着替えの後は……?
魔女様が作ってくださった服は、男性に見える……というより少女にも見えるし少年にも見えなくない衣装だった。とりあえず一つ一つ、見て行こう。
まず手に取ったのは、さらしだ。
おそらく、シェイレブさんが魔女様にお願いしてくれたものなのかもしれない。
他の上の方は、ワインレッドのタンクトップに、白のワイシャツ。
下は暗い緑色のホッとパンツ、おしゃれなソックスガーターと靴下に革靴と言う組み合わせ。
「ソックスガーターって、あんまり履いたことないんだよな……」
念のため、自分のところの棚を確認すると一番下に数枚置かれた紙があった。
なんなのか知るために、黙視で手紙を読む。
『ガーターの付け方分からなかったらと思って絵と説明付きで書いといたからぁ、これで確認しながら見てねぇ』
シンプルな言葉で、それぞれイラストで描かれた手順は見ていてわかりやすい。
「…………ありがとうございます、シェイレブさん」
先に上半身の着替えから開始する。
サラシで胸を絞めて、赤いタンクトップの上に白いワイシャツを着る。
次にホットパンツと靴下を履いてから自分は紙に書かれた通りにソックスガーターを付けることを開始した。
「えっと、ステップ1、クリップを靴下に挟む……クリップってこれかな」
革でできたベルトの下に少し伸びた部位の先についている金属にそっと触れる。
ステップ2、クリップを挟んだら、きつすぎない程度にベルトを締める。
ベルトは、おそらく足の周りに付ける円形の革の部分のことだと察した。
不器用ながらもなんとか取り付けることができたため、ふぅと息を吐いた。
これで、魔女様が作ってくださった服に着替え終えた。
「うわぁー…………すごい」
まるでファンタジー世界の住人のようにも思えてくる格好に、思わず見惚れてしまった。
別に自分にと言う意味ではない。服がすごい、と言う意味である。
脱衣所に置かれた鏡で念のため確認する。
上半身しか映らないがそれでも私がこの世界の住人のように見えるか、最終チェックだ。
…………と言っても、シェイレブさんたちしか、まだ会ったことはないんだけど。
サラシもいつも通り巻けたし、それ以上の問題はないだろう。
「…………ああ、でもどうして学ランがないのか、シェイレブさんに聞かないと」
今魔女様からの新しいさらしを巻いているが他の服が見当たらないのだ。
とりあえず、シェイレブさんに会おう。
さっき入ってきた扉の方のドアノブに手をかける。
「ん、来たね稚魚ちゃん」
「はい、あのシェイレブさん私の学ランはどこか知りませんか?」
「だって稚魚ちゃん今日色々歩き回っただろうからせっかくお風呂入ったんだし、洗い物するの疲れるでしょ。今日だけ特別に俺らが洗ったから、次からは稚魚ちゃん洗ってねぇ」
ありがたいな、と素直に喜べないのはしかたのないことだろう。
それよりも、一番気になる単語が聞こえた気がする。
「俺ら?」
「一応言っておくけど下着とかはモニカが洗ったから大丈夫、稚魚ちゃんもさすがに女の子以外に自分の下着洗われんの抵抗あるでしょ?」
「……ありがとうございます」
よかった、でもどうやってモニカさんは私の下着を洗ったのだろう……?
あの細い前脚とかで、どう洗ったのかの方が気になるが。
シェイレブさんは歩きながら話そ? と言われ、頷き歩き始めた。
自分は着替えてから疑問に思ったことを口にした。
「あの、魔女様が作ってくださった服はありがたいんですが……どう見ても外出用の服に見えるのですが」
「ん? 魔女様の部屋に行くからだよ」
「……それは、今後どうするかの、ということですか?」
「俺らからは何も言えないんだ、ごめんねぇ。魔女様の部屋に行った後からなら、ちゃんと屋敷の説明するから」
「…………わかりました」
つまりそれは、魔女様の弟子だから、ということか。
それとも、何か条件を出されるかもしれないことをこの場で言ったら、反故にする可能性があるから……だろうか。
どちらにしても、魔女様に会わないとわからなそうだ。
シェイレブさんとある程度前の方へ進んでいくと、突然立ち止まる。
「はい、着いたよぉ」
自分たちがいるのは二階の廊下だ、どこを見たって部屋の中に入ったわけでも、入り口に立っているとは到底思えない。自分は不審げに、シェイレブさんに問いかける。
「……着いたって、ここ廊下じゃないですか」
「あはは、いいから見てなって」
彼は木の壁に近づくと持ち前の杖を使って壁の指差す。
「クウァエレレオクルス」
金色の光が、突然輝き出す。
眩しくて、目を一瞬閉じると次に見開いた先で壁だったところから突如分厚い扉が現れる。
まるで魔法で隠されていた扉を発見したかのよう、と言えば……その通りなのだろう。
「んじゃ、入って稚魚ちゃん。ここからは稚魚ちゃんだけは言ってねぇ」
「どうしてですか?」
「魔女様からそう命じられてんの、それ以上のことは言えないからもう入っちゃってくれる?」
「……わかりました」
自分は唾を飲んで、勇気を出してドアノブに触れる。
ガチャ、と音がして扉が開かれるとそこからはもう、彼女の部屋である領域だった。
「――――――来たね、お嬢ちゃん」
空色の瞳が、真っ直ぐと私を射抜いていた。