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元サラリーマン、日本空母を検討する(2)

 おおすみ型輸送艦。

 全長は178m、最大幅25.8 m、排水量は14000トンとヘリ空母として見た場合、タイ空母より小さく感じるがこれは当然でおおすみ型は外観こそ空母型であるが、あくまでも「輸送艦」なのだ。空母と比べて小さいのは当然だろう。


 とはいえ、その内容は輸送艦というよりは揚陸艦であり、そして輸送艦として見た場合この規模はかなりの大型なのである。

 それもそのはずで、おおすみ型の艦種はLST。戦車揚陸艦であるが、これの大型化を長年ずっと現場部隊は求めて続けていたのだ。


 おおすみ型輸送艦の前級は「みうら型」輸送艦であり、これは戦後初の国産輸送艦である「あつみ型」輸送艦を拡大発展させた2000トン型輸送艦であるが、これはあくまでも日本が他国に侵攻された場合に敵国が占領した地域やその近傍に陸上自衛隊や在日米軍の部隊を輸送するのを想定している。


 自衛隊が日本国憲法の理念の元、専守防衛を掲げる組織である以上、この運用方法と輸送艦のスペックに問題はない。

 ただし、自衛隊の活動範囲が日本沿岸や近海を離れ、外界に出て行く場合はこのスペックでは全くもって頼りないのだ。


 それが顕著に露呈したのは1992年、自衛隊初の海外派遣となったPKOに基づくカンボジア派遣である。

 92年9月17日、第1次カンボジア派遣施設大隊を海上自衛隊はカンボジア派遣海上輸送補給部隊を編成して輸送艦「みうら」と「おじか」でカンボジアのシハヌークヴィル港まで輸送するが、この航海の最中、輸送部隊は台風に遭遇し小型の輸送艦であるがゆえに危うい場面もしばしばあったという。


 この時の様子を撮影した写真が後に週刊誌に掲載され、これが大型艦の予算に否定的だった当時の大蔵省主計局の担当者を納得させる材料になったとも言われている。


 何せこれまで大型輸送艦の計画案は何度も検討されながら頓挫してきたのだ。

 自衛隊が専守防衛の理念に基づき、日本国内とその近海にのみ閉じこもっているならば、確かに大型艦を建造する必要性はなく、そこに予算を割くなど大蔵省としては認められないだろう。


 しかし自衛隊のPKO参加によって、海外への安全な輸送手段の確保は早急な課題となったのだ。

 こうして平成5年度計画での8900トン型輸送艦の建造は承認された。


 そんな8900トン型LSTにはPKOカンボジア派遣での経験から様々な要求が取り入れられた。

 まずはLCACの運用が前提となり、航空機での輸送も視野に入れ、航空機運用能力も求められた。

 そして護衛艦と行動を共にする事を考慮に入れた速度も求められる。


 そのため、外観は元来の戦車揚陸艦から通常の船型に変更され、船体設計は一般の商船ベースとなり速度を確保するため海上自衛隊としては初のバルバス・バウが採用された。


 そして上甲板は艦首錨甲板を除き全通飛行甲板となり、艦橋構造物は右舷側に寄せたアイランド型とまさに空母と見間違う外観となった。


 これに関しては、この輸送艦で運ぶ機体はあくまで陸上自衛隊のヘリコプターであり、この輸送艦からヘリコプターを発着艦されるのも陸上自衛隊である。

 しかし陸上自衛隊の隊員は普段、海上の艦艇にヘリを着艦させる訓練などしていない。


 なので、そんな艦上作業に不慣れな陸上自衛隊に配慮し、着艦しやすいように艦上の障害物を除去した結果、船体前部の第1甲板から後部の飛行甲板まで一体となった全通飛行甲板となったのだ。


 だからこそ、これは狙って空母型の艦艇を建造したわけではなく、副産物的な意味合いが強いのだが、しかし世間はそうは見ない。

 おおすみ型が登場した当時、マスコミや批判的識者はこぞって「空母だ!」「過剰能力だ!」とおおすみ型を叩いた。

 これに対し海上自衛隊は「おおすみ型」はあくまで輸送艦だと冷静に説明を繰り返した。


 実際、おおすみ型は輸送艦であり、それ以上でもそれ以下でもなく空母の真似事も空母に改装する事もできない。


 まずその全長が178mと短く、スキージャンプ勾配もないためヘリ以外の航空機を運用するにはまったく適していない。

 そのヘリの運用に関しても航行しながらヘリコプターを発着艦させる機動揚陸戦ではなく、漂泊ないし錨泊状態での運用による海上輸送作戦を前提としているため、ヘリ空母の真似事はほぼ不可能である。


 何せ速力が最大で22ノットしか出せないのだ。

 元来、空母は航空機を発着艦させる瞬間が最も無防備であり、潜水艦の接近や魚雷攻撃を最も警戒しないといけない。

 そのため、空母は航行しながら航空機の発着艦を行うが、おおすみ型はこれを行うには低速すぎるのだ。

 それどころか静止している状態でないとヘリの発着艦は行えない。


 この事が、まずもって空母としての運用ができない事を物語っている。


 何より最大22ノットという速度は、通常護衛艦が最大速度が30ノット以上出すのに対して遅すぎるため艦隊行動が取れないのだ。

 これでは空母機動部隊など編成できるわけがない。


 問題はそれだけではない。

 おおすみ型は艦内に揚陸艇や水陸両用車を運用するためのウェルドックを設けているため、航空機を整備できるようなスペースが艦内にないのである。

 また飛行甲板にエレベーターは2基あるが、それは車両と貨物のためのものであり、航空機を艦内と飛行甲板に上げ下げができるサイズではないのだ。

 もちろん小型のヘリの収容は可能であるが、ヘリのローターを外すなどの処置が必要となってしまう。


 とはいえ、飛行甲板上には大型・中型ヘリの駐機スポット・発着スポットが各1個設けられている。

 実際、2013年の日米共同演習「ドーン・ブリッツ13」において、アメリカ海兵隊のMV-22Bオスプレイがおおすみ型輸送艦2番艦「しもきた」に着艦しており、この結果を受けて2014年以降、オスプレイの運用に対応した改修が計画されていたりもする。


