第13話 火の絶傑
ジェイグ、ゲン、ノワールと共にバカーンの部屋へ向かう。
部屋に向かう際に、あらかじめこの後の事は3人には説明済だ。
ジェイグとゲンはもちろん落ち着いていたが、ノワールが落ち着いていた事には驚いた。
無口のため思考や性格が読めないが、胆力は6人で一番なのかもしれない。
そう思っているうちに、部屋の前に到着した。
コンコンッ
軽くノックをする。
「ム!誰だっ!」
急な来訪者のため、焦ったのかバカーンは乱暴な言葉と共に扉を勢いよく開いた。
「こんばんは バカーン」
予想外の訪問者に驚いたのか、バカーンはしばらく口をパクパクし沈黙していた。
「少し話があるんだけど、入ってもいいかな?」
「ムムム!?こんな時間にどうされましたか?」
「入ってもいいかい?」
返答に対する答えが無かったので、もう一度問う。
「ムヒャ!ど…どうじょ…どうぞ こちらへ」
部屋の中へ案内される、後ろからジェイグ、ゲン、ノワールも続いて入室する。
「ム。ラフィアット様それでどうされました?」
「なぜ、この領地に天晴箱を持ち込んで日照りの状況を作り出したのか聞いておこうと思ってね。バカーン。いや、火の絶傑リッシー」
バカーンの部屋に入った私は、時間をかけすぎて対策を講じられても面倒なので、単刀直入に話す事にした。
「ムッムッム!!?」
「言い訳しても無駄だからね、既に調べはついているよ」
「ム、まさか!?スペシャルギフト【心理把握】!?」
どうやら何か勘違いしているらしい。初めて聞く名前のギフトだが、今は関係ない。作戦通りに動くだけだ。
「さあ、どうだろうね。このまま魔法を使われても面倒だから捕まってもらうよ!ジェイグ、ゲン頼んだ!」
自分に戦闘力が無い事が少し恥ずかしかったが、二人に捕獲してもらう流れになっていた。幸いテーブルの上に魔導書が置かれたままだった。
「おっさん!暴れるなよ!」
ジェイグとゲンの二人がかりで取り押さえた。
「ムムム」
バカーンは成す術もないといった状況であった。
作戦通りにうまくいって一安心する。一応保険も用意していたが、今回は使う事はなさそうでよかった。
本来なら拘束後に、詰問を行うんだが、時間があったため殆ど調べ終えている。バカーンが、隣領主のギロムの目的を聞かされていない事も分かっていた。
「バカーン、君に特に聞くことは無い。なぜ聞く必要がないかは、想像通りに任せるよ。犯罪者として王都送りにさせてもらう」
「ム…ムハハハ…。まだ子供だと思い放置し続けたためこうなったか…。中々やるではないか。ただ詰めが甘かったな!このまま全員木っ端微塵にしてやるわ!」
バカーンは不敵に笑いながらそう言った。そして、急に体が光始める。
「ラフィアット様!こいつもう1つ魔導書を…!お逃げください!自爆しようとしています!」
ジェイグがそのように危険を伝えた。
「ゲン!ノワール!ギフトを!」
「ダメだ、まにあわねえ!」
【麻痺一喝】を発動させるには、少しの溜め時間が必要だった。
その時だった。
「【魔法阻害】…」
ノワールが手のひらをバカーンに向かって突き出した。
「ムムム!?」
バカーンの体を包んだ光が弱まっていき、完全に光が消えた。
「ムム!なぜだ…!発動しない…!」
「よかった…。間に合った…」
ノワールの咄嗟のギフトの発動で、一同は助かったのだった。
「ありがとうノワール!」
ノワールのギフト【魔法阻害】は、相手の発動前の魔法を言葉の意味通りキャンセルするという対魔法使いに特化したギフトだった。
すぐ発動するような魔法に対しては効果は少ないが、今回のような溜めが必要な大技には効果てき面なギフトだった。
ギフトの内容は聞いていたので、危険ではあったが今回は事情を話し、同行してもらった訳である。
(ずっと寝ているから、未だにナラタのギフトだけ把握していないが…)
成す術も無くなったバカーンをそのまま取り押さえ、隠し持っていた魔導書も押収した。
その後、他の4人の部下と同様牢屋へぶち込み、罪人として王都送りにすることになった。
最後に多少の誤算はあったものの、概ね考えていた通りの結果となり一件落着である。
「父上、以上が今回の事件の報告となります」
私はバカーンを捕まえた直後に、今回の一件を父へ報告していた。
「そうか…、ラフィアットよ。もう少し近くに寄れ」
「は、はい」
心無しか、疲れた様子をしていた。近寄ると、抱きしめられる。
「私がふがいないばかりに、子供のお前を危険に晒してしまい済まなかった。無能な私を許してくれ」
バカーンの近くにいた自分が気づかなかった事、そして実の子を危険に晒してしまった事に恥じたためか父の体はいつもより小さく感じた。
「私こそ、勝手をしてすみませんでした。もう少し上手い対処方法があったと思いますが、結果的には皆を危険に巻き込んでしまいました…」
「お前はまだ8歳なのだから失敗して当然のことだ。だが今回のように自分の命を危険に晒すような行動はやめなさい。命をかけるのは私の方なのだから」
心から心配し、愛してくれているのを感じる。
「はい…、すみませんでした。次からは真っ先に父上へ相談するようにします」
「うむ…。先ほど皆には礼を言ったが、今度は命の恩人として礼を伝えねばならぬな」
「先ほど父上がいらっしゃった際には、皆喜んでおりました。今度は父上もご一緒に食事をして頂けないでしょうか?」
「ハハハ、それは賑やかそうだな。私も賑やかなのは歓迎だ。是非一緒させてもらおう」
「はい!」
その後、部屋に戻った私は、いつも以上に疲れていたためか、ベッドに入りすぐに寝てしまった。
この数日間常に頭を悩ませていた事と、生まれて初めて戦闘による命の危険を感じたからか、精神も体力も限界だったのであろう。
(今日はゆっくり休もう…)
その後、父上はバカーンとその一味を罪人として王都の役人へ引き渡し、事後処理を行っていた。
まだ日照りと干ばつは収まってはいなかったが、天晴箱の稼動が全て停止したのですぐにでも雨は降ってくるだろう。
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