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鬼人の恋  作者: 渡邉 幻月
鬼ノ部 其ノ弐 無理矢理召喚された聖女と魔王の仄暗い復讐譚
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六. 魔王の居城

 魔王の城はそれはそれは遠いところに在った。早馬で駆けようと、そう簡単には辿り着けぬほど遠い場所。

「勇者御一行が来るまで、半年以上はかかるだろう。あのペースならもっとかかるやもしれんが。」

一瞬で城について、***に部屋を宛がう時に魔王はそう言った。

「暫くはゆっくり出来るだろう。」

暫くは。それでは勇者御一行がここに到着したら、その時は。

「勇者が来るまで、ってこと?」

「その際は、一時的に騒がしくなるだろうな。」

「それもそうね。」

***は彼らの顔を思い浮かべて溜息を吐いた。

「茶を用意しよう。着替えたら中庭においで。今は蓮の花が綺麗に咲いている。」

魔王は***の頭を撫で、そう言い残して一度別れた。


 一見、シンプルではあるがその実洗練されたデザインの家具類に***は魔王のセンスの良さに気付く。素材も良いものを使っているのが分かったので、王城で宛がわれた部屋との差に微妙な気持ちになるのだった。

「魔王の方がセンスいいのかあ。」

呟いて、***はベッドに身を投げた。行儀が悪いのは分かってはいるが、今だけ、と自分に言い訳をする。やっと解放された安堵感に、体の力は抜けきっている。魔王の城に居るというのに、この世界に来て、初めて心が休まるのを感じていた。…仮に魔王に利用されているのだとしても、別に良いとさえ思っている。尤も、あの魔王はそんなタイプではなさそうだと、***は感じていた。たった二度会っただけの相手を、思いの外信頼しきっていることに気付いて、***はくすりと笑った。


「帰る手段、知ってたらいいのになあ。」

***は呟く。魔王なら、人間たちの知らないことも知っているかもしれない。人間には使えない瞬間移動のような魔法も使えるのだから、もしかしたら、と***は淡い期待を(いだ)く。でも調べた理屈に間違いがないのなら魔王にも無理かもしれないし、過度に期待をするのはやめておこう。と***は目を閉じた。

 ベッドに横たわったまま、深呼吸をする。良し、と一声呟いて***は起き上がった。お茶に誘われているのだ。魔王の用意してくれた、これまたセンスも仕立ても良いワンピースに着替えて***は中庭を目指した。


 城の作りは、要塞に近い武骨な印象だと***は思う。黒い石が何かは分からないけれど、石造りのこの城はそれでもやはり武骨なのにどこかセンスの良さを感じる。変に飾っていないからかもしれない。必要最小限の、それでも質の良いもので装飾している。異世界版の侘び寂びとか言うのかな、と中庭に向かう間***は周囲を伺いながら考えていた。


 中庭は花園と蓮が咲き乱れる池があった。花園には黒い百合、黒い薔薇も咲いている。うっすらと桃色に染まる蓮の花を見て、***は魔王が黒くない花を推したのだろうなと察する。百合も薔薇も黒い花の花言葉は物騒だったと記憶している。魔王がそこまで考えていたかは分からないけれど。

 別に黒い百合も黒い薔薇も綺麗なのに。復讐だとか呪いだとかの花言葉も、今の心境にはだいぶ合っているのだし、部屋に飾るように少し譲って貰えないか後から交渉してみようと***は考えてながら蓮の花を横目に、四阿へ向かう。

「お待たせ、魔王。」

ぼんやりと蓮の花を眺めている魔王に***は声をかけた。椅子から立ち上がって、魔王は***をエスコートする。こういうところがあの王太子たちと違うのだ。比べても仕方がないし、もう縁はぶった切ったはずなのだから考える必要も無いのにそんなことが頭を過ってだいぶ毒されているのだなあ、と***はガッカリした。


「少し、話しをしておこうと思ったのだ。私のことを。」

魔王はそう言った。その様子から、***は大事な話だろうと姿勢を正した。

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