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元サラリーマン、中国空母を検討する(1)

 私の名は市ヶ谷岩雄、かつてはただのしがないアラフォーサラリーマンをしていたが、今は違う。

 今はその生涯に幕を閉じ、転生後の新たな人生を歩むための一歩を踏み出している。


 その一歩とはつまり、転生後の異世界に連れて行く現代空母を選ぶ事だ。


 とはいえ考慮の末にアメリカ海軍のワスプ級強襲揚陸艦がベストではないか? との結論にいたったが、まだ結論を早急に出す時ではない。

 アメリカ以外の国の空母も検討すべきであろう。


 そんなわけで今回は中国空母を検討してみようと思う。


 中国、それは古い歴史を持った国家であるが、こと空母保有国という面においては新興国だ。

 何せ中国が空母を運用しはじめたのは2012年からなのだ。

 そして空母の運用ノウハウというものは1、2年で身につくものではない。


 特に黎明期や大戦空母空母と違い、システムが複雑化した現代空母を新興国が一から扱うには100年かかっても蓄積データが足りないと言われるほどだ。


 しかし、そんな空母新興国であるにも関わらず、中国が今後10年でどこまで強国となるかは予想できない。


 何せ中国海軍は今や恐るべきスピードで強化されていっているからだ。


 中国の現在の政権は2012年に「中国夢・強軍夢」という号令を出している。

 これは中国の夢、すなわち中華民族の偉大なる復興を実現するための強軍の夢なのだが、そのドクトリンが従来より変化しているのだ。


 中国は本来陸軍国家だ。

 領土は広しと内陸国家であり、長い沿岸部も限られた軍港しか存在しない。

 そしてその海。黄海、東シナ海、南シナ海はアメリカ、韓国、日本、東南アジア諸国に阻まれており、ここに打って出る意味は以前はあまりなかった。


 しかし、中国は一帯一路という現代版シルクロード政策を打ち出している。

 一帯は中国西部から中央アジア、ヨーロッパへと繋がる陸路。

 一路は中国沿岸部から東南アジア、インド洋、アラビア半島沿岸部、アフリア東岸部を結ぶ海路だ。


 この一路のシーレーンを守る遠海護衛艦隊の構築こそ、中国が大海軍建設を押し進める目的なのである。

 ゆえに中国軍のドクトリン、強軍夢は従来の「軍事闘争の準備を強化せよ」から「海上方向への軍事闘争を強化せよ」に明確に変化したという。


 そして、この号令より史上空前の軍艦大建造ラッシュがはじまった。

 人類史を見ても、短期間にここまで軍艦を建造しまくったのは第2次大戦時のアメリカくらいのものだろう。

 何せ中国は2012年から2017年の間に100隻近くの軍艦を建造し就役させているのだ。


 2016年に限って言えば、この年に建造した軍艦の総トン数だけでブラジル海軍の保有する艦艇規模に匹敵する。

 そう、たった1年でブラジル海軍クラスのものを作り上げてしまったのだ。


 この時、中国海軍の保有艦艇数はアメリカ海軍に迫る勢いであり、人民解放軍をアメリカに比肩する世界一流の戦闘部隊に変貌させるという一大プロジェクトの元、造船所や建造技術への投資を惜しまなかった。

 2015年では255隻だった戦闘艦は2020年には360隻となりアメリカの保有数を上回った。

 そして今後2025年までにその数は400隻にまで膨れ上がると専門家は見ている。


 一方のアメリカも建造数を増やし、355隻体制を目指す事を掲げているが、数の上ではもう中国に追いつくことはできないだろうと指摘されている。

 また中国が短期間で新造艦を一気に増やし、世界最大のアメリカ海軍の保有数を追い抜いたのに対し、アメリカは新造艦を増やしてもそれが旧式艦の更新に当てられ、数が増えないというジレンマがある。


