元サラリーマン、南米やアフリカ、アジア各地の空母を検討する(2)
タイ海軍唯一の空母チャクリ・ナルエベト。
この空母は東南アジア地域において、どこよりもはやく空母を導入したことで就役当初は注目を集めた。
とはいえ、タイ海軍による正式な艦種は外洋哨戒ヘリコプター母艦なのだが……
第2次大戦後、タイにとって安全保障上の脅威は隣接するカンボジアやベトナムといった共産国、さらには国内の共産勢力であり、重視すべきは陸であった。
しかし、冷戦が終結すると、安全保障上の脅威は南シナ海での海洋権益をめぐる争いへとシフトする。
そこでタイは海軍の強化に乗り出し、その海軍の中核に据えたのが空母であった。
当初はドイツに7800トン級の小型空母を発注したが、これは1991年7月にキャンセルされている。
かわって1992年3月にスペインに発注し、建造されたのがチャクリ・ナルエベトなのだ。
その外観は、当時、まだスペインで現役であった空母プリンシペ・デ・アストゥリアスにそっくりであったが、それもそのはずで、設計したスペインではBSAC-160と称されており、正真正銘の空母プリンシペ・デ・アストゥリアスの縮小改良型なのである。
とはいえ、プリンシペ・デ・アストゥリアスに比べると艦橋のデザインは洗練された外観へと変わっている。
そしてプリンシペ・デ・アストゥリアスと同じくスキージャンプ勾配は傾斜12度となっているが、その規模は全長は182.2m、全幅30.5mとプリンシペ・デ・アストゥリアスより一回り小さい。
おかげで現役の空母の中では世界最小の空母となっている。
そのため収容できる機体の数も少なく、STOVL機を4~6機にヘリを6機ほどしか収容できない。
とはいえ、詰め込めばハリアーなら10機、ヘリは15機ほど詰め込めるスペースは格納庫に存在するのだとか。
とはいえ、購入当時はヘリのみの搭載計画であったが、スペインから退役した中古のAV-8Sマタドール9機を格安で譲渡され、配備したためSTOVL空母となった。
しかしAV-8Sは購入時点ですでに老朽化しており、タイ海軍としても活用する状況が訪れなかったため、2006年に運用を停止している。
現在はS-70BとMH-60Sナイトホークを各6機搭載した完全たるヘリ空母として活動している。
そんなチャクリ・ナルエベトは当初、艦尾にシー・スパロー対空ミサイルを発射するVLSを後日装備する計画であったが、就役した1997年にはアジア通貨危機が発生し、タイは国防費を大幅に減少させた。
これによってVLSの装備計画は中止となり、代わりに2001年にミストラル短距離滞空ミサイルランチャーが艦尾と両舷に装備されている。
空母としての活動としては2004年のスマトラ沖地震や2010年のタイ大洪水などで災害救助活動を行っているが、航海に出ての活動な活発はあまり行われておらず、母港からほとんど出ていない。
もちろん、2018年のシンガポール海軍創設50周年国際観艦式に参加したり、自国の観艦式には姿を見せるが、海軍艦艇として、洋上での大々的なプレゼンスは行えていないのだ
これはタイ海軍の予算不足というのも関係しているが、おかげで停泊する基地を訪れた観光客を相手にするのが主要な任務となってしまっているのが現状だ。
とはいえ、そんなチャクリ・ナルエベトにも変化の兆しが生まれている。
2021年11月26日、チャクリ・ナルエベトの飛行甲板に固定翼機が15年ぶりに帰ってきたのだ!
