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元サラリーマン、異世界に持って行くものを決定する

 2021年10月3日、その日は海上自衛隊にとって歴史的な日として今後長く語り継がれていくだろう。

 この日、海上自衛隊は四国沖の太平洋上で「いずも」の飛行甲板へのF-35Bの発着艦検証作業を行ったのだ。


 「いずも」の飛行甲板で発着艦検証を行ったのは在日米海兵隊岩国基地所属のVMFA-242(第242海兵戦闘攻撃飛行隊)通称BatsのF-35Bである。


 F-35Bの飛行甲板への発着艦検証作業に先立ち「いずも」艦内では開会式の後、日米合同のブリーフィングが行われた。

 何せ海上自衛隊の艦艇に回転翼機、いわゆるヘリコプターではない固定翼機である戦闘機が発着艦を行うのは1954年7月に海上自衛隊が創設されて以来初めての事であるのだ。

 「ひゅうが型」の時の触れたオスプレイの発着艦とは訳が違うのである。


 日米合同ブリーフィングで打ち合わせを行っている最中、四国沖の上空ではその時が迫っていた。

 岩国基地から飛び立ったF-35B 2機が眼下に広がる広大な海原を航行する護衛艦いずもを視界に捕らえながら順に空中給油機KC-130Jから給油を受けていた。


 そんな空中給油がはるか上空で行われている頃、護衛艦いずもの飛行甲板では日米合同での甲板上の点検が行われていた。

 ヘリなどの回転翼機と違って固定翼機は甲板上に落ちているわずかなゴミでも命取りとなる。そういったゴミが落ちていないかをチェックし、落ちていれば回収する。そういう作業だ。


 海上自衛隊としては初の固定翼機の発着艦ゆえに珍しい光景であるが、恐らくはこれからこういった作業を海上自衛官が行う機会も増えていくだろう……

 そんな甲板上の点検作業が終わり、いよいよ発着艦検証作業の本番が始まる。


 まずF-35Bが飛行甲板に降り立つ前に艦橋の上に設置されているマストにある信号旗が掲げられた。

 その信号旗は白地に赤い四角形のマークがあしらわれている旗でありF旗と呼ばれるものだ。


 これは船舶同士の通信で用いられる国際信号旗であり、アルファベットや数字を表す40種類もの旗がそれぞれの艦艇、船舶には備えられている。

 そして、いずもが今回掲げたF旗のその意味は「航空機運用中」である。(とはいえ、実際の国際信号書ではF旗の意味は「私は操縦できない。私と通信を求む」という救難信号なのだが、NATO加盟国の間で使われている意味では「航空機運用中」となり、海上自衛隊ではNATOが使用している意味を採用しているのだ)


 同じ航空機でもヘリの場合はH旗を掲げる事になっており、海上自衛隊はこれまでH旗は当然ながら何度も掲げてきたがF旗を掲げたのは海自の歴史上初めてである。

 まさに間違いなく日本戦後史のターニングポイントとなるであろう出来事がこれから起きようとしていた。


 そして、その瞬間は訪れる。

 飛来した2機のうちの1機がまずは着艦前の飛行甲板の状況を確認するため、いずも甲板上をローパス(低空飛行)していく。

 その様子を後部艦橋の管制室から日米両司令官が見つめる中、いずも甲板を通過したF-35Bが旋回し、再びいずもの艦尾に接近、速度と高度を下ろして迫ってきた。


 いよいよ歴史的瞬間、着艦の時だ。

 第1回発着艦検証がはじまる。


 いずも飛行甲板後部の上空に飛来したF-35Bがゆっくりと飛行甲板の上空へと進入してくる。

 そのホバリングによって海面上には飛沫が舞い、小さな虹が発生していた。


 そのまま高度を維持しF-35Bは空中停止、水平移動して着艦地点上空までくるとゆっくりと垂直に下りてきた。

 そして、そのまま甲板上に降り立ち、着地の衝撃で機体が少し揺れたが、そのまま機体は静止した。

 その後、エアブレーキなどを仕舞い、ゆっくりと黄色のショート・テイクオフ・ラインに沿って甲板上を規定位置まで進んでいく。


 そんなF-35Bの尾翼には部隊ロゴと一緒に「いずも」の文字とロゴも描かれており、甲板上をゆっくり進むF-35Bのパイロットはコックピットの中から艦橋にいるカメラマンに向かっていずものパッチを手に取って見せるという何とも胸が熱くなるパフォーマンスを見せてくれた。