 結局のところ、保有数という意味で対抗するには旧式艦を退役させずに現役に留めなければならなくなっているのだ。

 しかし、旧式艦ほどメンテナンスなどの維持費がかさむ船もない。


 システムも新しいものが開発されれば、それに置き換えねばならず、その試運転で現場から離れないといけない。

 純粋な数で比較しても、その中身が旧式艦と新造艦の割合で負けていれば、システム面での差がつけられていると考えられなくもないのだ。


 こうなった理由のひとつはアメリカの戦略の変化が影響している。


 中国海軍の脅威に関してはアメリカ軍の中でも90年代、2000年代初頭から警戒すべしという報告書は存在した。

 冷戦が終結した後、次の敵は中国となるであろう事も軍内部で共通の認識だった。


 しかし、対中国体制にシフトしなかったのは90年代後半、そして2000年代初頭からはじまった対テロ戦争が影響している。

 特に2001年9月11日に発生した同時多発テロ事件以降、アメリカ軍の戦略も装備も対テロ戦へとシフトした。


 これによって対国家用の戦略は見直され、装備も対国家用のものから対テロ戦用へと改められた。

 この間、旧式艦の更新が大幅に遅れたのだ。

 そして、アメリカが対テロ戦へとシフトする中、中国は従来通りの対国家用の装備更新を続けた。


 アメリカも気付いた時にはもう遅く、この差はいかんしがたいものとなっていた。

 中国もそれを理解してか、2017年の米中首脳会談では太平洋を中国とアメリカで二分しようという発言が飛び出している。

 とはいえ、この構想自体は中国に昔からあり、2007年に中国海軍高官がアメリカの司令官に太平洋分割統治を持ち掛けている。


 当然ながら、このような戯れ言が受け入れられるものではなく、はね除けられているが今後もそれが可能かは不透明だ。

 何せ、すでに艦艇数ではアメリカは逆転されている。


 そして、その中国海軍の艦艇は中国沿岸部にあるのに対し、アメリカ海軍の艦艇はすべて太平洋に展開しているわけではない。

 ハワイ、グアム、そして最前線の在日米軍基地や在韓米軍基地の数を足しても不利は否めない。


 単純な艦艇の数や装備の新旧で勝敗が決まるわけではないが、練度の違いだけで数をカバーできるわけでもない。

 その練度の質の面に関しても、昨今の中国海軍の発展はめざましい。


 そんなわけで、中国と同じ建造ペースを実現できないアメリカは多国間での押さえつけを行おうとしているのだ。


 それがアメリカ、オーストラリア、インド、日本で構成する「クアッド」。

 アメリカ、オーストラリア、イギリスで構成する「オーカス」。

 さらに日米韓による枠組みや、アジア太平洋への関心を高めるNATO、ヨーロッパ諸国との連携。

 アメリカは結局は脱退してしまったがTPPもそのひとつだ。


 しかし、ここまでしても中国を押さえつけられるかは微妙だ。

 この先10年20年で米中のパワーバランスがどう変化するかは注視しないといけないだろう。


 とはいえ、現状ではまだアメリカに分があるのは事実だろう。

 特に空母と空母の運用という面ではまだまだ中国はアメリカに太刀打ちできない。


 空母建造の技術という面では30年近く差がつけられているのを中国当局も痛感しているようだ。

 今後、この技術的課題がどこまで縮まるかが焦点となるだろう。


 そんな中国の空母の歴史は1958年の毛沢東が中央軍事委員会拡大会議において提議した「海上鉄道」からはじまる。

 この「海上鉄道」の中で毛沢東は空母建造に言及したのだ。


 とはいえ、この提議は造船業を大々的に推進し今後数年内に強大な海軍を建設しようというものだったが、1962年の中央工作会議では当時の国家主席の劉少奇に「三分の天災、七分の人災」とコテンパに批判されている。

