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元サラリーマン、ロシア空母を検討する(4)

 アドミラル・クズネツォフ以外の別のロシア空母となれば、目を向けるのはロシア国外になる。


 アドミラル・クズネツォフ級2番艦ヴァリャーグを買い取り、遼寧として完成させた中国。

 そしてキエフ級4番艦アドミラル・ゴルシコフを完全な空母としてロシアで大規模改装を行って取得し、ヴィクラマーディティヤとして就役させたインドだ。


 しかし、遼寧とヴィクラマーディティヤについては今は触れないでおこう。

 そう、目を向けるべきは未来のロシア空母だ。


 ロシア将来航空母艦。

 現時点では具体的な決定案がないものの、その本格的な開発作業は2023年から始まると言われている。

 そして、その開発期間は10年近くかかると見られ、その姿を現すのは恐らく2030年代後半だろう。


 その空母であるが、いくつか案がある中で原子力空母の建造も検討されており、それには未完成に終わったあのウリヤノフスク級の設計が参考にされているという。

 とはいえ、あくまで設計を参考にするだけでウリヤノフスク級を復活させるわけではない。


 そもそもソ連は空母の建造をすべて黒海にあるウクライナ国内の造船所で建造していた。

 そこが使えない以上、ロシアは大型空母建造に関して船体の一部を別々の造船所で建造し、それを接合するブロック工法を用いないといけない。

 このあたりの造船所の選定もこれからの課題となっていくだろう。


 そんなロシアが新たな空母を検討しだしたのは2000年代後半である。

 この頃、ロシア海軍はソ連崩壊後の混迷の時期を脱し、作戦遂行能力が大幅に改善していた。

 しかし、その艦艇の大部分はまだソ連海軍から引き継いだ旧式艦であり、世界規模での海洋展開を行える状態ではなかった。


 そこで「強いロシア政策」を打ち出すかの政権は海洋権益を守る力を高めるため、新たな空母の建造と機動部隊の設立を計画するようになる。

 これには当時の原油価格高騰によるロシアの高度経済成長も少なくとも絡んでいる。


 何せ、当時のロシアはその好調な経済成長を背景に2030年までにGDPトップ5入りを果たす目標があったほどなのだ。

 そのため、検討された新たな空母は当初、アドミラル・クズネツォフより小型の原子力空母を4隻、できれば6隻建造するという案であった。


 しかし、2009年、アメリカのリーマンショックが世界経済を襲うと、好調だったロシア経済は一変してマイナス成長となる。

 ロシア経済はそのまま浮上が見込めない状況となり、当然ながら原子力空母を4~6隻建造などという夢は語れなくなった。


 そこで新たな空母の構想は小さな原子力空母を複数持つのではなく、1隻を巨大な空母とする構想へとシフトしていく。


 具体的な姿が世間に示されたのは2013年、サンクトペテルブルクで開催された海洋兵器展示会IMDS-2013において8万トン級通常動力空母モデルの模型が展示されたのだ。

 後のIMDS-2015で詳細が発表されたその名はプロジェクト23000E シュトルム。


 原子力空母ではなく通常動力の空母であるシュトルムは、イギリスのクイーン・エリザベス級同様に飛行甲板にアイランド式艦橋を2つ有していた。

 また、キエフ級やアドミラル・クズネツォフのように重武装しておらず、純粋な空母をロシアは目指しているというのが見て取れる。


 全長は330メートル、幅40メートルと米空母に匹敵する規模であり、艦首とアングルド・デッキにスキージャンプ勾配を有するものの、電磁カタパルトを装備している。


 この当時、想定されていた艦載機はMiG-29KRにT-50 PAK FA(後のロシア初のステルス戦闘機Su-57)の艦載型に今後開発されるジェット推進早期警戒機に艦上ヘリであった。


 しかし、これはあくまで基本構想だ。

 ロシアは艦艇の基本構想を研究所が提案し、計画設計局が具体的に実施していく体制をとっている。

 なのでプロジェクト23000E シュトルムはあくまで研究所の構想にすぎず、この案がそのまま通るわけではない。


 実際、翌年の国際陸海軍兵器展示会DEFEXPO-2014において計画設計局は3つの空母タイプ(8万トン級、6万トン級、軽空母)の設計案があると語っている。


 軽空母案に関しては軍事博覧会「アルミヤ-2018」において半双胴形状の船体である軽多目的航空母艦の概要が提示されている。

 これは軽航空母艦「シトルム-KM」とも言われ、船体の前半部分が単胴で、後半部分が双胴になっている半双胴船型を採用する事によって従来の単胴船型よりも飛行甲板が20~30%ほど広い面積を確保できるというのだ。


 とはいえ、波浪による海水の打ち込みを嫌ってのものか飛行甲板にサイドエレベーターが無いため格納庫の面積はエレベーター部分で割かれ、狭くなっているのは否めない。


 そんなシトルム-KMであるが、翌年の軍事博覧会「アルミヤ-2019」においては原子力推進の中型シトルム-KMの概要が発表される。

 これは艦載機数が100機ほどとされ、ニミッツ級空母に匹敵する規模になるという。


 しかし、さきほども述べた通り、これらはあくまで構想を練る研究所の提案だ。

 実際に開発を行う計画設計局はIMDS-2019においてプロジェクト11430E「ラマンチーン」を公表し模型も展示している。

 これはウリヤノフスク級を元に開発された原子力空母であり、長さは350メートル、幅は約41メートルでスキージャンプ勾配ではあるがアングルデッキに電磁カタパルトを2基装備し、運用耐久年数は50年だという。


