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レベル12 最終聖戦のその日まで……



 決して油断していたワケじゃない。


 いよいよオークたちを追い出すという段階になれば、その後ろ楯のボディ・ガードであるらしい『邪龍眼リリト』とやらとは戦いになるだろう……


 と、予測してはいたのだ。



 ボス・オークにの話によればコイツが一番強いらしいし、最後にモノを言うのはやっぱ『力』だしね。


 コイツ包帯だらけでケガしてるようだったけど、一応警戒はしていたのである。



 でも、マジでこんないきなり殴ってくるとは思わんかったわ。


 しかも、


『邪龍王殺天昇拳』


 とか言うから、なにか特別なスキルが発動するのかと思いきや、きわめてシンプルにグーで殴るだけとは……


 完全に裏をかかれたぜ。


 しかも、そのシンプルなグーパンの威力がまさに必殺的なのであった。



 キイイイイン……



 殴られた俺の身体は、オークの屋形やかたを突き破り、外の木々をなぎ倒し、山の斜面に至るまで盛大に吹っ飛ばされたのである。


 おむすび山を下りてから、相手の攻撃をすごいと思ったのは初めてだった。



 ズコーン!!ぽよん、ぽよん……


「……ぐ、ぐぎぎ。なんてパンチだ」


 パラパラパラ……


 そう山肌から起きあがったとき。


「ほう。まだ立ち上がるか」


 !?


 後ろから声がして振り返ると、黒づくめの眼帯、リリトが腕を組んで待っているではないか。


「い、いつのまに?」


「ふ、オレはずっとここにいたぞ。気づかなかったのか?」


 マジか!?


 俺を殴って、吹っ飛ばされる軌道を読み、先回りしてたってこと?


 スゲーけど、でも、じゃあなんでコイツ今たたみかけなかったんだろ?


 たたみかけなかったら先回りした意味ねえじゃん。


「ククク、クク……ククククク」


 なんか笑ってるし。


「クククク……あっはっはっはっは!邪龍王殺天昇拳!!!!」


 リリトの彫刻のように均整のとれた顔立ちが、暴力の愉悦に歪む。


 独眼の瞳孔を獣のように開き、颯爽と拳をふりあげる邪龍眼リリト。



 しかし、今度は来るとわかっているものだから対応のしようがあった。


「うおおおお!」


 !!


 拳の衝撃!


 俺のボディにすごい物理力が加わる。


 が、俺は瞬間、そのヒットポイントの軟体性だけを限りなく高めたのである。


 みにょーーーーん……


 ダメージの代わりに、その部分だけが後方へ伸びていった。


 しかし、攻撃の当たった箇所以外はむしろ硬質化し、質量も高めていたので、その場に残っている。


 ギリ、ギリギリ……


 俺はその場に残ったボディで拳を生成し、リリトの細いアゴを殴りあげた。


 バコぉッ!


「ぬはぁ!!」


 空へすっ飛んでゆくリリトの身体。


 キイイイイン……


 そして、リリトの真似をして、ヤツが飛ばされてゆく軌道を読み、先回りするために俺も空へびよーんっと飛び上がる。


 スチャ……お、意外とできた。


 黒ずくめのボディがボロ雑巾のようにこちらに飛んでくるので、俺はたたみかけるように拳を打ち下ろす。


 バキッ!


 あっ、やべ。


 屋形やかたの方へ落ちてっちゃった。


 屋根ぶっ壊れちゃうじゃん。テヘ♪


 ズコーン!!……


 さて、俺も屋形やかたの方へ降りてゆくと、オークたちが腰を抜かしていた。


「こ、今度はなんだ?……あ、ぶさいくなスライム」


 マジでコイツらにはいっぺんそこらへんのところよぉくわからせてやらねーといかんな……


 と思ったが、今はオークの相手をしている場合ではない。


 パラ、パラパラ……


 床に大きな穴が開き、土ぼこりがたっている。


 この中か?


「ひぎぃ……痛えー、痛えよぉ」


 ?


 なんだコイツ、こんなキャラだった?


 そう思ったとき、床の穴から黒いのが飛び出してきた。


「くっ、こうなれば邪龍眼の力を……しかし、もってくれるか?この腕が……。いや、やむをえん!」


 なんかブツブツ言ってるし。


 打ちどころが悪かったのかな?



 そんなふうに思って見ていると、リリトはおもむろに眼帯を取り外した。


 その下には、パープルに輝く瞳が……



「まさかリリト様!邪龍眼の力を?」


 と外野でボス・オークが声をあげた。



 え、マジで?



「こうなればもう誰もオレを止めることはできない……九紫・邪龍眼百拳!」


 ヤバイ。どんなスキルが……


 バキッ!!


 ……そして、リリトの拳が飛んできた。


「ぼへっ!!」


 ひゅーん……


 くそぉおお!


 けっきょくまた殴るだけかよ!



 しかし、今度は飛ばされながらも、ものすごいスピードで先へ回ってゆくリリトの姿を目視することができた。


 アイツ、また『ふ、オレはずっとここにいたぞ』って言いたいからって先回りしてんだろーな。


 なんかイラっとしたので、俺は身体の一部をみにょーんと伸ばし、並走するリリトの胴体へ絡みついた。


 しゅるしゅるしゅる……


「なに!?」


 ちゅドーン!!


 そして、俺が激突するはずだった山肌へ、ヤツを叩きつけてやったのだった。


「ゆ、ゆるさん!……飛翔紫光爆裂拳!!」


 と言ってまた殴りかかってくるリリト。


 ボコぉ!……


 俺はそれを喰らってしまったが、かわりにヤツのテンプルへフックを喰らわす。


「百烈邪龍拳!降魔天昇拳!ええと……百龍乱舞拳!」


 そう叫びながら次々とすげえパンチを繰り出すリリト。


 俺も負けじとヤツを殴り返す。


「邪龍凶殺邪龍拳!!」


 あ、邪龍って2回言った。


 バキッ!


 ボコ!!


 しかし、それにしてもこうやって殴りあっていると……


 楽しい!


 俺は数百年も一匹で修行してきたのだから、誰かと殴りあうことがこんなに楽しいだなんて知らなかった。


 飛び交う拳。


 汗。


 鼻血……



 こうしていると、相手がまるで数百年来の友のような気さえしてくる。


 コイツ、あんなクソヤローの手下なんかやってなきゃ、愉快でおもしろいヤツだしなあ……



「ぐへぇぇ……あっ、ヤベ。コンタクトが……」


「マジ?だいじょうぶ?」


「はぁはぁはぁ……どうやら今日のところは引き分けのようだな」


「え?別に俺はまだ戦えるけど」


「スライムよ。スラ……とか言ったな。ガイアの導きがあればまた遭うこともあるだろう。最終聖戦ラグナロクのその日まで……勝負は預けておいてやる。さらば!!」


「あ、ちょっ。お前、コンタクト……」


 と呼び止めたが、リリトは去っていってしまった。


 しょうがないな。


 この紫色のコンタクトは体内に保管しておいてやろう。




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