 50年~60年代の中国の造船技術ではそもそも大型艦の建造など夢のまた夢だったのだ。


 そんな中国において、具体的に空母建造が検討されたのは1970年代。


 1972年、日本と中国は日中共同声明を発表、日中の国交が正常化する。

 それよりも前の1970年、日中関係改善の兆しが見える中、中国は訪問した日本人から旧日本海軍の艦船資料を提供される。

 この中には旧日本海軍の空母の資料も多数存在し、これを元に24000トン型の軽空母を建造する計画を立てたのだ。


 1970年7月に立案された事からコードネーム707項目と呼ばれた中国最初の空母建造計画は、しかし資金難や技術的問題で1年後には廃案となる。


 その後1982年、中国海軍は近代化計画を打ち出し、その中で空母保有の必要性を訴えた。

 その中身は2000年までに中国沿岸部の防備を固め、2010年までに第一列島線、2020年までに第二列島線までの制海権を確保し、2040年までにインド・太平洋においてアメリカと対等に対峙するというものであり、それには空母が絶対に不可欠な装備だと主張したのだ。


 1985年、中国は空母建造の技術研究のためオーストラリア海軍で退役となった空母メルボルンをスクラップとして購入。

 中国海軍関係者が解体する前に内部に立ち入り、徹底的に構造を調べ上げたという。


 この空母メルボルンは元はイギリスのマジェスティック級空母のマジェスティックであり、インドの初代空母ヴィクラントと同型艦だが、ヴィクラントと違いメルボルンはSTOVL空母に改装されていないため蒸気カタパルトは装備されたままであった。

 中国はこの時にカタパルトの研究もおこなっている。


 これを踏まえ、1989年1月、コードネーム891項目が立案される。

 これはメルボルンで得られたデータを元に50000トンクラスの蒸気カタパルト搭載空母を建造する計画で、船体設計や発着艦装置、電子兵装に至るまで国産で建造するというものであった。

 艦載機もMiG-21を国産化したJ-7、それを発展させたJ-8を艦載機に改造する事が検討される。


 しかし、この計画はすぐに頓挫する事となる。

 1989年6月に天安門事件が発生すると欧米諸国を中心とした西側諸国から中国は経済制裁を受け、最先端のハイテク技術が輸入できなくなったからだ。


 そんな中国に1995年、スペインは「SAC200」「SAC220」という20000トンクラスの中型空母を売り込んでいる。

 これはスペイン空母「プリンシペ・デ・アストゥリアス」の拡大版で「SAC200」が全長221.8mのCTOL空母であり、「SAC220」が全長240mのCTOL空母であった。


 「SAC200」では艦載機としてアメリカのA-4M スカイホークIIやイタリアとブラジルの共同開発機AMXが運用可能であり、「SAC220」はMIG-29KやF/A-18C/Dホーネットが運用可能と売り込んでいた。

 これに中国側は関心を示しつつも、コスト面で難色を示し結局購入は見送っている。


 スペインからの空母購入を見送った中国は翌1996年、ロシアからキエフ級1番艦のキエフを購入する。

 これに関してはロシア空母を検討した際にも触れた通り、キエフは天津でテーマパークとなったが、その内部構造は中国海軍関係者によって徹底的に調べ上げられた。


 1997年にはキエフ級2番艦ミンスクをすでにスクラップとして購入していた韓国から買い取り、内部構造を調べ上げた後、ロシア空母を検討した際にも触れた通りテーマパークになった。


