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鬼人の恋  作者: 渡邉 幻月
人ノ部 其之弐 最初の聖女は二周目で復讐を遂げる
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七. ループする聖女

なんて後味が悪いんだろう、とヨリコは考えていた。魔王との戦いなど無く、ただ、一方的に止めを刺しただけだ。面識のない自分でさえこんなに遣る瀬無いのだから、見知った間柄の彼らはもっと行き場の無い感情に苛まれているのではないか、と、ヨリコは同行している魔道将軍たちの気持ちについて考える。


「あなたのことは、何としてもお守りしますから。」

不意に、将軍に声を掛けられヨリコはハッとする。

「急にどうしたんですか?」

「いえ、魔王の正体もさることながら… 召喚されたあなたの姿が、あまりにもトヨタマ姫に似ておいでなので…」

複雑そうな表情をしているのは将軍だけではない。魔王との会話を聞いていたが、あまりいい話でもなかったとヨリコは思い出して、

「私… 家に帰れますよね?」

ホデリという男に捕まらないようにしなくてはならないのだろうと思い至る。

「ホオリ様ともお約束しましたし、その件は必ず。我々も出来得る限り側にお仕えしますが、それまで決してホデリ様にはお近付きになられませんよう。」

神妙な顔の将軍に、ヨリコも真顔で頷く。やっぱり、捕まったらダメなんだな、とヨリコは胸に刻む。考えてみればそうか、とも思う。ホデリと言う男は王族である以上、将軍たちでは意見をするのも難しいのだろう。横暴そうであるし。

 魔王の結末は心が痛んだが、ホデリの存在は頭が痛い。無事に帰れるのかと、ヨリコは一抹の不安に襲われた。


 真実は隠し通す、と言うことで一致したヨリコたちは王都へ凱旋した。ホオリが憎悪のあまり魔王と成ったなどと、どうしても明らかには出来ないと将軍が言い皆がそれに賛同したからだ。ヨリコもまた、血を吐くように告げる将軍の様子に反対する理由も無い。ただ、ひたすらに後味が悪いだけだ。

 魔王の脅威が無くなったと告げられ、国民たちは喜びに満ち溢れた。これで魔獣を討伐していけば、また平和になる。


「ヨリコ様、実に申し訳ないのだが、帰還はしばし待ってもらえないだろうか。」

肩の荷が下りた、これで帰れると喜んでいたところで、ヨリコは国王からそう告げられた。

「…え? どうしてですか?」

「理由は二つあってだな。魔王軍の侵攻で瘴気に汚染された地域の浄化をしていただきたい。これは今のところ貴女にしか出来ないことだ。浄化の魔法もいずれこの国の民にもできるようにする予定ではあるが、瘴気をそのままにしておくと魔獣が発生してしまうようでな。出来るだけ被害を少なくしたいのだ。」

「…そうですか。それは確かに放っておくわけにはいかないですね。」

国王の話に、ヨリコは頷く。早く帰りたいところではあるが、犠牲者が出ると知って見て見ぬふりをするのも気分の良い話ではない。

「もう一つが、貴女のいた世界との門を開くための魔力量が溜まるまで暫く時間が必要になるそうだ。魔獣の討伐に出ていた者も多く、魔力が回復していなかったり、怪我で動けない状態だったりするそうだ。こればかりは回復を待ってもらうしかない。」

と、国王は申し訳なさそうに続けた。これも聞けば納得するしかない理由だった。ヨリコは、瘴気の浄化は魔力が溜まるまで、出来るだけ早く浄化の魔法が使える人を増やすことの二つを条件に国王の申し出を受け入れた。


「不敬罪に問われなくて良かった。」

国王と別れてから、ヨリコは呟いた。まあ、勝手に呼びだされるわ魔王討伐に送り出されるわ(これは結局未遂になるのだろうけど)で散々だったしこれくらい受け入れて欲しいとヨリコは思っている。

