五. 二代目魔王
「瘴気も濃いですし、長居はしないようにしましょう。書庫と、魔王の私室を探しましょうか。…二手に分かれるのも止めておきましょう。ミナヅキの城ならそれでも良かったでしょうが…」
荒れ果てた城を見上げ、ミサキが言う。廃墟となっているからなのか、瘴気が漂っているせいなのか、ミナヅキの城に比べて不穏な気配のする様子に彼も少し怯んだようだった。
イブキは頷き、ミサキと共に城内に歩を進めた。
不幸中の幸いだったのは、戦闘になったら面倒な強敵が住み着いていなかったことだろうか。弱い魔物は、二人に怯えて逆に近寄ってこないので、探索はさくさく進んだ。
内部も荒れ放題で、漸く見つかった書庫も蔵書はほとんど読めない状態だった。中身を確認できた物でもこれと言って呪いで消された形跡もない。魔王の私室だったらしい部屋も見付かったが、やはり荒れている。他の部屋よりは少しだけマシな状態なのは、どういった理由からだったのか。
「他の部屋より魔王の魔力が染み込んでいる分、劣化が遅かったのでしょうかね?」
部屋の中を見渡してミサキが呟く。そんなもんなのか? というイブキの問いには、ただの推測です、と肩を竦めて答えた。
この部屋には本棚は無く、ベッド横のサイドテーブルに朽ちかけたノートのような物があるだけだった。
「目ぼしいのはあれくらいか?」
クローゼットを開けてみるが、空っぽでイブキが溜息を吐く。
「そうですね…」
そっとサイドテーブルの紙の束をミサキは確認する。
『許すものか、…リ…』
『ヨ…は哀れな… この… **として…』
『****など、なんて…』
『神を… とは、…の罪が』
「駄目ですね… ここにも呪いの余波はありましたが、それ以上に痛みが酷い。」
ふう、と息を吐いてミサキが上を向く。紙が朽ちて文字が書けていたり、インクが滲んだり消えかかっていたりと、読み解くのに神経を使ったようで目頭を押さえている。
「そうか。じゃあ、ここから離れるか?」
「そうですね。ここにはこれ以上の物は無いでしょうし。」
それに何より長居したい雰囲気ではない、と二人は頷き合う。探索は一日で終わった。
二人は逃げるように城を後にし、来た道を戻る。次に口を開いたのはある程度城から離れて、野宿をしようとなってからだ。
「そう言えば、呪いの余波があったって言ってたよな? やっぱり禁呪だったのか?」
「少し違うような気がします。前後の文脈ではまた別の何かのようでしたね。」
「へえ? でもそうなると… やっぱり気のせいにはできないよな。」
「そうですね。もう一つ、もしかしたら他に何かあるかもしれないですが、ある程度はっきりさせないといけませんね。」
一息吐けた、とばかりにイブキは力を抜く。ミサキの表情からもこわばりが消えた。
「それにしても… 瘴気のせいか落ち着かなかったな。」
伸びをしながらイブキが言う。確かにそうでしたね、とミサキは頷いた。
「もう一度ミナヅキの城を確認して、収穫があっても無くても一度集落に戻りましょう。」
「そうだな、長老への報告も必要だしな。」
この先の予定をざっくりと決めると、見張りを交代しながら夜を明かした。
戻りも一月半で進み、ミナヅキの城へ戻る。一度通った道であるからか、往路よりは体力を使わずに走れたなと、城門を見上げながらイブキは考えていた。
「まずは魔王の私室ですね。」
ミサキはそうイブキに声をかけ、城の中へ進んだ。