 そのまま規定位置まで進んだF-35Bは一旦停止すると再びエアブレーキなどを展開、発艦の準備に入る。

 そして、エンジン音を轟かせて発進、猛スピードで甲板上を駆け抜け発艦、いずもから大空へと飛び立っていった。

 まさに歴史的瞬間である。

 日本の艦艇に戦闘機が帰ってきたのだ!

 誰もがこの瞬間を待っていた! すべての日本国民におめでとうと言いたい。


 とはいえ、まだ喜ぶには早い。

 続けて2番機による第2回発着艦検証も行われ、これも問題なく終了。

 こうして、ようやく日米の誰もが喜びを分かち合い、いずもの管制室ではコロナ渦であるため日米の管制官たちによるグータッチが行われた。


 まさに空母好きにとって興奮と歓喜のイベントであり、これが歴史的な出来事であった事に変わりはないが、しかし一方でいずも型を空母へと改修する過程でF-35Bの発着艦に問題がないか? を検証しただけに過ぎないのも事実だ。


 結局のところ、すべての改修を終えて空母化が完了し、自前のF-35Bが揃う2027年まではまだ「いずも型」護衛艦はヘリ搭載護衛艦なのである。

 そんな空母へと改修中という状態では「いずも型」は検討できる段階ではないだろう。


 そして現在の日本においてはもう検討できる艦艇は他に存在しない。

 一様は将来的な話はちらほら漏れ聞こえはしてきているし、中国のメディアは10年以内に日本が60000トン級の空母を建造する可能性を論じているがどれも具体性はない。

 それは当然で、まだ「いずも型」の空母化も完成してない状態なのだ。その先など時期尚早である。


 しかし、少なくともアメリカの最新鋭空母ジェラルド・R・フォード級の電磁カタパルトや新型着艦制動装備を開発した米国防衛企業は海上自衛隊がこれらの技術に関心を示していた事をアメリカ防衛産業最大の海事博覧会であるSea-Air-Space 2017で明かしている。

 そしてこの事が絡んでいるのか、2019年にはその米国防衛企業が作成した、いずも型の飛行甲板をアングルド・デッキに改造し、電磁カタパルトと新型着艦制動装備を装備してF-35BではなくF-35C、さらには早期警戒機E-2Cホークアイを運用可能にする「いずも型改造案」の画像がネットに流出した。


 もちろん、このような改造を「いずも型」に施すとなれば現在行われている改修以上の大がかりな改修が必要になり、重量バランスの問題や動力機関の問題も出てくる。

 何より、いずも型の大きさではこの改造を行ったところで搭載できる機体の数が割に合わない事になる。

 ゆえに、これは企業側の「こんな事いいな~できたらいいな~あんな夢こんな夢いっぱいあるけど~」というただの妄想であり、実現する事はまずない。


 しかしアメリカ以外にも近年、日本との防衛協力を押し進めるイギリスでは大手防衛企業が在日法人を設立する事を発表し、F-2戦闘機の後継機である次期戦闘機の共同開発も発表されたが、そんな英国企業からはクイーン・エリザベス級空母のノウハウを日本に提供する可能性も語られ、戦闘機だけでなく、いずも型の次に建造されるであろう空母においても開発に関わろうという意思を見せている。


