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鬼人の恋  作者: 渡邉 幻月
鬼ノ部 其ノ参 崩れ落ちた世界秩序のその先のために
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二. 魔王城へ

「では、行ってまいります。」

旅支度をしたイブキとミサキが集落に残る鬼たちに挨拶をする。


 あの後、魔王城には誰が行くのかとまた相談が始まり、延々と話し合いが続きそうな気配にげんなりしたイブキが立候補した。そうして集落で一番の鬼術の使い手であるミサキがともに旅立つことが決定した。

数日かけて旅の準備をし、その日がやって来た。


「人族に遭ったらすぐに逃げるんだよ。」

心配性な老鬼たちが口々に声をかける。分かった、分かったから、とイブキは答えて回り、集落の外へ出るだけで、どっと疲れたと呟いた。

「イブキは翁や媼たちに人気ですねえ。」

ころころと鈴のような声でミサキが笑う。なんだかんだと世話をやいてしまう性分のイブキは老鬼だけでなく子供たちからも好かれていた。今回も、事と次第によっては危険な旅になるだろうことを予測しての立候補だったのだろうと、ミサキは考えている。本当に損な性分をしている、と、ミサキは生暖かい視線をイブキに向けた。

溜息を吐いたイブキは、もういいよ行こう、と歩を進めた。


 目指すは、三代目魔王が居を構えていたという城だ。


「魔王かぁ。あんまり関りがないから、どうしたものか。」

魔王城は集落から見て北の方角にあるのだそうだ。人族の足なら数か月は必要だろう道程も、それでも鬼族の足なら一か月かからずに到着するだろう。

 魔物が居ても頑強な鬼族からすればただの獣も同然で、イブキは片手間に倒していく。どちらかと言うと、まだ見ぬ魔王と対峙することの方が問題であった。

「鬼と人との混血らしいですが。実際どうなのでしょうね?」

「詳しくねえの?」

「魔王に関しての文献は、実はあまり無いんですよね。初代ハヅキと三代目ミナヅキは厭世的で城に引き籠っていたようですし。二代目に関しては人族と抗争してばかりで、こちらとしては飛び火しないよう関わりませんでしたから。」

ミサキは肩を竦めてイブキに答える。

「二代目に至っては名前も分からない感じか。」

「そうですね。そうは言っても三代目のミナヅキが魔王と成る以前に居なくなっていますから、今回は関係ないでしょうし… そうなると名前も、ね。」

「確かにな。じゃあ、そのミナヅキって魔王がどんな魔王なのかだよなあ…」

せめて、鬼族に対して敵意が無ければいいのに、とイブキは願う。


忘却の呪いだなんて、一体何を忘れさせられたんだろう。


夜を迎える度に、イブキは考える。いったい何を忘れてしまったのか。鬼族の誰かではなさそうなのが救いである。何度目かの夜を迎えた時に、

「…おそらくですが。」

と、ミサキが神妙な顔つきで声をかけてきた。

「なに?」

「忘却の呪いで何を忘れたのか、ですよ。ずっと気にしていたでしょう?」

「あ、まあ、そうだけど。気付いて、た?」

「顔に出ています。それで、私の予想なのですが、鬼術の内の何か、だと思うのです。」

顔に出ていたとハッキリと言われイブキは少し恥ずかしく思うが、ミサキの言葉を大人しく聞くことにした。

「鬼族の誰かでも歴史でもない、生活にかかわる技術でもなさそうだというのが、ここ数日考えた結果です。他の亜人たちのことも覚えていますし。では、何か。確かに忘却の呪いは私たちに対して発動しているのです。」

そのミサキの説明を聞いて、イブキは頷いた。確かに、忘れた感覚はある。けれどこうして旅は出来るし野宿も問題ない。魔物だっていつも通り倒せている。じゃあ、何を忘れたのか。旅立つ準備をする間、誰も何も困っていなかったのも確かなことだった。

「実は、準備中にいくつかの文献に目を通していたのですが。」

と、イブキの思考を破るようにミサキが言葉を続けた。

「その中である部分が、鬼術について記されていたはずの部分が墨で塗りつぶしたようになっていました。そこからは忘却の呪いの気配が感じられたのですよ。」

「それじゃあ…」

「呪いの対象の第一候補は、そこに記されていたはずの鬼術でしょう。」

「…そうか。皆に言わなかったのはなんでだ?」

「確定ではありませんし、忘れた内容が鬼術(それ)だけだとしたら、実は影響はないのですよ。それなら、調査の結果は気のせいだったことにできます。」

ミサキのその言葉にイブキは眉を顰める。呪いをかけられたというのに、気のせいで済ませるのかと言おうとした時にミサキが先に口を開いた。


「禁呪なんですよ。」

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