 しかし、これはあくまで飛来するオスプレイを下準備なく受け入れられる程度だろう。

 おおすみ型でオスプレイを常に運用するという話ではない。


 と、ここまで「おおすみ型」に関して好印象を受けない話題ばかりしているが、これはあくまで「おおすみ型」を空母として見た場合の話だ。


 「おおすみ型」はあくまで輸送艦なのだ。

 だからそこに空母の真似事を求めるのは間違っている。


 では輸送艦としての能力はどれほどなのか?

 その内実を見てみると輸送艦というよりは揚陸艦だ。


 艦尾にはウェルドックを設けており、LCACが最大で2隻収容可能だ。

 そして港に入る事なく洋上からこれらを発進させる事ができる。


 さらに2013年には島嶼防衛の要として水陸両用車AAV7を平成25年度防衛予算から続々と購入を開始。

 2014年の参院外交防衛委員会では防衛省の防衛政策局長がAAV7を陸自が敵前上陸するための装備として購入し、これを「おおすみ型」で運ぶ構想を説明している。


 これに伴い平成27年度予算では「おおすみ型」のウェルドックに関してAAV7が出入りする艦尾門扉を強化するため案が出され、艦内ドックの排水能力向上、エレベーターの改修が行われた。

 こうして「おおすみ型」はLCACのみならずAAV7の運用能力も手に入れ揚陸艦としての色合いを強めていく。


 そんな中、中国との尖閣有事を見据えた陸上自衛隊版海兵隊とも言われる水陸両用作戦部隊である「水陸機動団」が2018年に設立される。

 この陸自の部隊はその性質ゆえに主要な装備品である装甲車両がAAV7であり、島嶼防衛、離島奪還という目的からこれらを離島へ運ぶ手段は必要不可欠であった。


 そのため水陸機動団と「おおすみ型」輸送艦はセットで活動する事が多く米軍と水陸機動団の共同訓練などにも出向き、ウェルドックからAAV7を発進させるシーンも多くなってきた。


 そんな「おおすみ型」であるが、水陸機動団とのセットでの運用が常態化してきた中で要求されるスペックも増えてきており、今後能力向上の改修計画が持ち上がっているという。

 何せ水陸機動団は3隻の「おおすみ型」に大きく依存している常態だが、現在の「おおすみ型」が必ずしも水陸機動団が出動する場面である島嶼防衛、離島奪還作戦という事態に100%対処できる保証はないのだ。


 そこで2019年に日本で初めて開催された大規模な防衛・セキュリティ総合展示会であるDSEI Japan 2019において将来強襲揚陸艦(LHD)の設計案が国内企業から発表された。


 その案は基準排水量約19000トンで全長約220mと他国の強襲揚陸艦と比べると少しサイズが小さく感じるが、このLHDには「おおすみ型」にはないMV-22オスプレイを艦内収容し整備する能力があり、最大で5機のオスプレイを搭載可能だという。


 この案はあくまで企業が勝手に作った設計案であり、国から今のところLHDに関する話はでてきていない。

 何せ国としては「おおすみ型」の近代化改修でもオスプレイの運用が可能になるといっている以上、おおすみ型の近代化で当面は凌ぐという事なのだ。


 実際の現場で働く水陸機動団の隊員がそれをどう思うかは別として、国としては「おおすみ型」の改修による能力向上に期待しているという事なのだろう。


 そして「おおすみ型」は現在の島嶼防衛で起こりうるであろう最大の懸案事項である尖閣有事、さらには台湾有事における邦人救出作戦における大量輸送能力での真価が期待されている。


 もちろんそれは災害派遣でも例外ではない。

 2022年1月に起こったトンガでの海底火山の噴火による被害において「おおすみ型」は支援物資を運ぶため派遣された。

 噴火により港湾施設が被災し船が接岸できない場面で「おおすみ型」は有用なのだ。


 と、おおすみ型について触れてきたが、どれだけ揚陸艦としての能力があろうとこの艦艇は輸送艦、空母ではない。

 しかし、おおすみ型の登場によって空母型の艦艇であっても、目的用途によっては性質が異なると国民に理解してもらえる布石にはなった。


 こうして次なる空母型の艦艇が海上自衛隊に生まれる土台ができたのだ。

 そして、平成13年度~平成16年度における中期防衛力整備計画、いわゆる13中期防においていよいよDDH「はるな型」の後継艦が建造される事になる。


 それこそが13500トン型DDH、「ひゅうが型」護衛艦である。

 ついに海上自衛隊が戦後長らく待ち望んだ正真正銘の「ヘリ空母」が2009年3月18日に誕生したのだ!


 ではその中身を見ていこう。

特にオチもない短い連載作品になるかと思いますが、気が向いたら☆評価なりブクマなり感想ください

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― 新着の感想 ―
[良い点] 日本人の転生者なら異世界へのお供におおすみ型って結構アリなんじゃないですかね、厨房とか使い易そう(小並感) 冒険者もたくさん乗せられそうですし、車両甲板にはお風呂を設置してですね(ry […
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