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鬼人の恋  作者: 渡邉 幻月
鬼ノ部 其ノ参 崩れ落ちた世界秩序のその先のために
36/72

終. 神域開放

「あら! 鬼さんじゃない。」

イブキが横穴を覗きこむより先に、中からうら若く可愛らしい顔立ちの女だった。

「よく見たら、人も一緒に居るのね? 和解したのかしら?」

イブキが何も答えられずにいると、それに構わず周囲を見渡して女は続けた。

「和解… って?」

「おや? あたしたちがこの岩屋戸に籠ってから、どれくらい経った?」

反応の薄さに女は首を傾げて問う。

「そうですね、約三千年ほどかと思います。人族にはもう正しい口伝は残っていないでしょう。鬼族も、さすがに当事者は全て亡くなりました。寿命で。」

ミサキが女の問いに答える。なるほど、と頷くと、

「それならあたしが誰かも分からないよね。あたしはウズメ。親神から芸能を司るよう申し渡された神だよ。」

と楽し気に名乗った。

そうして横穴から完全に姿を現した彼女は、ふわりと宙に舞う。花の(かんばせ)、薄衣を纏った艶やかな女神だ。一同をにこにこと眺めている。


「アマハラ王国の公爵と王太子がご挨拶申し上げます。」

一歩前に出た公爵が深々と(こうべ)を垂れ、跪いて述べる。捜索隊の面々も、公爵たちに倣って跪く。また、彼らに続いて、

「鬼族のミサキとイブキにございます。」

ミサキとイブキも跪く。

「うむ。此度はなぜこの岩屋戸の封印を解いたのか聞いても良いか?」

ウズメに問われ、これまでの経緯をミサキと公爵が説明した。

 魔王が何らかの理由で消えたこと、忘却の呪いが発動したこと、瘴気が収まらず難儀していること。

「まあ、そうなのね。残念だけどあたしは芸能の神、この世のことに干渉するにしても越権も甚だしい。」

「しかし…!」

ウズメの言葉に、公爵の顔色が変わる。焦りを滲ませ、縋ろうとしたところで、

「みんなを呼び戻してからにしましょうか。」

と、にやりとウズメが笑う。


「みんな、とは?」

「八百万の神々ですね。アメノイワヤトの封印は解けた訳ではなかったのでしょうか?」

先ほどからウズメ以外の神の姿を目にしていないことに気付いて、ミサキは大きく口を開けたままの横穴を見つめた。何かが潜んでいる気配も無い。

「ほとんどの上級神はさらに奥の世界に籠っていらっしゃるわね。特に三貴神に御出で頂かないと。あたしには芸事以外には決定権がないものね。」

じゃあ、少し待ってね。そう言ってウズメはさらに上空へ上ったかと思うと、

「さあ御出で。」

そう言って舞い始めた。


ウズメの言葉に反応するように、横穴から女神たちが数柱飛び出した。そうしてウズメと共に舞ったり、楽器をかき鳴らしたりし始める。

 どこからともなく、薄紅色の花びらがひらひらと舞ってくる。花のような色に染め上げられた比礼を振り舞う女神たちのなんと華やかなことか。軽妙で楽し気な音楽が響き渡る。そこが草木も生えていなかった山の中腹だったことなど、忘れてしまうような女神たちの舞と楽し気に笑う声。

 横穴から、そんな雰囲気に似つかわしくない地響きが聞こえたかと思うと、そこから幾柱かの男神が顔を出した。

 ウズメの目配せを受け、男神たちも女神たちの輪に混ざり、歌い、楽器をかき鳴らし、踊る。まるで宴が開かれているように、より一層賑やかになっていった。


「そなたたち、騒がしいぞ。」

厳かな声が響いた。最後にアメノイワヤトから姿を見せたのは、兄弟神である月夜の神と大海原の神を率いた天地照らす大神であった。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

この続きは、其之二のざまあ編に繋がるので、人ノ部の其之参までお待ちください。

次は人ノ部になります。

時間を遡って、「流れ者は誰で、結局何をしたか」が其之一、

「聖女召喚はなぜ行われるようになったか」を其之二、

最後の其之参でだいぶ引っ張った、最終的なざまあ編となります。


人ノ部 其之一は16日から順次公開します。

まだまだ続きますが、お付き合いいただけますと幸いです。

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