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元サラリーマン、フランス空母を検討する(3)

 さて、フランスの別の空母も検討してみようとは言ったが、何度も述べているようにフランスは現在シャルル・ド・ゴールしか空母を保有していない。


 では他の何を検討するのか?

 決まっている、それは未来のフランス空母だ。


 フランス海軍がシャルル・ド・ゴールに全幅の信頼を寄せておらず、ゆえにシャルル・ド・ゴールを補佐する形での通常動力での空母を計画していた事には触れたが、それこそがキャンセルされた本来ならシャルル・ド・ゴールの2番艦となるはずだった空母であった。


 それがPA2である。

 PA2はシャルル・ド・ゴールの2番艦をまだフランスが建造するつもりでいた当時、原子力空母を断念した際に議論されたものだ。


 シャルル・ド・ゴールの建造が遅延していた当時、イギリスは後のクイーン・エリザベス級空母であるCVF計画を進めており、フランスはこのCVF計画艦と設計を共通化したPA2計画艦へと原子力空母から方針転換したのだ。


 そして2006年には英仏両国の国防大臣が将来空母の設計で協力することを取り決め、2008年には建造予算も要求されたわけだが、しかし2013年、これをフランスは断念している。


 仮にもし、PA2が建造されていたらイギリスのクイーン・エリザベス級空母の準同型艦となるため、アイランド式艦橋はクイーン・エリザベス級同様2つとなっていただろう。

 そして艦名も「リシュリュー」となっていた可能性が高い。


 だがPA2リシュリューは計画が中止となったため幻に終わった。


 とはいえ、シャルル・ド・ゴールはすでに退役が2038年に予定されている。

 シャルル・ド・ゴールの建造に長い時間を費やした事を考えると、早急に新たな空母の建造計画を立てる必要があった。

 そんなわけで2018年、次期空母についての検討が開始され、2020年に次期空母建造計画が発表された。


 それがPANG、フランスの新世代航空母艦だ。

 就役はシャルル・ド・ゴールが退役する2038年の予定で、新旧空母がバトンタッチする形で登場するわけだ。


 建造は2025年から開始し、シャルル・ド・ゴールの教訓を生かして10年かけてじっくりと念入りに建造する予定である。

 このPANGは船体も飛行甲板もシャルル・ド・ゴールからより大型化し、原子力空母としても新型の原子炉を開発中でこれが導入される予定だ。


 またカタパルトはアメリカ最新の空母、ジェラルド・R・フォード級と同様にた電磁式カタパルトを導入するという。


 そして期待が高まるのはその艦載機だ。

 現時点のカタログスペックでは戦闘機約30機、早期警戒機2機、ヘリも搭載となっている。

 シャルル・ド・ゴールよりも大型したのに、なぜシャルル・ド・ゴールよりも搭載数が減っているかというと、艦載機が大型化するかもしれないからなのだ。


 PANGの艦載機はシャルル・ド・ゴールから引き継ぐ形でラファールM戦闘機を搭載する可能性もあるが、現在の計画では機種変更を予定している。


 では何を載せるのか?

 フランスという国のプライドの高さを考えるとアメリカからF-35Cを購入して搭載する可能性は極めて低い。

 考えられるのは新型戦闘機であろう。


 それがドイツ、フランス、スペインの3か国で共同開発を予定している次世代戦闘機「NGF(New Generation Fighter)」である。

 これはかなり大型化するのではないか? と言われており、実際2019年のパリ航空ショーで披露された実物大のモックアップはそうであった。


 つまりはPANGの艦載機はこれを意識しているという事だ。

 しかし、フランス、ドイツ、スペインの3社は2021年にNGFに搭載されるエンジンの共同開発で合意したが、この先順調に開発が本当に進むかはわからない。

 フランスにはユーロファイターを蹴ってラファール開発に踏み切った前科がある。


 それにNGFの主体となっているのはドイツであるが、空母を保有していないドイツがフランスの要求通り、空母艦載型の開発も行うかは微妙なところだ。


 とはいえ、実際のところドイツにも空母建造の話がないわけではない。

 しかし、これは実現する事がまずないよもや話だろう……


 近年のドイツ軍は慢性的な財政不足に悩まされている。

 おかげでかつての栄光はどこへやら、ご自慢の潜水艦はほぼ稼働しておらず、戦車の整備もままならない状態だ。


 そんなドイツ軍がどうやって空母を保有し維持しようというのか?

 そこで話題に上がったのが欧州空母計画だ。


 これは2019年、当時のドイツ次期リーダーと目されていた人物の発言であるが、EU諸国が世界平和に貢献するためEU海軍とでもいうべき枠組みをつくり、その象徴としてEUで共有する空母を建造しようというのだ。


 確かにこの案であれば、財政面で空母建造も整備も維持もできないドイツでも空母を建造し保有する事ができる。

 とはいえ、専門家からも懐疑的で否定的な意見しかでておらず、むしろこの案は笑いものだ。

 当然ながら実現する可能性はほぼなく、当のドイツですら本気で実現させようとは考えてもいないだろう。


 そんなわけでEU共有空母が実現する可能性がない以上、NGF艦上機型の完成は不透明だ。


 とはいえ、PANG自体、そもそもこれから詳細を詰めていく段階である。

 今表に出ている情報ですら、今後覆される可能性は高い。

 ならば、PANGはこれ以上検討しようがないだろう、何せまだこの世に影も形もないのだから……


 そんなわけでフランス空母は現状これ以上検討しようがない。

 検討できる材料があるとすれば、それは強襲揚陸艦だろう。


 フランス海軍は現在、全通飛行甲板を持つミストラル級強襲揚陸艦を保有している。

 ミストラル級強襲揚陸艦はミストラル、トネール、ディクスミュードの3隻が就役しており、そのどれもが有事の際の指揮系統を担い、また病院船としても機能するよう設計されている。


