五. 魔王と聖女 再会
満月が冷ややかに輝く。天上に輝く星々も、どこか冷たく煌めく。上空はとても澄んだ空気に満ちているのだろう。空を見上げて、***はぼんやりと考えていた。
今夜は約束の夜だ。決心は付いていた。もう、ここには居られない。次の聖女が召喚されたら、その子が可哀想だと考えもしたが、どうやら事はそれほど簡単ではないらしい、ということを知るに至って心は決まった。
聖女召喚はそう気軽にできるものではなく、当代の聖女が存命中の間は勿論のこと、命を落とした後次の召喚まで十数年はブランクがあるらしい。異世界と空間を繋ぐため必要な魔力を集めるのに時間がかかるのと、あまり頻繁に異世界と空間を繋ぐと時空のバランスが崩壊してしまうからだとか。最悪時空のバランスが崩壊してしまうと、全ての命が地獄に落ちると言われているそうで、聖女召喚は厳密に管理されている。
魔王と別れた後、***は改めて聖女について、魔王について、勇者について、この世界についてを学んだ。王太子に嫌味を言われようと、雑務を押し付けられようと、どうにか調べ上げた。
「ホント、良かった。」
***は呟いた。自分が逃げたせいで他の誰かが犠牲になるのは、流石に寝覚めが悪すぎる。国民たちも良い人はいるけれど、それでもどこか聖女に助けてもらって当たり前の空気が流れている。頑張っても報われないのは、異世界に無理矢理召喚された身としては不満に思ってもしょうがないと思うのだけど、と***は溜息を吐く。
取り敢えず、魔王の所で長生きしよう。次の聖女が呼ばれる頃にはせめて今の王族が居なくなってからになるように。それはちょっとした意趣返しでもある。成功しますように。と、心の底でひっそりと希う。
それにしても、日本との関係性までは分からなかった。歴代の聖女の名前から、日本から召喚されている所までは分かった。では、どうして日本からだけなのだろう。この世界と、地球の日本との間に何か関係があるのだろうか。…でも、魔王の衣装は和服っぽいデザインだったけれど、王族から市民までは多国籍で和服とも洋服とも言えないし、建物も和洋折衷な節操の無さ。日本製のゲームの中、だから日本人ばかり召喚されるということなのだろうか。ゲームではなくて小説とか漫画とかなのだろうか。寡聞にして知らないな、と溜息を吐く。友人に勧められた時にもう少し関心を持っていればこの状況をどうにか出来るアイデアが浮かんだのだろうか。
取り留めも無く夜空を眺めながら考え事をしていると、風が吹き抜けていった。風に攫われるように辺りの気配が消えた。魔王の結界だろう。これに気付かないのだ、当代の勇者様御一行では魔王には勝てないのではないだろうか、と***は考える。彼女にとってはもう、今更のことであるが。
「魔王?」
***は問いかけた。
「…決心は付いたか?」
***の目の前の空間が歪んで、そうして一か月前の夜に出会った魔王の姿が現れた。瞬間移動と言うのだろうか、空間を歪めているのだろうか、なんにしても魔王の魔法は便利だなあと***は思う。
「決心って言うか、ね?」
***は、あの時渋った理由を話した。
「…そうか。他人の不幸を望まぬのなら、悩みもするな。」
「でも、私が生きている限り次の聖女が呼ばれることは無いみたいだから、一緒に行こうかなって。」
「なるほど。」
ふ、と二人は微笑み合った。
***は差し出された魔王の手を取った。つむじ風が二人を包んで、そうして。
後にはもう、***の居た痕跡は無くなっていた。
勇者たちが聖女の不在に気付くまで、あと――…




