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元サラリーマン、中国空母を検討する(2)

 中国初の空母「遼寧」。

 中国海軍では001型と呼称される本艦は元はアドミラル・クズネツォフ級2番艦ヴァリャーグである。

 排水量59000トン、全長304.5m、全幅70m、スキージャンプ勾配は14度のSTOBAR空母であり基本スペックはアドミラル・クズネツォフとそこまで遜色はない。


 艦載機はJ-15戦闘機が20機ほどと早期警戒ヘリのカモフ Ka-31に救難ヘリのZ-9などのヘリが12機ほどと言われている。


 とはいえ、就役するまでの道のりは決して平坦ではなかった

 まず中国がぶち当たったのが動力機関の修復における技術的問題だ。


 遼寧の動力は4基の蒸気タービンで、当初はそこまでスピードが出せない低速な空母になるのではないか? と見られていた。

 何せ遼寧の動力はスクラップとして購入したヴァリャーグがもともと搭載していた蒸気タービンを修復して使用しているからだ。


 動力システム改造の責任者は最も困難だったのが蒸気タービンの復旧だったと語っている。

 何せヴァリャーグの蒸気タービンに関しては中国がウクライナからヴァリャーグを購入する前、中国の意図に気付いたアメリカがウクライナにはやく解体するよう圧力をかけていたのだ。


 そのため主動力装置はことごとく外され、配線も多くが切断されていた。

 もっとも、この配線の切断に関してはウクライナが将来的に建造を再開できるようにはやい段階で実施されたものだったのだが……


 何にせよ、中国は重要な部品が外され、表記事項も消され、本来の設計で圧力がどのように設定されてたかもわからない手探り状態で蒸気タービンの復旧をはじめたのだ。

 なので修復できる部分は修復し、できない部分は新たに研究開発を行ったという。

 そんな試行錯誤の中で修復された機関が果たして本来のヴァリャーグの出力を発揮できるかは微妙だ。


 その証拠に2011年8月に実施された最初の海上公試の後、2ヶ月ほど乾ドックに入れられ大規模な修理が行われたという。

 ここで問題が解決したかはわからない。


 が、しかしその後の動向を見るに中国は動力機関の技術的課題を克服したとみるべきだろう。

 何せ2016年12月の台湾の国防部による発表では遼寧は5時間に渡って30ノットを維持し航行したといい、監視をおこなっていた日米台湾の潜水艦や哨戒機P-3Cもこれを確認している。

 速度に関しては問題がない事が判明したのだ。


 2017年4月には大連に戻り、艤装岸壁で整備を受け、2018年8月から近代化改装が実施された。

 この近代化改装によって艦載機システム、動力、電気系統、居住システムなどが一新され、遼寧は今後20年間は問題なく就役できる状態になったという。


 しかし、遼寧が動力機関に何らかの問題を抱えたままなのは事実であろう。

 実際、就役して数年は中国沿岸、または南シナ海での活動(主に搭乗員の育成や艦載機発着艦訓練)のみであったが、近年は太平洋にも進出し米空母が太平洋不在時を見計らって示威行為を行っているが、その航海は長くても2週間ほどと短い。


