第8話 和解そして
「本当にすまなかった!頭に血が上っちまった」
申し訳なさそうに、ゲンという少年が謝ってきた。
「はぁ…。誤解が解けたようでよかった…」
お互い大した傷もなく戦闘が終わったので、私は安堵の声を出した。
その後、冷静になったゲンからいろいろ話を聞いていた。
ここの廃墟には、6人の子供たちだけで生活しているようだった。
ゲンとシュウは、元々別の領地から来た冒険者クランの荷物持ちであったが、そのクランのメンバーが迷宮で全滅し、ここに取り残されてしまったとのことであった。その後は二人で生活していたらしいが、冒険地区で孤児を見つけては一緒にかくまい育てていたらしい。
それが、ノワール、サイキ、シホ、ナラタという4人だった。
「まさか領主様の息子さんとはね、そっちのおっさんは化け物じみた強さでビビったぜ。どうやって俺のギフトを防いだんだ?直撃させたはずなんだけどな」
「私はジェイグという。君たち二人こそ筋がいいと思ったぞ。【麻痺一喝】は予想していなかったのでくらってしまったが、以前にも受けた事があったので対処法を知っていただけだ。対処法と言っても、単に気合ではねのけるだけだが」
ゲンはジェイグの言葉に唖然となりながらも、強さを褒められ事が嬉しかったようで少し照れていた。
「それよりも質問があるんだけど、さっきはなんで急に攻撃してきたのかな?」
「ああ、そのことなんだがよ。この奥に街で流行っている干ばつに強い小麦の畑を作っていたんだが、先週弟分たち4人で様子を見に向かったところ、知らないローブのやつが一人で何か持ってコソコソしていたらしい。畑が荒れるから注意したらしいんだけど、いきなり攻撃してきたみたいでその時にノワールが怪我をしたんだ。幸いにもサイキが大声を上げたら逃げたらしいから、他のみんなは無事だったんだけどよ…。そいつらの仲間だと思いこんでしまったんだ。すまねえ」
ゲンは思い出しながら、怒りをあらわにしていた。
「ハァ…。まぁ格好も全然違うみたいだし、畑の時は何も言わずにいきなり攻撃してきて逃げたらしいから、あなた達は関係ないとは思っていたんだけど、ゲンは思い込むと突っ走っちゃう頑固者だから…。ごめんなさいね」
改めて、シュウという少女も謝って来た。
「ううん、大丈夫。一度そのローブの人がいた場所へ案内してもらえるかな?」
「ええ、いいわ。ついてきて」
途中で4人の孤児たちも合流し、それぞれ自己紹介を済ませる。
「ごめんな、兄ちゃん。俺が財布を盗んだんだ」
少し小柄なサイキという少年が謝って来た。
「ああ、返してもらったし大丈夫だよ。今度からは人の物を盗んだりしたらダメだよ」
「サイキはバカだから…すぐ忘れそう…」
私の注意に便乗して、眼鏡の少女ノワールがサイキに対して辛辣なコメントをする。
「ふぁ~。おなかすいたね~」
シホという少女は天然なのか、一人呑気な発言をしていた。
「ZZZ…」
(ね、寝ているのか…?)
