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鬼人の恋  作者: 渡邉 幻月
鬼ノ部 其之壱 運命を覆すため我は禁忌の扉を開く
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三.ハヅキと鬼ども

 嫌いになんかなるはずない。

ハヅキはそう確信している。ずっと、ずっと好きだったし、これからもずっとホヅミのことが好きだと思う。だから、ホヅミに嫌いにならないで、と言われて少し心が痛んだ。でもハヅキはすぐに思い直した。あの流れ者が来てからおかしくなったんだと。

ハヅキの住むヒノキの里を目の前に、ハヅキは立ち止まって振り返る。山の木々に遮られて見えないけれど、この向こうにホヅミのいるイナホの里がある。視線を落として、ハヅキは考え込む。どうしたら、以前のように皆で、ホヅミと一緒に楽しく過ごせるだろうか。あのギスギスした雰囲気だけはそうしても慣れそうにない。少しして顔を上げたハヅキの目は何かを決心したようで不安や迷いの色が薄くなっていた。


 駆け足で家に向かう。これからすることを、頭の中で

「あのさ、相談があるんだけど。」

ハヅキは思い切って、両親にイナホの里でのことを話し、

「おれ、イナホの里の流れ者を追い出したらいいと思うんだ。けど、どうやったら上手く追い出せるか思い付かなくて。ホヅミが怪我したりするの嫌だし。」

とこれからのことについて相談する。


「ああ、あの流れ者か。」

そう言ってハヅキの父は考えこむ。その姿に、大人は大人で何かあったんだろうか、とハヅキも感じるものがあった。

「何か聞いてる?」

「いや… イナホの里に流れ着く前にも、似たような問題を起こしていたらしい。」

溜息と共に、ハヅキの父は言う。

「え? それって、どんな?」

「イナホの里の話も聞いている。」

そう言うと、ハヅキの頭を髪がくしゃくしゃになるほど撫でる。

「あとは大人に任せておきなさい。」

気になることはあるだろうけど、決着するまで待つように。そう言い残して、父親は家を出て言った。訳が分からない、とハヅキは母親の方を向いて、

「父さんどこ行ったの? 話しまだ終わってないのに。」

そう不満を口にする。

「イナホの里にいる流れ者は問題にはなっていたのよね。でも、他の里のことだし、って二の足を踏んでいたのよ。」

「母さんは、何があったか知ってるの?」

申し訳なさそうに言う母親に、ハヅキは首を傾げながら尋ねる。


「…氏神様に切りつけたとか、なんとか。」

「は? それホント?」

「噂よ噂。けど、前に市が立った時にイナホの里の者が言っていたそうなのよ。神様への不満や非難の言葉を。」

困ったような顔の母親を見詰めるハヅキの目は驚きに染まっている。


人間や鬼などの亜人たちの関係は平等で、特に仲が良い場合もあるが、そうでない場合でも不干渉は約束されている。個人間のケンカは稀にあっても、戦争になるような諍いは存在しなかった。早い話、平和なのだ。

そうしてその人どもの上に立つのが神族。世界を創った神々だった。世界の中央の山の頂に神々の(おさ)たちが住まい、各集落にその一族を守護する氏神が住み、祀られている。いわゆる里長の位置に座していた。

その、氏神に。


「あ、それで逃げてきた、とか?」

よりにもよって氏神に切りつけるなど。仮にそれが尾ひれのついた噂だったとしても、それに近い何かが起こっていても不思議ではないのかもしれない。と、イナホの里の雰囲気を思い出したハヅキは妙に納得する。

「逃げてきただけならまだいいのだけど。」

「何かあるの?」

「まだ、分からないわ。ヒノキ様のご機嫌がここの所良くないでしょう?」

困ったように、母親が言う。

 ヒノキ様、このヒノキの里の氏神様のことを思い出してハヅキは頷いた。

「うん、そう言えばヒノキ様はあの流れ者が来たくらいから機嫌が悪かったかも?」

「きっとイナホ様方からお話を聞かれたのよ。」

そうか、と呟いてハヅキはイナホの里がある方へ視線を向ける。ホヅミは大丈夫だろうか。思っていたよりも厄介そうな存在に、ハヅキは不安になる。


 父親に相談した次の日に、大人たちがどうにかする約束をしてくれたから、決着するまでは大人しくするように言われたことをホヅミに伝えに向かう。しばらく遊びに来れないけど、流れ者の件が落ち着いたらまた遊ぶ約束をして、その日はすぐに別れた。


あれから数日。日に日に大人たちの様子が変わっていくのを、ハヅキは不安げに見ていた。イナホの里と同じだ、ハヅキは呟いた。両親に聞いても、詳しいことは答えてくれない。漏れ聞こえてくるのは、あの流れ者が次第にイナホの里で力をつけてきているらしい、ということ。

イナホ様を中心に今までの秩序を守ろうとしている者どもと、流れ者と一緒になって秩序を破壊しようとしている者ども。このヒノキの里は、基本的にヒノキ様、イナホ様に従い続けるという結論になった。はずだった。

それがどういう訳だろう。日を追う毎に、一人また一人と意見を異にするものが出てきたのだ。里に漂う険悪さは、その現れだ。

「これ… 決着すんの?」

いがみ合うようになった大人たちを見詰め、ハヅキは溜息を吐いた。

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