終.六道輪廻
あの日、故郷に別れを告げてからどれだけの時間が過ぎただろうか。鬼は成人するまでは人と似たような速度で成長するが、その後の変化はひどく緩やかだ。そうして、一度死んだホヅミはもう成長しない。代り映えのない生活が続いている。
季節の変化を五つくらい数えたあたりで、他の人の子も鬼の子も合流する気配がない。そのことに疑問を持ったホヅミに問われたハヅキは、
「それぞれ避難しているんだよ。子供だけで固まっていると見付かりやすいだろ?」
と、とても良い笑顔で答えた。
一度はそれに納得したホヅミだったが、何年経っても里に戻らないことも不思議に思いハヅキに問いかけようとして、その言葉を呑み込んだ。
果たして、ハヅキの笑顔は“こう”だっただろうか。目が、笑っていない、ような気がする。いつからこんな風に笑うようになっていたのだろう? と。
「どうしたの?」
優しく声をかけてくるハヅキに、ホヅミは何でもない、と返した。
ハヅキの目の奥にある感情はなんなのだろう。自分を見て、自分への愛情を湛えているのは間違いないのだろうけれど、それ以外にも、何か別の、薄ら寒い何かが潜んでいるような。自分を見ているようで別の誰かを見ているような。
そう言えば、あの日、もう遠い昔になった、あの日。本当は怪我などでは済まなかったのではないだろうか。思い出そうとしても記憶を切り落とされたように真っ暗で、何一つ思い出せないけれど、ハヅキを見つけた瞬間に首に感じたあの感覚は。
思い出そうとする度に、体が震える。怖くて怖くて仕方がない。あの日最後に見た、ハヅキの顔は…
ホヅミは時々空を見上げている。それはどこか虚ろな、何も映していないような目で。名前を呼べは、振り向いて笑顔で答えてくれる。手を握れば握り返して、抱き締めれば抱き締め返す。それに安心して、同時に何故か恐怖を覚える。ホヅミが空を見上げることが多くなるにつれ、比例して恐怖も大きくなる。
ホヅミがどこか遠くへ行ってしまうような、そんな恐怖だ。
「ホヅミ、君とおれはずっと一緒だよな?」
「うん、そうだね。ずっと一緒だね。」
思い出したように繰り返す言葉に、何かが擦り切れていくような感じがして、言葉で言い表せない焦燥に駆られる。
死んでも一緒だ。死ぬときも一緒だ。そう何度も自分に言い聞かせるハヅキ。
何れ来る終わりの日の足音にハヅキは怯え、同時にそれを待ち望んでいる。ホヅミと二人、六道を巡る夢を見る。
「ホヅミ、ずっと一緒だ。」
お付き合いいただきありがとうございました。
こちらで『鬼ノ部 其之壱 運命を覆すため我は禁忌の扉を開く』の完結になります。
伏線回収は今後それぞれの章でしていきますので、長くなりますがお付き合いいただければ嬉しいです。
4月からは『其之弐 無理矢理召喚された聖女と魔王の仄暗い復讐譚』が始まります。
こちらは再度加筆修正しつつ、毎日更新していく予定です。
引き続きよろしくお願いいたします。




