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元サラリーマン、日本空母を検討する(3)

 ひゅうが型護衛艦。

 全長は197m、最大幅33m、排水量は13950トンという大型船体で、搭載できるヘリの最大数は11機。

 全通飛行甲板には4機分のヘリスポットが用意され、同時に最大3機が飛行甲板で運用可能だ。


 その見た目はまさに空母そのものであり、世界最小の空母であるタイのチャクリ・ナルエベトやイタリアのジュゼッペ・ガリバルディより大きく、同時期に就役した韓国の独島と同規模サイズである。


 とはいえ、「ひゅうが型」護衛艦は空母型船体をしているとはいえ完全な空母というわけではない。

 そもそも「ひゅうが型」は「はるな型」護衛艦の代替艦艇である。

 そのため当初の設計案では通常型の艦船であった。


 しかし、護衛艦隊の航空戦力のさらなる強化、ヘリコプター運用能力の充実が求められた事や指揮通信機能を持たせたいという上層部の思いから船体の大型化は必須であった。

 そこで「はるな型」後継艦の船型案には3つの案が提示された。


 まずは従来の護衛艦の外観、これはまさに「はるな型」の後継とはっきりわかる。


 次に船体の中央に艦橋構造物があり、これの前後に巨大な飛行甲板がある外観だ。

 言うなれば巨大な飛行甲板のド真ん中に巨大な構造物をドンと置いて前後を分断したような形である。


 これに近い形の外観を持つ艦船はイギリス海軍が1918年に巡洋戦艦フューリアスを改造して完成させた世界初の空母フューリアス、その最初期の姿だ。

 フューリアスはその後、大規模な改装を幾度か経て全通飛行甲板の姿となったが、そんな原初の空母の姿をした艦船など建造して役に立つだろうか?


 そして最後の案が全通飛行甲板を有する完全な空母型の外観である。


 この3つの案の中で防衛庁はまず2つ目の案のイメージ図を公表したのだが、これが完成予想図ではなくイメージ図であった事から、公表時から物議を醸した。

 なぜなら、通常は詳細な完成予想図とともに公表するものを、精密さにかけるイメージ図でこれを公表したからだ。


 この事に関してはこれは閣議決定の対象ではなく以後の作業を束縛しないためとされたが、それにしてはイメージ図に描かれる2本の煙突は右舷一杯に寄っており、マストなども右寄りであった。

 また左舷寄りには大きなシャッター付きの構造物があるが、これはヘリコプター整備用格納庫とされた。

 しかし飛行甲板下には十分な格納庫のスペースがあり、そこと飛行甲板を行き来するエレベーターも付けるのであれば、なぜ整備用ハンガーを甲板に設ける必要があるのだろうか?


 そのようなものは無駄である事は明白であり、3つの案の中で合理的に多くのヘリを運用するには空母型の案しかなく、検討の結果は必ずそうなる。

 一部の批判的識者からは当初から空母型となる事は決まっており、空母型を取得するという事実に対する世間の反発を和らげるため、後から追求しにくいイメージ図とした茶番ではないか? との声があがった。


 その批判がどこまで正しかったかはさて置き、最終的には空母型の案に決まり、2003年には完成予想図が発表された。

 そして2006年5月にこのDDHは起工し2007年進水、2009年3月18日に1番艦「ひゅうが」が就役した。

 2番艦「いせ」は2008年5月に起工、2009年8月進水、2011年3月に就役する。

 これによって「はるな型」護衛艦は退役し、DDHは4隻中2隻が空母型艦船となった。


 とはいえ、ひゅうが型は空母型であるにも関わらず常時搭載するヘリの数がはるな型と同じく3機である。

 しかし、それはあくまで平時の話で運用面では最大で11機搭載でき、飛行甲板で同時に3機運用できる点は大きい。


 そして飛行甲板には2箇所、格納庫にアクセスできる航空機用エレベーターがあり、後部の第2エレベーターは前部の第1エレベーターよりも大きく、SH-60J/K哨戒ヘリをローターを広げたまま直接昇降させることができる。


 それだけではなく、大型のV-22 オスプレイの収容も可能であり、2013年に実施された日米統合実働演習「ドーン・ブリッツ13」においてひゅうがは米海兵隊所属のMV-22B オスプレイを飛行甲板の後部5番スポットに発着艦させており、その際、翼を折りたたんだオスプレイを後部エレベーターを使って艦内格納庫に移送、収納している。

 これは後部エレベーターの寸法がオスプレイと同じく大型ヘリであるMH-53E掃海・輸送ヘリを基準に設計されたため可能であったのだ。


 ちなみに、この一件はティルトローター機であるオスプレイを航空機としてどうとらえるか、ひゅうがを空母としてどうとらえるかによって見方は変わるのだが、戦前・戦中・戦後を通して、米軍の航空機が日本の空母に着艦したのは史上初めてであり、歴史上意義のある出来事である。

 (太平洋戦争の珊瑚海海戦においては夜であったため誤って米空母に着艦しかけた事はあったのだが……)


 そして、このドーン・ブリッツ13以後、ひゅうが型に米軍のオスプレイは度々発着艦するようになる。

 2016年の熊本地震においては被災地への物資輸送支援に当たっていた在日米海兵隊が八代海に展開したひゅうがにオスプレイで何度も発着艦し空輸を行っている。


 そういった航空機運用以外の面ではひゅうが型は護衛艦としてはじめて、艦隊の旗艦用司令部作戦室であるFICを第2甲板のCIC後部に設置している他、C4Iシステムが従来の護衛艦のものから軒並み一新されている。


