元サラリーマン、スペイン空母を検討する(1)
私の名は市ヶ谷岩雄、かつてはただのしがないアラフォーサラリーマンをしていたが、今は違う。
今はその生涯に幕を閉じ、転生後の新たな人生を歩むための一歩を踏み出している。
その一歩とはつまり、転生後の異世界に連れて行く現代空母を選ぶ事だ。
とはいえ考慮の末にアメリカ海軍のワスプ級強襲揚陸艦がベストではないか? との結論にいたったが、まだ結論を早急に出す時ではない。
アメリカ以外の国の空母も検討すべきであろう。
そんなわけで今回はスペイン空母を検討してみようと思うわけだが、もしかしたらここが最も有力な候補かもしれない。
そう期待ができるわけはその実績だ。
スペインは現在空母を保有していないが、しかしその代わりとなる優秀な強襲揚陸艦を保有している。
この強襲揚陸艦が最も有力な候補となり得るわけはスペインが歩んできた空母史にあると言えるだろう。
それを証明するように近年その建造数は他国への売り込みという形で増えている。
それはスペインの空母史を紐解けばわかるが、ブレないコンセプトを持ち続けた結果に違いない。
スペインがはじめて空母を保有したのは1967年になってからだ。
そのスペイン初の空母の名はデダロ。
この空母は元は戦時中のアメリカのインディペンデンス級軽空母カボットであるが、5年間の予定で貸与されたのだ。
スペインはこのデダロを対潜空母として運用し、5年後の1972年に正式にアメリカから買い取って取得する。
その際、スペインはデダロをオーバーホールして大改装を実施した。
何せ元は戦時中の軽空母だ。
飛行甲板は戦時中のままの木製であり、それが原因で航空機運用時に飛行甲板に被害が出た。
その結果、ようやく飛行甲板が木製でなくなったわけだが、こうしてデダロは世界初のある空母へと変貌する。
それがフランス空母を検討した際にも触れた空母での戦闘機の離着艦方法の3つのやり方のひとつ、STOVL方式の空母だ。
STOVL方式とは垂直・短距離離着陸機を空母に離着艦させるやり方でCATOBAR方式やSTOBAR方式とは大きく異なる。
STOVL方式では発艦の際にカタパルトは使用しない。
そしてスキージャンプ台を使用する空母もあれば、スキージャンプ台がなくても距離の問題をクリアできれば発艦は可能である。
これが短い滑走距離で離着できる垂直・短距離離着陸機の強みだ。
そして着艦の際には、CATOBAR方式やSTOBAR方式のような着艦装置のアレスティング・ギアは必要ない。
何せ垂直・短距離離着陸機は飛行甲板へと上空から垂直に降下する事ができるのだから。
とはいえ、確かに垂直着艦は飛行甲板へと大量のジェット噴流を浴びながら重い機体が落下してくる事になる。
素人目に見れば、確かに本当に安全なのか? と疑いたくなる光景だろう。
それゆえににSTOVL方式の飛行甲板は大量に浴びせられるジェット噴流に耐えるだけの加工が施されている。
そして重量についてだが、そもそも空母へと帰還し着艦しようとする機体は燃料を多く消費し、機体の重量は軽くなっている。
これも安全に垂直着艦できる要因なのだが、たとえ重量が重いままでも武装を海に投棄する必要はなく、垂直ではなく斜めに下降すれば負担を軽減できるのだ。
しかし、このやり方は天候など条件によっては実施できなくなるのだが……
ともあれ、デダロはイギリスのホーカー・シドレー社が開発した世界初の垂直離着陸機であるハリアー、その艦上機型シーハリアーのスペイン向けであるAV-8S マタドールを搭載した空母となったのだ。
とはいえ、イギリスとスペインはジブラルタルで領土問題を抱えるなど仲が悪い。
更に当時のスペインはフランコ政権。第2次大戦こそナチスドイツからの再三の参戦要求を固辞し中立の立場を貫いて参戦しなかったものの、ナチスドイツとも仲の良かった枢軸国サイドのファシズム政権だ。
そんな国に武器を表立って輸出などできるわけがなかった。
なのでこのAV-8S マタドールはAV-8A シーハリアーのスペイン海軍仕様でありながらも表向きはアメリカ海兵隊向けを輸入するという回りくどいやり方で取得している。
それはさておき、世界初のハリアー搭載空母となったデダロだが、元はと言えば戦時中の軽空母。
すでに老朽化の弊害が出始めていた。
そこでスペイン海軍は1979年、後継艦の建造に着手する。
この後継艦のコンセプトに採用されたのがアメリカで研究されていた制海艦(SCS)だ。
アメリカでは当時、大型空母とそれを補佐する大戦時の空母を近代化改修した小型空母という体制をとっていた。
しかし大戦時の空母が老朽化してきた事から、新たな低コストのコンパクトな空母を模索するようになる。
この計画は強襲揚陸艦での実証実験も概ね良好で順調に進み、1975年には1番艦の建造が開始されるはずであった。
しかし、アメリカ海軍内での主張の食い違いや、計画当初の見積もりと違い、費用がどんどん高騰していった事や、アメリカ国内での垂直離着陸機の開発失敗が打撃となり計画は中止となった。
そんなアメリカで中止となったSCSというコンセプトであるが、スペインはこれを継承し、検討を重ね採用する。
こうして、アメリカで計画されていたSCSにはなかった旗艦機能を付与した、司令部用の艦橋を設置するなどの設計変更により当初の予定から起工はずれ込んだものの、1988年、スペイン待望の国産空母が完成した。
それが空母プリンシペ・デ・アストゥリアスである。
ちなみにこの空母に同型艦はないが準同型艦というべき小型化した空母はタイに存在する。
が、今はその話題は置いておこう。
さて、そんな空母プリンシペ・デ・アストゥリアスであるが、アメリカのSCSを採用しているため、至るところでアメリカ空母の影響が色濃く見られ、特に飛行甲板上の前後エレベーターの配置はそのままアメリカ空母のものを因襲している。
そして飛行甲板であるが、その先端と艦首にスキージャンプ勾配が設けられている。
勾配角は12度であり、飛行甲板の長さが175.3メートルなのに体してスキージャンプ台は46.5メートルとそれなりに長い。
そしてSTOVL空母であるため、当然ながらアレスティング・ギアは装備していない。
戦闘機やヘリの搭載数は17~20機ほどであったが、機種によっては最大で40機ほど搭載可能であったとか……
その搭載機も2013年まで現役に留まったためAV-8S マタドールからEAV-8B マタドールIIに機種変更している。
EAV-8B マタドールIIはAV-8S マタドール同様、AV-8B ハリアーⅡのスペイン向けである。
そんな空母プリンシペ・デ・アストゥリアスであるが、多くの作戦に従事し、STOVL空母の有用性というものを証明してきた。
そして長らくスペイン海軍旗艦の役割を担ってきたが、2013年に退役している。
その後スペインに新たな空母は就役していない。
しかし、空母プリンシペ・デ・アストゥリアスの後継艦とも言うべき艦艇は就役している。
それこそがスペイン初の強襲揚陸艦、フアン・カルロス1世である。
この多用途艦は空母プリンシペ・デ・アストゥリアスの後継艦としての役割のみならずLST2隻の後継艦の役割も担う。
まさに私が求めている性能そのままだ!
ではその内容を精査していこう。
特にオチもない短い連載作品になるかと思いますが、気が向いたら☆評価なりブクマなり感想ください