 そして1998年にはウクライナからソ連崩壊後、未完成のまま放置されていたヴァリャーグを買い取る。

 とはいえ、これは当初はマカオの中国系企業が海上カジノとして使用するという名目で買い取ったものだった。

 しかし、実際にはこのマカオの中国系企業はペーパー企業で存在せず、2002年に中国の大連港へ係留されると中国軍の所有となる。


 まさに不意打ちともいうべき取得方法であるのだが、とはいえ、そこから2005年に至るまで顕著な動きはまったく見られなくなかった。


 これには中国海軍内での空母保有に関する賛否両論があったからだと言われる。

 ソ連/ロシア海軍内でも似たような話はしたと思うが、中国海軍内でも潜水艦派閥が空母保有に反対したのだ。


 とはいえ、1996年には空母の必要性を痛感する事件を中国は経験している。

 それが第三次台湾海峡危機である。


 中国軍は1995年から1996年にかけて台湾海峡や対岸の沿岸地域でミサイル発射実験を繰り返した。

 これはアメリカの台湾に対する政策転換に中国側が激怒した末にロサンゼルスを核攻撃すると発言したりと緊張の高まりが当時あったわけだが、アメリカはベトナム戦争以来となる最大級の軍事行動体制を取り、台湾海峡に空母ニミッツと空母インディペンデンスの2つの空母打撃群を派遣する。


 この圧倒的戦力の前に中国は為す術がなく、空母の絶対的必要性を痛感し、沿岸部だけでなく第一列島線までの制海権の絶対的確保がいかに重要かを思い知らされたのだ。


 2000年代に入り、中国は高度経済成長時代に突入する。

 経済も順調でそれにともなう技術の向上もめざましかった。


 これにはグローバル経済のもと、外国の生産工場をどんどん受け入れた事が大きい。

 外国の生産工場を受け入れ、そこで学んだ技術を中国の国内企業に落とし込んでいったのだ。

 こうしてメイド・イン・チャイナは広く世界に浸透していく。


 そんな中、順調な好景気を背景に中国は新たな空母建造計画を2004年8月に立ち上げる。

 それがプロジェクト048項目、現在も継続する本格的な空母建造計画だ。


 このプロジェクト048項目は2049年の中華人民共和国建国100周年までにいくつかの段階にステップが分かれている。

 まず第1段階、目安は10年、2015年までに最初の中型の蒸気カタパルト搭載空母を完成させる。

 続いて2隻目を2021年までに完成させ2023年に就役させる。


 第2段階は2035年までに大型の電磁カタパルト搭載空母を2隻完成させる。


 第3段階は建国100周年を目処にアメリカの原子力空母と同等の10万トンクラスの大型原子力空母を6隻完成させるというものだ。


 こうして中国の本格的な空母建造計画がはじまった。

 とはいえ、この時の中国にはまだまだ空母建造の関連知識が不足している状態であった。

 カタパルトはもちろんの事、着艦拘束装置の開発に必要な関連技術に製造するために必要な特殊鋼材などなど、中国にはまったく何もなかったのだ。


 そして、それは艦載機も同じだ。

 こういった建造するために解決しなければならない課題が多い中、中国は空母開発に着手しだしたのである。


 そんな中国がまず最初に取り組んだのが2002年に中国の大連港へ係留し、そのままの状態となっていたヴァリャーグの修復だ。


 2005年4月、ヴァリャーグはようやく造船所の乾ドッグに搬入される。

 これは海軍関係者や技術者、専門家によって徹底的に調査され、修復し建造続行可能と判断されたからだ。


 ヴァリャーグの船体の錆は落とされ、中国海軍軍艦の塗装に塗り直される。

 そして2005年8月、湿ドッグに移動し修復、建造作業が開始されたのだ。


 2007年11月に中国海軍は、修復したヴァリャーグを2008年に訓練空母として就役させる計画を発表する。

 しかし、この時点では2008年に就役が可能なレベルまで修復、建造が進んでいなかった。


 結局2009年にようやくドッグを離れ、艤装埠頭に移動し、艤装が本格化する。

 2011年8月、完成式典が催され、海上公試も行なわれた。

 とはいえ、この最初の海上公試では艦載機を搭載していなかったのだが……


 こうしてヴァリャーグは大連港へ係留されてから10年、ようやく2012年9月、中国初の空母「遼寧」として就役したのだ。


 ではその遼寧の中身を見ていこう。

特にオチもない短い連載作品になるかと思いますが、気が向いたら☆評価なりブクマなり感想ください

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