第1話 プロローグ
私(32歳)は、孤児院出身で天涯孤独の身である。現在はお金の専門家(ファイナンシャル・プランナー以下FPと省略)として、貧困で苦しんでいる方や老後に不安のある方を支える事を生きがいに日々を過ごしている。国が豊かになれば、自分と同じ境遇の孤児自体も減ってくるだろう。
2022年現在日本では円安や他国の戦争、出生率の低下、高齢化社会等様々な影響により貧困化が進んでおり、お金に困っている人は増える一方である。そのため、必然的にFPである私の仕事量も増え続けていた。
そんなある日
「グッ……」
私は急に胸に激しい痛みを感じ、そのまま意識を失った。
次に目覚めた時には、視界が異常にぼやけていた。
私は元々視力が良い方なので、こんなに視界がぼやけて見えるのは初めてのことだった。
(声がでない……!手足もうまく動かせないっ……!?)
不安と焦りが込み上げてくる。
「☆□&△¥??」
「〇□□++!!」
聞きなれない声と言葉が耳から入ってくる。
「オギャァッ!オギャァッ!」
非常に近い場所から赤ん坊の声が聞こえる。
違う、近い場所ではなくまさに自分の声だった。
異世界転生をはっきりと自覚したのは、数か月後の事だった。
転生を自覚してから、色々状況について理解できてきた。まず転生後の国は元々の日本、いや地球とも違った場所のようだった。
大きく違う点は、魔法やモンスターといった類のいわゆるファンタジーな世界である事と、文明レベルは低く電気も無い。元の世界で例えるなら中世ヨーロッパ時代に近かった。
まず、私の名前はラフィアット・ヴァン・レモス。ここアタナスという領地を治めるパトリック・ヴァン・レモスの長男として生まれた。
生前、知識としては持っていたが全く馴染みのない貴族というものであった。
父は健在であったが、母については生まれて間もなく病で亡くしていた。
母親の愛を受ける事はできなかったが、父からは厳しくも愛情を感じながら育ててもらっていた。
そのため、特に不自由なく暮らすことができた。
そして、もう一点転生前と大きく違うところが……。
【市場調査】
私は、頭の中でそう唱えた。
すると……。
Q:館内の男女比率は?
A:男性60% 女性40%
頭の中の問いかけに対した結果が、まるでゲームのウィンドウの様に空中に浮かび上がる。
このように、生まれる際に世界からギフトという、いわゆるスキルの提供を受けることがある点だ。
受けられるギフトの数の最大数はまだ分からないが、私は【市場調査】と【通貨保有量】という2つのギフトを持って生まれた。
人によって、様々な種類のギフトを受けるとの事であった。
【市場調査】の方は、自分が足を踏み入れたことがある地の一定範囲内で文字通りアンケートを行う事ができるというものである。
自分自身はアンケートの対象に入らない等、細かい制限は色々あるが、元々の仕事がFPとマーケティングに従事するものであった私にとっては、かなり使い勝手の良いギフトであると思った。
もう1つの【通貨保有量】に関しては、どういう効果か未だ不明のままであった。名称からお金に関するものだとは予想できるが、そこは自由に自分のお金を手に入れる事ができるようになれば分かってくるであろう。
それから数年が経過した。
「ヤー!」
カンッ!カンッ!木刀のぶつかる音が響く
「ラフィアット様 動きに無駄が多いです」
稽古を付けてもらっている指南役のジェイグに痛いところを突かれる。
年月が経ち、より深く転生後の世界について理解してきた。
悔しいことに、剣の才能自体は周りと比べても恵まれていないように感じた。しかし、前世では剣など握ったこともなかったので、新鮮で稽古自体は楽しかった。
このアタナス地方については、トラッド大陸にあるフォギア王国の南東に位置し、アタナスの街とアタナス大森林そしてアタナス迷宮の3か所で大きく構成される地方であった。
この地方には日本と同様に一年で一巡する四季が存在していた。
アタナスの街については、貧困に満ちており、治安も悪くいわゆる弱小領地であった。父の治世が特段劣っている訳ではなさそうであったが、謎の日照りにより干ばつが起き、作物がうまく育たないため活気がない状況が続いているようであった。
具体的な状況を直接目にしたことはなかったが、そのように座学で学んでいた私は、前世の知識を生かし、一早く父の役に立ちたいと日々考えていた。
「では、行ってまいります!」
「ラフィアット様お待ちください! 外では何が起こるか分かりません! 私から常に離れないようにしてください!」
6歳を過ぎてから、ようやく外出の許可が下りた。護衛として指南役のジェイグが着くことになっている。
ジェイグは、年齢的には30代前半くらいだろうか。青髪で身長は高かった。過去の事は知らないが、長年仕えており、父からの信頼も厚かった。
「今日も暑いね…しばらく雨も降っていないみたいだし…。 それは別にしてと、まず街の居住区に連れて行ってほしい」
雨が全く降っていない訳ではなかったが、年々降水確率が低くなっているとの事だった。
「かしこまりました。 同年代のお友達をお探しですか?」
「ち…ちがうよ! 父上のお役に立つためだよ!」
「ハハハ。ラフィアット様は立派ですね。ではまず居住区へ行きましょうか」
ジェイグより街の中の注意点を聞きながら、歩みを進める。
十数分ほど歩いたところで、居住区に到着した。
到着してすぐに眼に入ったのは予想以上にひどい様子だった。
(水不足や食料不足のためか、住民の顔色が悪い。 衛生面もかなり悪そうだ…。)
【市場調査】
Q:アタナスの住民について、一番の悩みは?
A:食糧不足 81%、その他 19%
想像以上の数値に絶句する。
(なるほど…。元居た世界でも全人口の10%は食糧に困っていた。その中でも一番率が高かったのが南アフリカ地方でおよそ30%~40%くらいだったはずだ。
それに比べるとこの居住区の数値はかなりまずい…)
何が原因でここまで貧困になっているのか?干ばつにより、食糧自体は不足しているのは分かるが、自分自身の暮らしは特段貧困とは思わなかった。
聞き込みをしたいところだが、こんな子供が色々聞いて回ってもみんなあまりいい顔をしてくれないだろう。
折角初めて街に足を踏み入れたのだから、他にも色々ギフトで調査を行う。
【市場調査】
Q:アタナスの住民の仕事は?
A:農業 35%、輸送 22%、加工 8% 土木 7% その他 28%
食糧不足の割には、農業を行う割合が少ないと感じた。このことから、以前は不足しておらず一時的に不足しているのか?等の疑問が浮かぶ
【市場調査】
Q:アタナスの街の日照りの原因は?
A:ERROR
ダメ元で日照りの原因を調べようとしたが、【ERROR】が表示されてしまった。
この【市場調査】というギフトも決して万能ではなく、あくまでも人にアンケートをした結果が、能力として表示されるだけなので、自然現象等の人自体が直接的な原因となっていないものについては、調査を行う事ができなかった。
他にもギフトで色々調査を行い、表示されたウィンドウを眺めていた。
その時、視界の端で人が倒れこむのが見えた。
「お父さん!大丈夫!?しっかりして!」
「ジェイグ! 行こう!」
「ハッ!」
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