 計画設計局が発表した以上はこの案がベースとなりついにロシア将来空母の開発が始まるのかと思いきや、2021年、計画設計局は創立90周年に合わせて新たな軽空母構想を提示した。


 それがプロジェクト「ヴァラーン」

 いわゆる汎用海上複合体、モジュール設計の汎用艦プロジェクトである。


 アングルデッキにカタパルト2基を装備した、艦載機20機、ヘリ6機、無人機20機ほどを搭載する全長250メートル、幅65メートルの基本の軽空母を筆頭に、強襲揚陸艦、補給艦、病院船、北極圏支援船など様々なプラットフォームを作成できるというのだ。

 基本の軽空母では将来開発されるであろう垂直・短距離離着陸機の運用も想定しているという。


 果たしてプロジェクト「ヴァラーン」も現実にその姿を現すことができるのか? 今後の動向に注目したい。


 そんな2023年から開発が始まるロシア将来空母であるが、その具体的な姿はいまだ見えてこない……とはいえ、本命はプロジェクト11430E「ラマンチーン」である事は間違いないだろう。

 そして、その将来空母に搭載されるであろう艦載機の開発も着々と進んでいる。


 もちろん2023年に現役復帰するアドミラル・クズネツォフの艦載機であるMiG-29KRがそのまま継続する可能性もあるが、2030年代後半に登場する空母に搭載するのにはインパクトに欠ける事は間違いないだろう。

 プロジェクト23000E シュトルム当時では想定されていた艦載機はT-50 PAK FAの艦載機型であった。


 T-50 PAK FAは2017年にロシア初のステルス戦闘機Su-57として採用され、2020年に運用が開始されるがその高額さに加え、ロシア経済の停滞により調達が思うように進んでいない。

 尚且つSu-57艦上機型にいたっては開発は滞っているどころか、スホーイ設計局はSu-57より軽量化されたSu-75チェックメイトの開発を発表している。


 今後、Su-75チェックメイトの開発に着手するとなれば、Su-57の艦上機型は恐らく開発はされないだろう。

 そんなSu-57艦上機型に代わってプロジェクト11430E ラマンチーンで艦上機の最有力になっているのが現在ミグが開発中の新型戦闘機と無人機だ。


 この新型戦闘機はMiG-35と同サイズであるらしく、MiG-35をベースにした垂直・短距離離着陸機なのかはいまのところ不明であるが、今後モックアップの展示など何らかの提示があるだろう。


 ……と、ここまでロシア将来航空母艦について述べてきたが、結局のところ、まだ未来のロシア空母は輪郭が見えない代物である。

 ならばいくら検討しても、これはどうしようもないだろう。


 その他、ロシアで検討できるものといえば2020年に起工されたプロジェクト23900 汎用ヘリコプター搭載揚陸艦「イワン・ロゴフ」と「ミトロファン・モスカレンコ」がある。


 フランス空母を検討した際にも触れたが、ロシアはフランスからミストラル級強襲揚陸艦の準同型艦ウラジオストクとセヴァストーポリを取得するはずであったが、ウクライナ問題によってこれは叶わなくなった。

 そこでロシアは全通甲板ヘリコプター揚陸艦ラヴィーナというプロジェクトを立ち上げ、2020年に建造が開始、ロシア海軍への引き渡しは2028年になるという。


 イワン・ロゴフとミトロファン・モスカレンコには現在、攻撃ヘリや輸送ヘリの他、無人攻撃機の搭載も検討されているが、これは無人ヘリになる可能性が高いという。

 中々に興味深いところだが、今後ロシアで開発されるであろう垂直・短距離離着陸機の運用については話がでていない事から運用の可能性は低いだろう。


 そうなれば文字通りヘリ空母、私が求めているものにはならないだろう。

 それ以前にイワン・ロゴフもミトロファン・モスカレンコもまだ建造の最中であり、世に登場していない以上、異世界に持って行く事は不可能だ。


 となれば結局、ロシア空母で検討できるのはアドミラル・クズネツォフしかないわけだが、大規模な近代化改装が終わった後の姿が検討できない以上、一旦は保留だ。


 まだまだ他国の空母の検討が必要だろう。

特にオチもない短い連載作品になるかと思いますが、気が向いたら☆評価なりブクマなり感想ください


※追記

2022年8月、アルミヤ-2022においてはじめて軽航空母艦プロジェクト、コード名「ヴァラーン」の模型が展示された。

そして「ヴァラーン」は統合プラットフォームの軽空母案であり、同じく統合プラットフォームの「将来汎用揚陸艦」の模型もはじめて展示された。

飛行甲板の全長は220m、幅42mであり、エアクッション揚陸艇を艦内から発進させられるウィルドッグも備えている。


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