レベル5 スライムのメス
やった! 勝ったぞ!
どうやら俺はもう、ゴブリンくらいなら相手にできる力を持っているらしい。
しかも複数!
これでもう、あんなスライム相手にしか威張れないようなヤツらにイジメられることもない。
うう……400年もキツい修行を続けてきてよかったなぁ。
「あのぉ……」
「え?」
そんなとき。
声をかけられて振り返ると、若くてピチピチなメスのスライムがぷるるん♡とゆれて立っている。
そうだ。
このコを助けるために戦ってたんだっけ。
「助けていただいてありがとうございます。どうお礼をしたらいいか……」
「お礼?」
お礼か……
じゃあさ、お礼にちょっと『プニプニ』させてもらえないだろうか?
そう。
人間のメスには発情しない俺も、スライムのメスには発情するのである。
しかし、
「え、あ、その……いやぁ(照)」
「?」
いかん……
メスを目の前にすると頬がカッと熱くなって、動きがヘンになる。
400年もの山ごもりは俺の戦闘能力を少なくともゴブリン以上にはアップさせたようだったが、メスへの耐性はだだ下がりに下げてしまったようだ。
なんか身体が火照って溶けてしまいそう……
ふにゃああ
「きゃあ!溶けないでください」
「え?」
ヤバ。一瞬バブリーな感じに変形してた。
毒持ってるみたいに思われたらヤダからちゃんと『凸っ』てしてねーと。
俺は、アタマのとんがり部分をササっと手櫛で直し、身だしなみを整えた。
「だいじょうぶですか?もしかしてどこかケガしたんじゃあ……」
「いや、そんなことは……ない、デス」
「顔も真っ赤ですし」
俺のキョドった感じを不審げにのぞきこんでくるメス。
うう……近い。
若いメスのええ香りするわぁ。
マジでプニプニしてー。
……よし俺!
勇気を出して『プニプニさせてください』って言うんだ!!
このコ、さっき俺に助けられたワケだし、きっと頼んだら断れねえって!(ゲス)
あとは言うだけ。
言うだけだ!
「まったく。キミみたいな若い女の子がこんなところでひとり歩きは危ないよ。ちょっかいかけられるのも当然だ」
「す、すいません……」
「しょうがないな。このままじゃ危ないし、よかったらおくっていくよ」
「えっ、いいんですか?」
「遠慮することないさ。同じスライムじゃないか」
「ありがとうございます」
もう! 俺のバカぁぁ!
けっきょく『プニプニさせてくれ』って言いずらいキャラになっちゃったじゃん。
世の中には『おくり狼』というヤリくちがあるらしいけれど、しょせんスライムの俺は狼になんてなれそうもない。
はあ……
このメスに対するヘタレを直さねえと、俺は半永久的に童貞かもしれねーな……
「いけない。もう行かないと日が暮れてしまうわ。おじさん、行きましょ」
しかも!
おじさん、ときたもんだ。
そりゃさ。
たしかに俺はもう若くはねえよ。
山で何百年も修行してきたんだから、老人と言っても過言ではあるまい。
でも、いくらなんでも『おじさん』って……
さっきあんなに一生懸命戦ったんだから、ちょっとくらい男として見てくれてもイイんじゃねーの?
「あのさ。俺の名前はスラだから」
「え?あ、はい。聞いてないですけど、わかりました」
「キミは?」
「はい?」
「キミの名は?」
「あ、私ですか? マチコって言います。おじさんに教えても仕方がないと思いますけど」
「……」
なんか、親切にすればするほど好感度下がっていってね?
一生懸命助けたのに。
「つーかさ……キミ。今いくつ?」
「16です」
まいりました!
おじさん、でけっこうでございます。
「じゃあ早く帰らないと。お父さんとお母さん、心配してるだろう」
「私のお父さんとお母さんはもう初級冒険者たちの経験値に……」
「……そうか」
ちょっとムカっとしたので、もうこの女放っておこうかとも思い始めていたところだったのだけれど、そーゆー話を聞くとやっぱり同調してしまうのが俺たちスライムだ。
「あ、でも。家には妹がいるんです。だからきっと心配しているわ」
妹、か。
俺はスラ子の顔を思い出した。
「で、キミ……じゃなくて、マチコちゃんの家はどこなんだ?」
「ちゃんづけって、キモっ……じゃなくて、私の家ですか?」
一瞬『キモっ』って聞こえたような気がしたけど、俺は自分の心を守るために気のせいだと考えることにした。
さっき助けてもらったばかりの相手に、そんなヒドいこと言うわけないよね!
「私の家は、スライ村ってところにあります」
「なるほどスライ村か……って、ええ!?」
「どーしました?スライムが豆鉄砲喰らったような顔してますけど」
どうもこうもない。
スライ村は、俺のふるさとの名前だった。