その機体はMARCUS-B。タイの海軍研究開発局が開発した固定翼無人航空機、UAVである。
垂直離着陸が可能なこのドローンは2021年3月のタイ海軍演習の開会式で発表された機体の改良型であり、その性能をチャクリ・ナルエベトの飛行甲板上で実際に運用しチェックしたのだ。
MARCUS-Bは全長2.5m、翼幅4.3mと小さな機体ではあるが、これは海軍の要望によって開発され45kgの離陸重量と10kg以上のペイロード容量を持っており、約160~180kmの運用範囲内でこれを積載しながら37ノットの速さで飛行することが可能なのだとか。
MARCUS-Bはテストと並行しながら量産を開始し、最終試験終了後の2022年年内には運用を開始する予定だという。
これまで観光空母と呼ばれていた世界最小空母の活動に変化が生じる可能性がある出来事である。
しかし、MARCUS-Bの運用がチャクリ・ナルエベトで始まったとしても実質的なヘリ空母である事に変わりはない。
残念ながら世界最小空母であるチャクリ・ナルエベトは検討に値しないであろう。
そこで今度は韓国に目を向けてみよう。
うむ、韓国海軍……これはまさに扱いは慎重にと言わざる得ないデリケートな題材だ。
というより、海軍に限らず、韓国軍は日本在住のミリオタにとっては争いの火種である。
何せ冷静に韓国軍の実力と正当な評価を下せる層と、嫌韓感情をこじらせた層とで衝突が発生するのだ。
一部では、韓国軍を話題にすればその人の本質がわかるリトマス紙と言われるほどなのである。
なので、ここではあまり韓国軍やその背景に関して深堀はしてないでおく。
さて、それでは本題。韓国海軍であるが、当然ながら現時点で空母は保有していない。
現在韓国海軍が保有しているのは全通飛行甲板の強襲揚陸艦だ。
その名を独島。
その命名した背景やらは上記に触発するので触れないでおくが、2007年に就役したこの強襲揚陸艦は全長199m、幅31mとタイ空母チャクリ・ナルエベトよりも大きく、同時期に就役した日本の護衛艦ひゅうがよりも少し大きい。
艦尾にはウエル・ドックを要するが、他の強襲揚陸艦と異なる点は車両甲板と航空機格納庫が兼用となっており、その兼用のスペースの後部がウエル・ドックとなっているのだ。
おかげで艦内の収容スペースは窮屈だという。
とはいえ、飛行甲板は大きく、大型輸送ヘリであるCH-53 シースタリオンやMV-22 オスプレイの発着も可能となっている。
実際2015年3月26日、米韓共同訓練の一環で独島の飛行甲板に普天間基地所属の第262海兵中型ティルトローター飛行隊のMV-22B オスプレイが初着艦している。
とはいえ、独島の飛行甲板は耐熱仕様では無い様ため、この時オスプレイの排気温度に耐えるため機体右側のエンジンの排気口下に保護用のシートを敷いていたという。
また、オスプレイが着艦した一番後ろの発着スポット以外は、飛行甲板の幅が狭く、プロペラが艦橋に接触する可能性があるため、大型ヘリやオスプレイの発着には制限がかかり、なおかつ昇降装置が小さいためオスプレイを格納庫に収納するのは厳しいといった印象を受けた。
そういった設計上のミスも多くあったのが独島であり、そのためか計画時には3隻の独島級強襲揚陸艦を建造するはずであったが、実際は13年経ってようやく2番艦が設計を見直して建造され就役したという状態である。
そんな独島は多くのトラブルや故障、運用上の不手際、設計上の欠陥があり、順風満帆に運用されてきたとは言い難い。
とはいえ、このあたりに関しては上記で述べた対立の事もあり、あまり深堀はしないでおこう。
さて、独島級強襲揚陸艦であるが2021年6月28日には2番艦である「馬羅島」が就役している。
馬羅島は独島から13年経ってから建造された艦艇であり、改善を施したことによって性能は向上しているという。
また2030年代に導入を推進する軽空母の運用ノウハウの習得と能力の確保のためのテスト艦の役割も兼ねるのだとか。
飛行甲板は、材質を高張力鋼から超高張力鋼に変え、オスプレイのような垂直離着艦航空機も離着艦できるようになったという。
しかし、一部では馬羅島は甲板は耐熱性が不足しているため垂直離着陸機は離着陸できないという声もある。
だが、馬羅島に搭載されるレーダー群は独島の時と違って大幅に国産化され、性能が向上している。
その実力はまもなく開始される2022リムパックで披露されるだろう。
韓国海軍は2022年に実施される多国籍の環太平洋合同演習リムパックに歴代最大規模の艦隊を派遣し、その中核を馬羅島が担うのだ。
まさに国際デビューというわけである。
さて、馬羅島が注目を浴びる独島級強襲揚陸艦であるが、2018年には3番艦の「白翎島」を建造する計画が検討されている。