 また軍艦であるにも関わらず商船としての規格下で建造されており、推進機関もフランス海軍としては初のディーゼル・エレクトリック推進方式を採用しており、電気推進艦となっている。


 艦尾にはウィルドックが装備され、LCM8隻やLCU4隻を収容でき、LCAC-1級エア・クッション型揚陸艇も2隻搭載可能で素早い洋上への展開が可能だ。

 また巨大な船体内部を第6甲板までで2層にわけて車両甲板とウェルドックを設けているため、多数の戦闘車輌や機動車両を詰め込める。

 航空機を搭載しなかった場合は無理をすれば250輌ほど搭載できるのだとか。


 まさに戦力投射の理想的な形だ。

 とはいえ、ミストラル級は全通飛行甲板を有しているが、戦闘機の運用は想定していない。

 飛行甲板では6ヶ所のヘリコプター発着スポットが設定されており、飛行甲板上には最大15~16機の中型または大型ヘリが駐機できるがそれだけである。


 ミストラル級強襲揚陸艦は優秀な多用途艦ではあるが、自分が求める戦闘機の運用ができない以上は検討には至らないだろう。


 ちなみにミストラル級強襲揚陸艦は3隻までであるが、準同型艦が存在する。

 それがロシア向けに建造された2隻、ウラジオストクとセバストポリである。


 ロシアがフランスの強襲揚陸艦を導入する。

 これには新たな造船技術を仕入れるという目的があったという。


 正直なところ、ミストラル級クラスなら十分にロシアの造船技術で建造可能であり、フランスから買う必要はないのだ。

 しかしロシアとしては今後に控えている次世代空母建造の為の様々なノウハウを習得しておく必要があった。


 そこで目を付けたのがブロック工法だ。

 これは一箇所で艦艇を建造するのではなく、造船場所を複数に分散して建造し、それぞれで完成した部分を接合して完成させるやり方だ。


 このブロック工法でロシア向けミストラル級はフランスとロシア両国で建造され、最終的にフランスで結合させ、ロシア関係者がフランスでロシア軍使用の武装を施して完成した。


 しかし、この完成した2隻、ウラジオストクとセバストポリがロシア海軍の手に渡ることはなかった。

 ウラジオストクとセバストポリは2014年にロシアに引き渡されるはずであったが、この年ウクライナ紛争が勃発したのだ。


 これに伴うロシアのクリミア併合に欧米諸国は反発、EUとしてもロシアへの経済制裁を発令する。

 そんなロシアへ経済制裁を科す中で、フランスがロシアに軍艦を引き渡せるわけがない。

 フランスは両艦の引き渡しを無期限延期する事を決めた。


 これに当然ロシアは反発する。当たり前だ、何せすでに契約金、建造費は支払っているのだ。

 しかも物は完成している。渡さないなんてあり得ないだろうという話である。


 この事は仏露両国で揉めに揉め、結局フランスがロシアに建造費用を全額返還する事で決着がついた。

とはいえ、この事ですらロシアへの経済制裁中に金を渡すなどあり得ない! という反対意見があったという……


 何にせよウラジオストクとセバストポリはロシアに引き渡されなくなった。しかし次は、この2隻をどうする? という問題が発生する。

 何せ、フランスは強襲揚陸艦を追加で2隻運用する予定などさらさらないのだ。


 せっかく完成した新造艦だが、このままでは即解体という憂き目にあってしまう。

 とはいえ、この2隻はエジプト海軍が買い取ったため解体という運命は免れた。


 こうしてウラジオストクはエジプト海軍初の強襲揚陸艦、ガマール・アブドゥル=ナーセルに、セバストポリはアンワル・アッ=サーダートとなった。


 ちなみに、ガマール・アブドゥル=ナーセルとアンワル・アッ=サーダートに装備されている武装や航空ヘリはフランス製ではなく、ロシア製である。

 これはロシアが両艦の引き渡しが中止となった際に取り外した武装をエジプトに売り込んだわけだが、結果的に見ればロシア海軍所属ではなくエジプト海軍所属になっただけで、本来の想定していたウラジオストクとセバストポリの姿になったとも言えるだろう。


 しかし、このガマール・アブドゥル=ナーセルにアンワル・アッ=サーダートも当然ながらヘリの運用しかできない。

 よってこれは検討には値しない。


 そんなわけでフランス空母を検討してきたが、これはとりあえず保留だ。

 まだまだ他国の空母の検証が必要だろう。

特にオチもない短い連載作品になるかと思いますが、気が向いたら☆評価なりブクマなり感想ください


※追記

2022年10月19日、フランスの造船企業がPANGの新たなイメージCGを公開しました。

そのイメージCGは2020年12月にフランス軍事省が発表したイメージCGと目立った外見上の違いはないものの、飛行甲板上に描かれた艦載機にはラファールMも混じっており、企業側が次世代戦闘機「FCAS」の開発の遅れに苛立ちを募らせている現れでは?との憶測が広がっている。

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[良い点] 好きに振り切った情け容赦のない知識の物量! それでいてなぜかとても読みやすく、兵器の名前など解らない物が出て来ても解ったような気になれてしまいます! おもしろい! [気になる点] R15と…
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