最後にナラタという一番小柄な少年は眠りながら歩いているように見えた。
大人数になり、少し賑やかな状態で件の野菜畑へ向かった。
案内された場所へ行き、周囲を調べてみたが特別に問題は感じなかった。
若干違和感だったのは、その場所は他よりも少し暖かく感じた。
「そのローブの人間はここで何をしていたんだろう…?」
「分かりませんが、この周囲だけ気温が少し高くなっている気がします」
ジェイグも私と同じ事を思っていたらしい。畑から少し離れた場所を指さしながら発言した。
指がさされた部分を確認していると、一部だけ土の色が違う場所を発見した。
「この部分だけ色が違う気がするけど、何か掘り返したりしたのかな?」
「確かめてみましょう」
そう言いながら、ジェイグはその場所を少し掘り返す。
「これは…」
少し掘ると何やら装置が見える。
「あ…これ…」
ノワールという少女が手をさすりながら、何かを思い出したかのように声を上げた。
「思い出した!この前ローブ着てたやつが手にしてた装置だ!」
そうサイキが声を上げた。
「なるほど…なんだろうこれ?何か嫌な予感がする…。この装置をパルポロムさんへ調べてもらうことはできるかな?」
「かしこまりました」
そう言いながらジェイグは装置を拾い上げた。
「案内してくれてありがとう。ゲンたちはこの後どうするの?よかったら私についてこないか?」
「ん?どういう意味だ?」
「敷地内に倉庫があるんだけど1つ使っていないのがあって、そこを改良してみんなの家にできないかなって思ったんだ」
「へ?そんなうまい話があっていいのかよ?そもそも今日初めて会ったのに俺たちの事なんて信用できないだろ」
「信用はできるよ。説明はできないけどね。ただ父上を説得する必要はあるけど…」
「ラフィアット様が信用されるのであれば、私からも頼み込んでみましょう。特にこの二人は強者の素質がございますので、領兵になるのであれば私も賛成です」
「ありがたい話だが、俺の一存では決められない。みんなはどう思うんだ?」
ゲンは回りを見まわしながら、皆から意見が出るよう促した。
「私はいい話だと思う。今よりは安全が保障されるだろうし」
意外にもシュウは賛成で即答した。
「サイキ様に強者の素質か、このおっちゃん中々良い目をしているな。俺がアタナス最強と見抜くとは」
「バカサイキ…。私も行ってもいい…」
トンチンカンな回答をしていたがサイキは賛成のようだったし、それに対してツッコんでいるノワールも賛成のようだ。
「みんなでおいしいご飯食べてみたいな~」
「ZZZ…」
的を得た回答ではなかったがシホの意見は賛成という事なのだろうか?
相変わらず、ナラタは立ったまま寝ているようだったが、賛成の合図なのか、手を上げていた。
(この子、本当は起きているのだろうか…?)
とりあえずは全員が賛成との事だったので話を進める。
「決まりみたいだね。1つ言い忘れていた。敷地内に住む変わりに私の仕事を今後手伝って欲しい」
現在は主に居住区の視察兼FP活動をしているが、他にも色々前世の知識を使った取り組みを行っていきたいと思っていた。ティアとジェイグが手伝ってくれてはいるが視察で手一杯の状況であるため、日ごろから信用ができる仲間が必要だと考えていた。
「分かった。何の仕事をするんだ?殺しは勘弁だぞ」
「殺しなんか依頼する訳ないよ!私がしたい仕事は、この領地をより良い領地にすることだよ」
「ふ~ん、なんか立派すぎてむずがゆくなるな」
「ハハハハ」
賑やかで楽しかったのと、先ほど行った市場調査の結果を思い出し私は思わず笑顔になっていた。
Q:孤児6人のそれぞれの願い上位3つは?
A:全員 1位「自分以外の5人全員の幸せ」 2位特になし 3位特になし
その日は冒険者ギルドへはよらずに、そのまま館へ戻った。
そして、倉庫と孤児の話を父にし、あっさり許可を頂くことができた。
畑で見つけた装置は、【市場調査】で持ち主や設置主などを調べたが分からなかった。元々あったものなのか、はたまたこの領地のものが関係していないのか…。
なんにせよ詳細はパルポロムへ調査を依頼している。何かわかればすぐに教えてもらえるだろう。
こうして初めての冒険者地区への訪問を終えたのであった。
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「火の絶傑リッシーの報告では日照りと温度上昇により順調に干ばつが進んでおり、治安も悪化。貧困や体調の悪化などもあって領民の反乱も間近とのことです」
ゴルギロムの領主ドンド・デ・ギロムは上機嫌に酒をすすりながら部下の報告を聞いていた。
「長かったわい。本当はこんな回りくどいやり方をせず、暗殺やら戦争やらで済ませたいのだがな」
「それでは流石に王にばれましょう。それに暗殺では別の領主に挿げ替えられるのが落ちでしょう」
「分かっておる。だからこうしてどうしようもない領地へと追い込んでおるんだからな。再生不可能なところまで追い込めば、この豊かなゴルギロムを治めるワシに何とかするよう指示が下るような誘導もできよう」
飲み干したグラスに、部下が酒を注ぐ。
「反乱が起きたら知らせるがよい。その後はスムーズに動けるよう、王のへの根回しも抜かりなくするようジギョウにも伝えよ」
「承知しました」
「これで長年のワシの夢も叶えられよう。フハハハハハハハハッ!」
ギロムは不適に笑った。ラフィアットの知らないところで、隣領主の暗躍が進んでいるのであった。
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