計画では3番艦「白翎島」はF-35Bの運用能力を追加することも検討しており、従来の独島級では垂直離着陸機を運用する空間が不足するため、戦闘機の垂直離着陸が可能になるよう滑走路の甲板を従来の独島級よりさらに厚くて強度が高い鉄板で補強し、戦闘機を別に格納できる二重構造の甲板を採択、30000トン水準のものになるという。
しかし、この3番艦に関してはおそらく建造される事はないだろう。
何せ同じ2018年8月に、独島級とはまったく違う戦闘機が搭載可能な30000~40000トンクラスの揚陸艦「LPX-Ⅱ」という計画を韓国海軍が検討し始めたからだ。
韓国海軍としては国産空母計画として立ち上げたわけであるが、もともとは強襲揚陸艦を想定していたためLPX-Ⅱという名前となっている。
2022年に基本設計を開始し2026年に起工、早ければ2033年の就役を予定しているという。
F-35Bはできれば20機ほど搭載する予定だとか……
2019年には2020-2024年国防中期計画においてLPX-Ⅱが正式に盛り込まれ、国内企業に受注している。
2021年2月には計画名が変更、正式に軽空母建造を目指す意味合いの「CVX」へと変わった。
これを受けて、イギリスやフランスといった空母保有国の企業が続々と韓国企業の開発を支援すると表明。韓国空母の現実味が帯びてきた。
CVXへと名称を変更した時に発表された完成予想図のCGではイギリスのクイーン・エリザベス級と同じく艦橋を2つに分割し設置する事になっていた。
しかし、この姿が採用されるかは不透明だ。
何せCVXを巡ってはどの企業が建造するか、どういったコンセプトになるか、まだ完全には決定してないのだから……
それを物語るように2021年6月、釜山で開催された国際海洋防衛産業展MADEX 2021ではCVXを意識した軽空母の模型が韓国海軍の海兵隊広報館が運営するブースで2つ展示された。
ひとつは上記であげた完成予想図のCGを模型にしたもので、内部の格納庫が見える状態の模型も展示された。
もうひとつは飛行甲板前端部にスキージャンプ勾配を備えたもので、驚くことにこの案はSTOVL方式からSTOBAR方式に後々改造できるようになっているという。
当初の完成予想図のCG案では全通飛行甲板のSTOVL方式であり、全長263mの45000トン規模でF-35Bを格納庫内に12機ほど、飛行甲板上に16機駐機できるという。
この案の設計にはイタリアの強襲揚陸艦トリエステの建造を手掛けた会社が参加しているのだとか。
一方のスキージャンプ勾配を備えた案は全長270m、全幅60mの30000トン規模であり、F-35Bを格納庫内に8機、飛行甲板上に16機駐機可能だという。
そしてSTOVL方式からSTOBAR方式に将来的に改造が可能という点からも、STOVL機以外も運用できるとアピールしたいのだろう。
こちらはイギリスのクイーン・エリザベス級を設計した会社が多くの点で韓国企業に協力している。
果たしてCVXはどちらの案が採用されるのか? 気になるところではあるが、しかしいまだ韓国の空母が誕生するかは微妙なところだ。
それは、そもそもこの2つの案がどちらの案がいいかというよりは、これらを提案する企業がライバル企業同士であり、それに欧州の企業がのっかって食い物にしているという構図が少なからず国内の批判を招いているからだ。
なおかつ韓国海軍が空母を持つという意味の説明も不十分で一部の識者からは対北朝鮮の装備としては不分別であり、日本を意識した装備なら税金の無駄といった声が出ている。
さらに2022年に政権交代によって誕生した新政権はこの計画に疑問を持っており、前政権で強引に成立した建造予算がひっくり返る可能性は十分にある。
空母好きとしてはどんな軽空母が韓国から生まれるのか、興味があるが、現在のゴタゴタを見るにあまり期待はできないだろう……
何にせよCVXはまだ今後どうなるかわからない代物だ。
当然、そんなものは検討できない。
そして独島に馬羅島もヘリ揚陸艦であるため、検討には値しない。
そうなれば別の国の空母に目を向けるしかない。
とはいえ、もう地球には検討できる空母保有国は存在しない。
ただ一国を除いて……
そう、いよいよ最後の国の検討に入る時だ。
特にオチもない短い連載作品になるかと思いますが、気が向いたら☆評価なりブクマなり感想ください
※追記
韓国の新政権は2023年度国防予算からCVX計画を排除したが、一方で国産戦闘機KF-21の空母艦載機型の開発が持ち上がっており、その場合KF-21を載せる空母はCVXより巨大化するといった話が取りざたされている。
また韓国防衛事業庁は2022年11月28日、強襲揚陸艦「独島」の近代化改修契約を国内企業と結んだ事を発表。老朽化した戦闘システムやレーダーの換装に同型艦「馬羅島」の運用データもフィードバックし、大幅にアップグレードされるという。
近代化改修の完了と韓国海軍への引き渡しは2027年になるとの事。