第5話 冒険者地区へ
ラフィアットの初外出日の夜
ブンッ!ブンッ!
ジェイグは今日の出来事を思い出しながら、日課である剣の稽古を一人で行っていた。
自身は王都に近い街の産まれで、もともと騎士であり、中でもかなりの上位の強さを誇っていた。
様々な経験をし、最終的にはラフィアットの母であるマリアの護衛となり、その後にこの地に引っ越してきたのであった。
(今日一日ご一緒させて頂き、ラフィアット様の頭脳や正義感、胆力全てが素晴らしいものであると理解した。ただ日々の稽古を見る限り剣の才能はハッキリ言って感じない。あのような行動をしていては、いずれ危険な目にあってしまわれるであろう。そうならないように、私の方で常にお守りせねばならない)
忠誠を誓ったマリアの忘れ形見であるラフィアットには、今までは護衛の義務の意識の方が強かった。
しかし、今日の体験を経て、改めてマリアと同等の忠誠をラフィアットに心の中で誓うのであった。
2年の月日が経過し、8歳のある夏の日の事である。
あれからほぼ毎日居住区を視察していたが、目に見えて人々の暮らしぶりが良くなってきていたのが分かった。
パルポロムに約束した通り、事業はほぼすべて好転し、確実に利益も増えている状況であった。
「ラフィー!」
20メートルほど先に見える赤毛の少女アルティアが私に呼びかける
「ティア!」
私たちはお互いをあだ名で呼ぶような仲になっていた。
「今日も案内を頼めるかな?」
「もちろん!任せて!」
居住区に対しての減税を行った後で、私は住民のライフプランニングなどのFP活動を行っていた。
減税しただけでは、いくら貯蓄をすればいいか?より働いた方がいいのか?などが見えてこない。
より効率よく暮らしをよくするためい、人数の多い家族から優先的にプランニングを行っている。
幸いにもティアは住民の中でも人気者であったし、ほとんどの住民を知るくらいには顔も広かった。
そのため、どの住民がお金により困っているか?どの家族の人数が多いか?などで協力をしてもらっていた。
【市場調査】
Q:アタナスの住民の一番の悩みは?
A:暑い 35%、水不足 22%、結婚できない 10%、その他 33%
2年でこれだけ変わるとは想定以上である。
「だいぶみんな元気になってきてるように見えるね」
「うん!この頃は病気する人も少なくなってきたし、これも全てラフィのおかげだよ!」
目を輝かせながらアルティアは答えた。
「あとは、日照りによる干ばつへの対策か…。この件はパルポロムさんに相談してたと思うんだけど…」
「それに関しては、一時しのぎではありますが川の水を引くことで対策する結論に至りました」
とジェイグが答えた。
「そっか…。他の領地では雨が降っているのに、ここだけ雨が降らなくなっているのは何か原因があると思う。それを突き止めない限りはじり貧になってしまいそうだね…」
この世界には魔法など、元の世界の科学が通用しない事も多い。だが空に浮かぶ雲から察するに天候については以前の常識が当てはまると私は確信していた。
そのため、この局地的な日照りについては日ごろから、災害を起こしている犯人がいるのではないか?と考えるようになっていた。
【市場調査】
Q:アタナスの住民で日照りの災害を起こしている人はいる?
A:0%
あくまでもこのギフトの効果範囲は、実際に足を踏み入れた場所に過ぎない。
まだ、商業区と居住区にしか足を踏み入れた事がないので、市場調査の対象を広げるためにも、他の区域も調査の対象にしたいと思うようになった。
その日の調査を終え、館で父に相談することにした。
そして数日後
「ジェイグ、今日から冒険者地区の視察を始めるけど、そんなに危険な場所なの?」
「はい、以前は良識のある冒険者たちが多く、活気に溢れていたのですが、迷宮の難易度が高くなってから、冒険者の暮らしが安定しなくなり
荒くれたものが増えてきているというのが現状です」
「なるほど…」
アタナスの街は大きく括ると、居住区、商業地区、冒険者地区、迷宮地区の4地区で構成されている。
私が視察を許されていたのは、居住区と商業地区のみであったが、先日お願いをし、冒険者地区も父から視察の許可を得る事ができた。
当然、お供にジェイグを連れて行くことは必須条件である。
この世界には、いくつか迷宮というものが存在しており、アタナスの街の外れにも1つ存在している。
迷宮内にはモンスターが溢れており、奥に行けば行くほど高価な遺物やアイテムが手に入るらしい。
ただ、現在のアタナス迷宮は、アイテムの質と難易度が釣り合っておらず、冒険者の数が減ってきているとの事だった。
「ここが冒険者ギルドだね」
「はい、その通りです。この建物が迷宮地区への入り口にもなっております」
迷宮へ挑戦する冒険者は、このギルドで入場料を支払って、迷宮に入るというシステムのようであった。
先にジェイグがギルドに入り、後を追い私もギルドへ入ろうとしたその時
ドンッ!
小さな影が私にぶつかり、走り去っていった。
「ラフィアット様!どうされましたか?」
「いや、さっき人がぶつかって来たんだけど…。あれ?財布がないっ!」
「なるほど、すられたのかもしれません、追いかけましょう」
「うん、あっちの路地の方に向かっていったと思う」
アニメやゲームなどではよく目にする光景だが、いざ実際に自分が体感してみて、お金を失ったという負の感情よりも、素直にスリの技術に対しての感動や驚きで一杯だった。
私たちはギルドに入るのを一旦中止し、小さな影を追いかけることにした。
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