二. 懸想の果て
それは水面下であった権力争いに、魔王と言う存在が利用された事件であった。公的には魔王討伐に向かったホオリ一行は魔王の城の領域にある森で、魔獣の群れに襲われた。一個師団を率いていたが、ホオリは戦死。わずか数名を残すばかりの壊滅状態だった。
実際は、魔王討伐に組まれた一個師団のうちの数名がホデリの息のかかった兵士たちであった。彼らはホオリの暗殺という密命を受けていたのだ。ホデリの命令通り、魔獣戦において味方に牙を剥き絶命させ、業と魔獣に苦戦した後に王都へ帰還したというのが実際に起こったことである。
当然、真実を知る者は絶命しているため真相は闇の中。ホデリの密命を受けた者たちはいつのまにか彼の側近として取り上げられていた。不審に思う者がいたとして、証拠は全て魔王の勢力範囲内で、遺体ももう魔獣の腹の中だろうと多数の者たちが口を揃えて言うばかり。そうしてホオリの死は、戦死として処理された。
さて、このホオリの死はホデリが謀略の結果であるが、いったいどうして今暗殺を実行したのか。あの時点で、ホオリは王位に就くつもりは無いと内々ではあるが意思表示していた。もちろんホデリも知っていた。権力争いの果ての謀略では無いということだ。
ホデリはホオリの許嫁であるトヨタマに懸想していた。この一言に尽きる。以前からホデリはトヨタマに言い寄っていたが、互いに許嫁のある身であるし、何よりトヨタマはホオリを心から慕っていた。やんわりとではあるがホデリを躱し、避け、何より一人にならないようトヨタマもホオリも気を付けていた。
ただの横恋慕であるし、筋も通っていないことである。当然、両親である国王夫妻もこの件に関してはホデリを窘めていた。だが、建国から千年を数える今、政治の中枢も根腐れを起こしており、良くない輩が城内を跋扈していた。それらにとっては、たとえ玉座に座らなかろうと、清廉潔白な王子であるホオリの存在は邪魔であった。根っからの悪人ではないが我儘で自己中心的なホデリの方が傀儡にし易いと踏んだそれらは、トヨタマを手に入れる方法として、例の謀略をホデリに囁いたのだ。
ホオリの死は、瞬く間に王国内に広がった。優しい王子の死に、王族のみならず国民も等しく嘆き悲しんだ。特に、タマヨリの哀しみは深く、幾日も嘆き悲しんだ。
遺体の無いまま葬儀が執り行われ、その間もただただトヨタマは涙を流していた。体中の水分が全て涙と成って流れ出しても足りないほど、昼夜を問わず亡き人を思い浮かべてはトヨタマは泣いて、泣き続けていた。
そんなある日のこと、トヨタマは王城に召喚された。失礼のないようにと、泣かないよう自ら言い聞かせてもじわりと涙が溢れてくる。
「今さらなんの御用なのでしょう…」
トヨタマは呟いた。ホオリの死をもって、婚約は解消されている。伯爵でしかない自分に、ホオリの葬儀も終わった今、何ができるというのか。今は、顔も合わせたくないホデリが居るだけの、王城にトヨタマは溜息と共に足を踏み入れた。




