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鬼人の恋  作者: 渡邉 幻月
鬼ノ部 其ノ参 崩れ落ちた世界秩序のその先のために
26/72

一. 魔王三代

「三代目の魔王、ですか?」

「鬼族全員に忘却の呪いをかけるなど、簡単なことではありません。近くに居るのであればまた違うでしょうが、それは無いと断言できます。…ここまでの呪いだというのに、近隣に全く気配を感じませんし、何より誰にも気付かれずに呪いを発現させるなど…」

ミサキは難しい表情で説明する。

「しかし、魔王がなぜ我々に呪いをかけるのです? 人族に対してなら分かりますが…」

「何を忘れさせられたのか、が、分かれば理由も分かりそうなものですが。」


「ここで話し込んでも何も解決しなければ、結論も出ないであろうな。」

ミサキの背後、長老の館の方からしわがれた声がする。その場の鬼たちの視線が集まる。

「長老…」


「三代目の魔王は、初代や二代目と違って人も鬼も区別なく避けていたからな。」

そう、長老は続けた。

「避けていた? しかし、人族とは抗争状態だったかと思いますが?」

「あれは、人族が勝手に戦を仕掛けていただけだな。…人族は何が気に入らぬのか、我ら鬼族を始めとした亜人にも戦を仕掛けている。魔王も同じだろう。」

溜息を吐いて長老は答えた。

人族との戦に飽いて、亜人たちはより僻地へと移動していた。もちろん鬼族も例外ではない。深い森や崖を隔てて出来るだけ人族と交わらないように暮らしてきていた。キリがない戦にかまけるよりは、逃げた方が良いと判断したからだ。

人族は“神殺しの一族”だと、長命種である亜人たちは覚えている。神をも殺す人族とどうして仲良くできるだろうか。


…では魔王は。初代の魔王となったのはハヅキと言う名の鬼族の青年だったと言われている。それは今から千年ほど昔のこと。未曽有の災害の後、人族が荒ぶり神を殺した時代に魔王として立ったという話だ。とは言え、世界の果てに城を構えその頃から生まれ始めた魔物を支配しただけで何かをした訳ではない。人族は警戒していたようだが、魔王から何かをすることは無かった。

 二代目の魔王は人族だったようだ。初代魔王と入れ替わるように君臨した魔王は、人族と相争い、良く分からないままに居なくなった。二代目の魔王は、亜人には見向きもしなかったこともあり、存在した、という事実以外分かっていないことが多い。

 そうして三代目の魔王、鬼族の血を引く彼は、自ら魔王を名乗ったそうだ。彼の父鬼と顔見知りだった男が、魔王となった彼と相対した時に聞き及んだそうだ。

 ただ、所在なく流れ着いた二代目魔王の居城、当時既に廃墟となったその場所に居ただけの彼を、偶然遭遇した人族が魔王と呼んだことが始まりだという。特に亜人に対して何かをするつもりは無いから放っておいて欲しいという魔王の言葉を持ち帰り、男は亜人たちに伝えた。余計な争いはしないに越したことはない。亜人たちは頷き、魔王とは互いに不干渉を貫くことにした。


 その、魔王が。いったいどのような理由で呪いをかけてきたのか。

「魔王が本当に我々に呪いをかけたのでしょうか。人族がまた、何かを召喚したのでは?」

「…異世界の人以外を、か?」

「なんにせよ、魔王が何か知っているかもしれないのは確かでしょうな。」

鬼たちは一度魔王城へ赴き呪いについて魔王に確認しようと決め、この場の話し合いを終わらせた。

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