 とはいえ、これらはまだ現時点で「そういった話もちらほら聞こえてくる」レベルでしかない。

 実際のところは「いずも型」の空母化が完成し、実際に海自が運用を開始してみない事にはその先をどうしていくかの道は示せないのだ。


 さて、そうなるともう地球上で検討できる空母はすべて検討し尽くした事になる。

 いい加減、どの空母を相棒とすべきか決める時だ。


 ずいぶん長く……それこそ1年近く考察してきた気もするが、まぁ気のせいだろう。

 とにかく結論をださなければならない


 しかし、改めて思う。

 どれかひとつには絞れないよなぁ、と……

 推しは多いとこんなにも困るのか……


 そうして悩んでいると女神が「答えは出ましたか?」と少々困り顔で声をかけてきた。

 こちらもずっと女神を無視して無言で考察していたのだ、女神としても「いつになったら決まるのだろう?」と心配になったのだろう。


 女神の労働時間が1日どれくらいかは不明だが、恐らくは退勤の時刻が迫っており、それで残業の心配をしているのかもしれない。

 もしくは次に対応する転生者が控えているから、後がつかえているので早くしろ! というお達しか。


 何にせよ、このままでは永遠にどの空母にするかで迷ってしまいそうなので「お困りでしたら相談には乗りますよ?」とは言われていないが、どの空母を選ぶべきか迷っていると打ち明けた。

 すると、何故か女神は引き攣った笑顔を浮かべて小声で「伝説の剣とかじゃないんだ」とボソっと呟かれた。


 伝説の剣。きっと、これまで女神が与えてきたのはそういった物ばかりだったのだろう。

 もしくは異世界に持って行ける物には限度があるのかもしれない。

 だとすると空母は大きすぎて持って行けないのか?


 少し不安になったので参考程度にこれまで転生した者はどんな物を所望したのか聞いてみた。

 するとやはり剣や魔法の杖といったファンタジーではありきたりな物ばかりが述べられたが、しかし中には何でも出し入れできる容量無制限の収納ボックスなんて理解不能なものもあった。


 そんな物がOKなら空母も問題ないだろう。と安心し、そしてふと思いついた。

 何でも出し入れできる容量無制限の収納ボックスが大丈夫なら、資材やら建造費なんかを気にせず空母を何隻でも無限に建造できる造船所が併設された港湾施設も問題ないんじゃないか? と……


 搭載する戦闘機を製造する工場や試験する施設もその中に含まれるなど細かな条件は提示しないといけないだろうが、物は試しだ。

 まずはそれとなく女神に「決定ではないよ」って言って聞いてみよう。


 すると女神は一瞬ドン引きした顔になったが「持っていく物をそういった施設にする事は……うーん、できなくはない、ですよ……」と歯切れは悪かったが大丈夫だと答えた。


 よし、言質を取った!

 ならば決まりだ!


 私は数ある現代空母からどれかひとつを選択できない……何せすべての空母が「推し」だからだ!

 ならば、そのすべてを異世界に産み落とす事ができる最強の造船・港湾施設! これこそ女神に所望する異世界に持って行く物だろう!!


 答えは出た、そして私はそれを女神に伝えた。


 「わかりました。それがあなたの望むものですね?」


 女神はずっと引き攣った表情を浮かべていたが、それは無理だと拒否はしなかった。

 つまりは問題ないという事だろう。

 なのでYES! と答えた。


 「いいでしょう……我の権限でこれから転生させる異世界に、その、あなたが望む機能を備えた港湾施設を持って行く事を許可します」


 女神がそう答えた直後、女神と自分がいた空間全体が眩しく光り輝き、女神の姿が光の中に消えていく。

 これから異世界とやらに転生するという事なんだろう。

 完全に消える瞬間まで女神は引き攣った表情を浮かべていたが、そんな事はどうでもいい。


 何せこれから転生した先では現代空母を無限に(まぁ有限ではあるのだが)造船する事ができる港湾施設が待っているのだ。

 素晴らしい!! 胸が高鳴る!!


 そう、これからはじまるのだ! 実現させるのだ!!

 空母好きにとってたまらない、友好国、仮想敵国、などという括りや対立からまずもって地球ではお目にかかれない、すべての空母が一同に介する光景を!!

 その空母たちに囲まれた異世界空母ライフを!!




 こうしてただのしがないアラフォーサラリーマンだった市ヶ谷岩雄は魔王を討伐する勇者として異世界に転生した。

 すべての現代空母を資材や建造費など気にせず建造し続ける事ができる港湾施設とともに……

まだ少し続きますが、本編である第一部(?)はこれにて終了となります

空母を愛するすべての皆様、これまでご愛読ありがとうございました!

気が向いたら☆評価なりブクマなり感想ください

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