 恐らくは何らかの不具合を抱えており、長期の航海ができないのだ。


 とはいえ、本来の遼寧の役割は練習空母。

 中国海軍が空母の技術と運用ノウハウを学ぶためのものだ。

 むしろ、それにも関わらず太平洋にも進出して示威行為を行っているあたり、当初の想定以上に中国海軍が遼寧の実力を評価しているという事だろう。


 何せ命がけで修復させた空母だ。

 中国が動力機関以上に困難に直面し、克服して修復したのが航空機運用に関わるシステムだという。


 そもそも空母を運用した事がない海軍にとって固定翼機を運用する艦艇のシステムなど未知の物だ。

 それを中国は短い限られた期間で理解し、修復しなければならなかった。

 遼寧の航空システム主任設計師は30ヶ月の作業量を15ヶ月でこなしたと語っており、一部門で15名の作業員が仕事が原因で命を落としたとも述べている。


 これほどの死亡事故が起こるとは一体どんな作業安全管理を行っていたのか? と思ってしまうが、それほどまでに困難な問題が多かったという事だろう。


 完全な統計ではないが、遼寧上には航空機に関する各種の問題が1万件以上存在したと航空システム主任設計師は語っており、それぞれの設備が機能を最大限に発揮できる最適な位置はどこなのか? 艦載機を発艦する際に使用する偏流板と航空機の位置はどこがいいのか? エンジンの噴射の影響は? などなどひとつひとつ試行錯誤を繰り返して検証を重ねたという。


 そんな手探りで積み上げたもので満足に本来の性能を発揮できるかはわからない。

 だが、空母での航空機運用技術を一から理解するとはこういう事の積み重ねなのだ。


 この他、ロシアのアドミラル・クズネツォフが現在行っている近代化改装で実施しているP-700用VLSを撤去して格納庫を拡大させるという作業を遼寧は最初から実施しており、これによってアドミラル・クズネツォフよりも搭載する艦載機の数は増している。


 そもそもヴァリャーグを購入した時点で当然ながらP-700用VLS内は空であり、純然たる空母を求める中国からすれば重航空巡洋艦という空母とも巡洋艦ともどっちつかずな武装はいらないわけであり、艦内の区画改造も実施し、格納庫を拡充している。

 しかし、飛行甲板下に設置されていたP-700用VLSは飛行甲板の支持構造と一体化しているため、これの撤去作業は相当な苦労を要したと思われる。


 また艦橋には国産のフェーズド・アレイ・レーダーを装備している。

 これはヴァリャーグの建造が艦橋上に電子兵装、レーダー類が装備する前に建造中止となったため、スクラップとして購入した時にはまだ艤装が施されていなかったのだ。

 そのため中国は艦橋構造を改造し、国産のレーダーや戦闘管制システムを搭載しているが、その詳細がどういったものなのかは不明だ。


 また自衛用に国産のHQ-10(紅旗10)短距離対空ミサイル18連装発射機も装備している。


 さて、手探りの状態でそれでも空母を修復させた中国であったが、最大の問題はその空母に乗せる艦載機の調達であった。


 何せ空母で運用する戦闘機は陸上で運用する戦闘機とは違い、空母で運用できるよう構造が異なる。

 空母を運用していなければ、その構造や設計思想を理解できないだろう。


 2010年頃、中国海軍内では予算不足から艦載機に関してJ-10で我慢すべきなど意見が交わされたという。

 たとえ中国といえど、予算には限りがあり、空母の建造に莫大な資金を投じた上で艦載機にも莫大な資金を投入する事はできないという事なのだろう……


 当初、中国はロシアからSu-33を導入しようと検討していた。

 しかし、ロシア空母を検討した際にも触れた通り、この交渉は決裂に終わる。


 中国は国産の艦載機を作る事を目指しており、Su-33はあくまで国産の艦載機を造る上での技術参考品として数機だけ購入したかったのだ。

 つまりは遼寧でのSu-33運用は考えていない。


 一方でロシアとしてはSu-33を大量に売り込みたい。

 何せSu-33はすでに製造ラインが閉じた生産が終了した機体だ。

 そんな機体をたった数機だけ造るなどコストが洒落にならない、売るならまとまった数だというわけだ。


 結局ロシアは2006年、中国がSu-27SKをベースに開発した戦闘機J-11Bが知的財産権違反にあたるとして、中国へのSu-33売却交渉を打ち切った。

 こうして中国は艦載機の自主開発を余儀なくされたのだ。


 とはいえ、中国は2001年にウクライナに残されていたSu-33の試作機T-10Kをすでに購入しており、これを徹底的に研究して空母着艦時の衝撃に耐える機体構造や脚部構造、翼の折りたたみ構造を艦載機開発に落とし込んでいた。