 そんなひゅうが型は空母型の外観から勘違いされがちだが、完全に航空機運用に特化しているわけではなく、自艦の防衛を他の水上戦闘艦に委ねず自己完結可能な戦闘力も有した重武装艦だ。

 この点が他国の空母と違う点で、どちらといえばロシアの航空巡洋艦に性質は近い。


 外観が空母型であるため、主砲や対艦ミサイルといったわかりやすい武装こそしていないものの、飛行甲板の最後部右舷側にはESSM対空ミサイルに07式垂直発射魚雷投射ロケット(新アスロック)を発射できる16セルのMk41VLSを装備。

 艦首には3連装魚雷発射管や20mm機関砲CIWS、ECM電波妨害装置等も装備し、高い対空・対潜戦闘能力を備えている。


 また搭載機のSH-60KはAGM-114M ヘルファイアII空対艦ミサイルが装備、運用でき、実質航空火力を有しているともいえる。


 艦首には大型バウ・ソナーであるフランク・アレイ・ソナーを備えたOQQ-21ソナーも装備し、新アスロックなどと合わせて高度な対潜能力も有する。

 まさに潜水艦を狩るプラットフォームであり、海上自衛隊は設立当初よりの悲願であった優秀な対潜空母をついに手に入れたわけだ。


 とはいえ、これは対潜空母とはいってもあくまでヘリ空母だ。そして強襲揚陸艦でもない。

 つまりは私の求める空母ではないわけだが、しかし2007年にある新聞社の取材に応じた海自幹部はひゅうが型について「政治判断があればいつでも空母に改造できる」と述べている。


 果たしてひゅうが型を空母に改装する事は可能だろうか?

 これに対する答えはできない事はないが極めて難しいと言えるだろう。


 まずひゅうが型を空母にする場合、艦載機をどうするか? といった問題がでてくる。

 ひゅうが型の飛行甲板は当然ながらスキージャンプ勾配のないフラットトップ型だ。

 そして飛行甲板の長さは197mでカタパルトもアレスティング・ワイヤーも装備されていない。この条件ではまずもってCTOL機の運用は不可能である。


 ならばSTOVL機は運用可能か? と言われれば、恐らくはギリギリ可能だろう。

 ただし、最新のF-35Bの運用は絶望的で、AV-8B ハリアー IIをなんとか改修の内容次第で運用できるといった具合である。

 しかし、今日の国際情勢下において性能面で旧式下したAV-8B ハリアー IIを無理矢理搭載する意味はあるだろうか?

 これにはあまり多くの賛同は得られないだろう。


 艦載機の面以外では、飛行甲板に2箇所ある艦内の格納庫にアクセスできる航空機用エレベーターの位置が非常にまずい。


 飛行甲板の前後に設置されたこのエレベーターは両方とも艦の中央に設けられているのだが、これはつまりはエレベーターで運べる大きさを制限してしまっている。

 確かに後部エレベーターはオスプレイを収納できる大きさはあるが、それでも翼を折りたたんだ状態にして初めて可能なのだ。


 これが多くの空母で見られる設計、艦橋前部もしくは後部の右舷に寄せて設置されている形ならば、エレベーターからはみ出る大きな機体であってもエレベーターの上下動が可能であっただろう。

 しかし、ひゅうが型はそうではない。2つのエレベーターが艦の中にある、埋め込み式だ。


 これは将来的に大型の航空機を運用するとなった場合、それに対応したエレベーターの拡張が事実上できない事を意味している。

 さらにエレベーターで航空機を上げ下げしている作業中は、艦内、飛行甲板ともに航空機を移動させなければならず、当然、その間は航空機の発着艦は不可能である。


 また、ひゅうが型は上記で述べた通りミサイルを射出するVLSを艦尾右側に装備しているが、これは当然ながら艦体に埋め込まれているため、ミサイルの区画ぶん、甲板や艦内の航空機運用スペースは削られている。

 これは近代化改修前のロシアのアドミラル・クズネツォフに近い形だ。


 正式な空母として艦内の航空機運用スペースを増やすためにこれを取り外すとなれば、現在のアドミラル・クズネツォフ同様、大規模な改修が必要となる。

 しかし、それを行ったとして運用できる航空機が制限される以上はあまりVLSのミサイル区画を取り除く意味はないだろう。


 つまりはひゅうが型は今の形、対潜ヘリ空母としての形が最もベストの状態であり、無理矢理空母化しようとしても、失敗作の空母しか生まれ出ない。

 つまり事実上、ひゅうが型の空母化は不可能なのである。


 しかし、ひゅうが型には対潜空母としての優れたスペックがあり、対潜水艦の能力向上は海上自衛隊にとって必須事項であった。

 何より、このひゅうが型は後に控える大型艦のテストベットしての役割を大いに果たした。


 そう、ひゅうが型の運用実績を元にいよいよ誰しもが待ち望んだ戦後日本初の空母が誕生するのである!

 それこそが平成23年度~平成27年度における中期防衛力整備計画、いわゆる22中期防での建造が検討されたDDH「しらね型」の後継艦だ。


 2015年3月25日に就役したこの艦船こそが「ひゅうが型」の拡大改良型である19500トン型DDH「いずも型」である。


 ではその中身を見ていこう。

特にオチもない短い連載作品になるかと思いますが、気が向いたら☆評価なりブクマなり感想ください

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