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鬼人の恋  作者: 渡邉 幻月
人ノ部 其之弐 最初の聖女は二周目で復讐を遂げる
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五. 聖女召喚

 アマハラ王国は恐怖と混乱に支配されていた。今までその存在は噂されていたものの、実害はほとんど発生していなかった魔王が急に攻めてきたからだ。おそらく一気に攻め入れば物の数日で陥落出来るだろうに、敢えてじわじわと、まるで苦しめることの方が目的のような魔獣の動きに、より一層の絶望が人々を襲う。

「魔王を倒そうとしたから、怒ったのでは?」

市井の人々は恐怖に慄きながらそう噂し合った。数ヶ月前、第二王子のホオリが討伐に向かったものの失敗して命を落としたことは皆知っている。国を挙げての盛大な葬儀も行われた。魔獣による被害はそれ以前よりあったのは事実だが、今と比べれば果たして魔王討伐など必要だったのかと首を傾げる者も多い。


 国王はこの事態に軍を動かしたが、成果は上がらない。むしろ精鋭部隊でさえ壊滅の危機にあった。弄ばれているのも同然に、魔獣は適度に被害を与えては勝手に去っていく。その意図は誰も理解できず、兵士たちもあまり役に立たず、魔王の怒りを買った国への怒りが次第に人々の心に渦巻くようになった。


「まさか、こんなことになるとは。」

それは王城の一室、国の重鎮たちが集まり、魔王対策の軍議の最中の呟きだった。

「魔王討伐などしなければ良かったのでは?」

と、とげとげしい言葉と共に、ちらりとホデリに視線が向けられる。以前の討伐計画がホデリ発案のものだと、この場に召集された者たちは既に知っている。ただ、蜂の巣をむやみに突いたようなものだ。尤も蜂とは比べ物にならない被害であるが。

「お前たちも賛同したではないか!」

不機嫌そうにホデリが怒鳴る。正直打てる手も無く、全員が苛立っているものだから軍議と称しているだけで何も決まらない。ただ時間が過ぎていくだけだった。この軍議自体、何回目で、どれだけの時間を費やしたことか。


「あの…」

恐る恐る挙手するのは、魔道士部隊を統括する将軍だ。

「発言を許す。」

国王がそう告げると、他の者たちは小言の応酬を止める。静まり返った中で、

「色々調べたのですが、別の世界の者の手を借りるのはいかがでしょうか。」

そう魔道将軍は提案した。

「どういうことかね?」

「この世界の他にも別の世界がありまして、その世界の者を召喚します。ただ、膨大な魔力を使用するのでそう何度も、何人も召喚は出来ないでしょう。しかし、膨大な魔力で造られた門を渡るには同じだけの魔力の耐性が必要になるということですので、魔獣、ひいては魔王にも対抗できるだけの力があるということになります。」

「しかし、その説明から察するに一人しか召喚できんのだろう?」

と、魔道将軍の説明に眉を顰めながら国王は問う。

「はい。ですので、各地を暴れる魔獣の相手はせず、魔王を一気に叩く作戦を立てることになります。魔獣のあの統率された嫌がらせのような動きも、魔王の指揮あってのことでしょう。」

「なるほど。魔王の指揮下になければ、魔獣も各個撃破できる可能性はあるな。皆はどう考える?」

その国王の問いかけにそれぞれが疑問や意見を述べ、魔道将軍が答える。最終的に他に良い案も無いことから、別の世界からの召喚された者に国の命運を預けることが決定した。

「自らの手で国も救えないとは…」

その嘆きの言葉は、誰のものだったか。


 入念な準備がされ、王城の広間で世界を渡る召喚の儀式が行われたのはそれから一週間ほど経ったある日のことである。魔道将軍率いる魔道士の中でも精鋭の者たちが選ばれ、円陣を組んでいる。国王たちが見守る中、召喚の儀式が始まった。


 呪文と共に、魔道士たちの魔力が集まっていく。大きな塊になった後、ゆらゆらと揺らめきながら魔力の塊は次第に渦を巻き門のような形に変化していく。

 やがて門が開き、人影が見えると国王たちから驚きの声が上がった。この瞬間もまだ、半信半疑だったと言っていい。見たことも無い世界など本当にあるのか、本当にその世界から人が召喚できるのか。皆そう思っていた。


 ゆっくりと門から人影が下りてくる。魔力の塊である門からずるりと広間の床に吐き出されてようやく、その姿が確認できた。

「む? 少女ではないか。」

少し残念そうな声がした。それはそうだろう。魔王討伐の中核となる人物を召喚するのか目的だったというのに、か弱そうに見える少女がそこにいるのだ。

「それでも魔力は我々の比ではありませんから、ご安心ください。」

魔道将軍はそう不満の声に答えると、召喚された少女に近寄り手を差し伸べる。


「あなたのお名前は?」

優しく少女に声をかける。何が起こったのか理解できていない様子の少女は、

「え? …玉野依子だけど?」

不安げに答えた。


 彼女が、このアマハラ王国が召喚した最初の聖女である。

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