 ロシアがSu-27を艦載機Su-33に昇華されたのと同じく、中国もSu-27SKをベースに開発した戦闘機J-11Bを艦載機へと昇華させる。

それがJ-15。中国が現在保有する唯一の空母艦載機だ。


 J-15は上記にあげた開発経緯からもわかる通り、Su-33と外見が瓜二つだ。

ロシアとしては断固受け入れられないだろうが、西側からはSu-27フランカーの派生型と受け止められており、NATOでのコードネームはフランカーX2となっている。


 とはいえ、J-15はSu-33とは内容がまったく異なっている。

 機体は複合素材でできており、火器管制レーダーなどのアビオニクスは国産化されている。


 そんなJ-15は国内向けには「おそらくF-22を除き、事実上、各国軍隊で運用されている全ての現用戦闘機と空気力学的な性能は対等か凌駕する」と述べていたり、「爆弾の搭載量、戦闘行動半径、機動性がF/A-18と一致する、出力重量比で10%優る」「空中戦闘能力ではF/A-18E/Fのものより優れており、アビオニクスの性能が第5世代戦闘機の基準を満たしている」とJ-15を賞賛する声が多いが、実際に運用する海軍からは性能に不満の声が多く聞かれるという。


 曰く、J-15は艦載機としては重量が大きすぎ、信頼性も低いという。

 J-15は確かに電子機器の面ではオリジナルのSu-33を凌いでおり、STOBAR空母で運用されている艦載機の中では2022年の時点で最強の戦闘機と言えるだろう。


 しかし、同時にSu-33の元となったSu-27の弱点を引き継いでおり、エンジンの出力不足などスキージャンプ勾配での運用ではパワー不足が指摘されている。

 中国海軍では国産エンジンでの出力アップを目指しているが、国産エンジン搭載型は洋上を飛行する艦上戦闘機のエンジンとしては信頼性が低いと評価されている。


 この辺りの課題克服が、現状J-15しか艦載機がない中国にとって今後の焦点となるだろう。


 そんなJ-15は2009年8月31日に初飛行したとされており、2012年11月25日、遼寧ではじめて発着艦訓練が実施された。

 この日が中国にとって実質的な空母運用の歴史の始まりと言えるだろう。


 そんなJ-15のパイロットは陸上航空隊の中から西側からはフランカーGと呼称される中国空軍向けのSu-30MKKに搭乗していた操縦士の中から経験豊富で操縦技量の高い操縦士を選抜し、空母艦載機への転換訓練をおこなって養成した。


 空母をはじめて運用する中国には当然ながらアメリカなどの艦載機搭乗員の教育訓練システムや育成機関など存在せず、空母の保有と運用を急ぐため、長い時間をかけての人員の育成を行わなかったのだ。


 そのため、2013年に発足した最初の空母航空隊であるJ-15艦載機部隊に配置された操縦士は「特級

飛行員」「一級飛行員」の中から選び抜かれた一握りの精鋭であった。


 空母の運用がはじまったばかりの中国では艦載機パイロットが圧倒的に不足している。

 2018年には中国海軍がJ-15操縦士を全力で募集していると中国メディアが報じたほどだ。


 しかし2020年には海軍航空大学内に教育訓練システムが構築され、状況は変化しているという。

 とはいえ、中国海軍の教育システムははじまったばかりだ。

 これらで教育を受けた者が熟練した操縦士となり、任務を遂行するには数年を有するだろう。


 中国が空母運用を軌道に乗せられるにはまだ少し時間がかかると言う事だ。


 さて、そんな遼寧だが、やはり異世界につれていく空母としては少々心許ないだろう。


 とはいえ、元来は中国が空母の運用ノウハウを学ぶための練習空母だ。

 最近でこそ、太平洋での活動も増えてきて、限定的な実戦での活躍も期待できるとされているが、2週間ごとに港に戻らないといけないなど、長期作戦に向かない艦艇なのは仕方がない。


 ここは別の中国空母を検討してみよう。

特にオチもない短い連載作品になるかと思いますが、気が向いたら☆評価なりブクマなり感想ください

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