レベル8 ヒャッハー
う、ううう……ゴン吉、スラ蔵……
「……は!」
気づくと。
俺は知らない天井を見上げていた。
チュンチュン♪ チュンチュン♪
障子からボンヤリとした日光が射し、どこからか鳥のさえずる声がする。
白くパリっとしたシーツの感触。
それで俺は、自分が布団の上にプニっと横たわっていることを知った。
そうだ。
最長老の家に泊めてもらっていたのだっけ。
ってことは、あれは……
「はぁ、夢か」
そりゃそうだよな。
ゴン吉やスラ蔵はとっくの昔に経験値になっていたはずなんだから、夢じゃなきゃ会えるはずもない。
でも、たしかあのあと修行しに外へ出て行った気もするのだけど……
ガラ……
そんなふうに考えていたとき、障子が開いて、メスのスライムがこちらをのぞいた。
「スラさん。お目覚めですか?だいぶうなされていらしたけれど……」
彼女は昨日お酒を燗してくれたメス……
たしか、最長老の息子さんのお嫁さんだっけ。
「ええと……こ、これはどうも……若奥さん……その、ええと」
あいかわらずメスの前では緊張してしまう俺。
若奥さんは『くすり』とひとつ笑って、大きなお尻の居ずまいを上品に正してから言った。
「義父はもうお勤めに出てしまいまして、ただいま不在でございます。『できればスラ様には今晩も泊まっていってほしい』と、義父は申しておりました。今日もゆっくりと旅の疲れを癒してはいかがでしょう?」
あの白ヒゲ。
最長老というわりに働きに出てんのか。
え、ってことは……
「じゃあ。今この家には」
「え?……あ、はい。今はスラさんとわたくしだけしかおりませんわ」
ティーン!!☆☆
なんと!
俺の『同じ屋根の下理論』がここにきて実現するとは!
昨日の姉妹のような10代のピチピチしたメス・スライムもいいけど、若奥さんみたいにうっすら脂肪がのったスライムもたまんないよね!
「お、奥さん……」
「はい?」
こうして俺は、若奥さんの方へすり寄るために布団から起き上がろうとしたのだが、そのとき。
そよ……
にわかに縁側から風が吹き入り、かすかに線香の香りが鼻をくすぐった。
近くに仏壇でもあるのだろうか。
「線香?これは……」
「夫のですの」
そう聞くと、俺はもうシュンとなって、情熱が180度回転してしまった。
そう。
よく考えてみれば、若奥さんには経験値になってしまった旦那さんがいたはずなのだ。
それによく考えたら、ここにもう一晩泊まるというのはちょっと遠慮ねがいたい。
やっぱりこのスライ村にいると、ふいにゴン吉たちのことを思い出してしまう。
それはちょっとツラいのだ。
「引きとどめてくださるのは嬉しいのですが……」
俺はそう言いつつ、ようやく布団から這い出たのだが、そのとき。
「きゃっ!」
「え?」
若奥さんが綺麗なスカイブルーの顔を真っ赤にして目をそらした。
「どうしたんです?」
「いやっ!寄らないで」
どうしたもんかなーと思ってふと横を見ると鏡があって、俺はビックリ仰天した。
俺の頭の尖りが……ツーンと勃って、これでもかってくらいムキムキっとしているではないか!
「ご、誤解です!これは朝だから仕方なくって……」
「そ、そんな野獣のような目で見つめないで!わたくしには経験値になった夫が……」
と、若奥さんはダッっと縁側を走り去っていってしまった。
「はぁ……」
あーあ、けっきょく嫌われちゃった。
つーか今気づいたんだけど。
ひょっとして俺ってモテないのかな?
◇
『おじゃましました』
俺はそう書き置きを残して、最長老の家を出た。
昨日は夜で暗かったからわからなかったけれど、明るくなってあらためて眺めてみると、村の風景は400年前とだいぶ違っている。
家はじょうぶそうだし、道も整備されていた。
400年もたっているのだから、当たり前と言えば当たり前か。
いよいよ俺のいる場所はないな……
そんなふうに思って村を歩いてゆくと、村の畑でスライムたちが働いているのが遠くに見えてきた。
みんなで一生懸命働くのはイイことだよね……と思いながら眺めていたのだけれど、すぐにちょっと様子のおかしいことに気づく。
というのは、どうやら畑にいるのはスライムだけではないのだ。
いや。多くはスライムなのだけれど、何匹かやたらとデカいのがいる。
スライムじゃない。
「なんだ?アイツら……」
俺は、物質操作能力で自分の眼球の形を変え、遠くの畑に焦点が合うようにした。
キュイーン……☆
すると、スライムたちの畑の間に、デカいモンスターが威張った感じで立っているのが鮮明に見える。
ずんどうな巨躯。
醜い豚鼻。
そう、あれは……オークだ!!
「なんでスライ村にオークが?」
オークと言えば、完全に中級冒険者が相手にするモンスターじゃないか。
俺はそぉーっと畑へ近寄り、さらに様子をうかがうことにする。
すると……
「ひゃっはー! 働けスライムども」
「休んでんじゃねー!」
「ひー」
「ツラいよお」
なんと!
スライムたちがオークにむりやり働かされているではないか!!
「ひい、腰が……」
そのなかには白ヒゲの姿もある。
「チッ、使えねえジイさんだ。どけどけ!」
そう言って、一匹のオークが白ヒゲを掴み畑の外へ放り投げた。
ポイッ! ぽよん、ぽよん、ペシャン……
「う、うう……」
伏せて呻くジイさん。
こ、こ、こ……
「こらー! スライムをイジめるなー!!」
俺は、頭で考える以前にびよーんと身体が前へ出てゆくのを感じた。
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