 あとは、帰るまでの間、あのホデリという男を避け続けなければならない。早く帰れたらこんな心配をしなくて良かったのに、とヨリコは溜息を吐いた。何と言うか不穏な空気を纏っているというのか、目つきが、そう狂気染みているというか、とホデリを思い出しながらヨリコは身震いをする。いい予感が全然しない。無事に帰れますように、と、ヨリコはそっと祈った。


 魔王討伐から数か月、ヨリコは各地を回り正気を浄化していた。周囲が気を使ってホデリとかち合わないようにしてくれているのが救いである。それでもいい加減帰りたいと思っていた矢先に、将軍から告げられた。

「帰還の術が使えるようになりました。」

「本当ですか⁉」

「はい、それで、まあ聖女様は一刻も早くお帰りになりたいでしょうが、感謝と労いとお別れの晩餐会を開きたいとのことで… その翌日に帰還の術を行うということで良いでしょうか?」

申し訳なさそうに将軍が言うものだから、ヨリコは思わず、

「しょうがないですね、良いですよ。」

と答えてしまった。晩餐会の一日分くらい延びたところで今さらだと思ったのもある。

「ありがとうございます。出来るだけ最短で晩餐会が開かれるよう手配しますね。」

将軍たちも悪い人ではなかったんだよなあ、とヨリコは彼を見送る。


 それは、まさしく油断だった。

急遽設えられた晩餐会はそれでも豪華で、ヨリコは着なれないドレスに着替えさせられ、様々な者から感謝の言葉や労いの言葉を掛けられていた。中には別れを悲しみ涙ぐむ者もいる。聖女が元の世界に戻るとのことで、大勢の者が集まり、宴は佳境に。人に酔ったヨリコは、不用心にも一人テラスに移動した。

「これはこれで寂しいな。」

でも。それでもやはり元の世界に帰りたい。両親も友達もいる世界に。魔獣なんて存在しない平和な世界に。


「ようやく二人きりになれたな。」

突然、背後から声を掛けられ驚いたヨリコが振り向くと、そこにはあれほど避けていたホデリが立っていた。

「まさか、最後の最後まで話す機会が来ないとは思わなかった。」

そう言いながらホデリは距離を詰めてくる。

 ドレスなんて着るんじゃなかった、とヨリコは後悔するが今となってはもう遅い。着なれないドレスで、どこまで逃げることができるだろうか。

「なぜ、そのように怯えた目をするのだ?」

そう問いかけてくるホデリの目は暗く澱んでいて、怯えるなと言う方が無理があるとヨリコは思う。

「あの、何か御用ですか?」

「はは、つれないことを。元の世界に帰るのは止めにしないか?」

「なぜですか? あっちには家族も友達もいるのに、あなたたちが勝手に呼んだくせに。」

ヨリコは恐怖と少しの侮蔑を込めてホデリに答えた。弟の許嫁に横恋慕して、弟を暗殺して許嫁を自害するまで追い詰めるような、そんな男とどうして仲良く談笑できるだろうか。

「わたしと共にこの国を治めないか? 今は復興中だが、元は豊かな国だ。わたしが即位するまでには元の豊かな国に戻っているだろう。」

何を言っているのだろう、とヨリコは思う。

「キョーミ無いです! ってゆーか! 私、あなたのことなんとも思ってないから!」



 ヨリコの記憶はそこで途絶えている。

「あれ? ここ、どこ?」

ヨリコが次に目が覚めた時、そこは全く見覚えのない森の中だった。

「んん? なんか声が変?」

ヨリコは喉を摩ってみる。やたらすべすべしている。それに喉に当たる手の感触が、違うと思って今度は両手を見てみる。

「え? ちいさい…?」

ぱたぱたと自分の体を確かめるように触り、自分の視界に入った足も、記憶より小さくなっていることに気付く。

「…子供になってる? 夢?」


 見知らぬ場所に、一人放り出されたヨリコは自分の状態も把握しきれず途方に暮れるのだった。

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