の城…」
ホオリがアマハラ王国攻略用に建てた城しか知らないヨリコは、飾り気のない簡素な建物をまじまじと見つめた。
「とはいえ、ご本人は魔王のつもりも無いようですが。」
そうして、行きましょうか、と将軍はヨリコに声をかけた。
「人がここに来るとは珍しいこともあったものだ。」
門をくぐったところで、壮年の鬼がヨリコたちを出迎えた。
「不躾に申し訳ございません。我々はアマハラ王国から参りました。」
将軍が深々と首を垂れる。ヨリコたちも続けて一礼する。
「いや、堅苦しいことはよせ。人が、何の用だ?」
怪訝な顔で鬼は言う。
「あなたの知恵と力をお借りしたく、参上した次第です。」
「おれの知恵と力…?」
鬼の片眉がぴくりと動き、不信感を露わにした声がその口から漏れた。




