2.帰り道ふたり
7月中旬。夏真っ盛りの下駄箱は思っているより涼しい。
風通しが良く日陰になっているそこで、僕は高嶺さんを待っていた。
事は15分程遡る。
6限目が終わった教室で、掃除をする生徒以外は徐々に下校したり部活動に行ったりし始める。
僕は、折角の機会を逃すまいと行動にでていた。
「た、高嶺さん!」
黒板を消している高嶺さんに話しかけた。
いきなり背後から話しかけてしまったからか、高嶺さんは肩をビクッと揺らし、すぐに振り返った。
「はいっ?!あっ…えっと、なにかな…?」
「あの、もしよかったら、文化祭のことを早めに決めた方がいいと思うし、帰りながら話せないかなって…」
無理やり感は否めないが割といい口実になってないか?
「…うん、そうだねっ」
「良かった!!えっと、じゃあ…」
「掃除まだ終わってないから、水野くん、下駄箱で待っててくれない?」
「わかった!じゃあ下駄箱居るから!」
と、言うわけで、僕は掃除が終わるまで下駄箱に居る。
春海と自習室で勉強するのは断った。自習室に2人で行ったところで一緒に勉強するわけではない。勉強なら家でもできるし、それより今はこのことの方がよっぽど大切だった。
春海には「いや、お前本当、掌返しもいいところだな」とからかわれたが、こればかりは僕だって予想してなかった。
ただ、このチャンスはどうしても逃すわけにはいかないと、直感したのだ。
午後5時半。
じりじりとコンクリートに立ちつけられる西陽がいかにも夏の夕方を連想させる
高嶺さんと僕は、僕たちが住んでいる地域の住宅街に続く河原沿いの一本道を歩いていた。
「じゃあ、迷路の枠はダンボールで作るって感じでいいよね?」
「…うん、それがいいと思う」
文化祭の話は終盤に差し掛かっていた。
2人で進めるのはそれなりに簡単で、ほとんど意見は僕から言っているが、高嶺さんも細かいところのアドバイスや提案をしてくれて、おかげで今日だけでかなり色々な事が決まった。
「えっと、枠はダンボール…っと」
「…もしかして、メモしてくれてるの?」
高嶺さんは、僕がスマホに今日決めたことをメモしていることに気づいたようだ。
(…気の利くアピールができたのでは…?)
「うん、高嶺さんにも送るね」
ここで僕はナチュラルに連絡先追加の申し出をすることに。
「えっ?」
「…えっ?」
謎の高嶺さんの「えっ?」により、お互いなんだかよくわからない雰囲気になる。
「えっと、クラスグループ入ってるよね?それ、追加していいかな?」
「…あっ、う、うん!ありがとう!」
一体、なにに疑問を持っていたのかわからなかったが、高嶺さんはちょっと天然なのかもしれない。
僕はメモを取り終わったスマホをポケットの中にしまった。
文化祭の話が終わったら一気に話題がなくなった。そのせいで、少しだけぎこちない空気が2人の間を流れていた。
その空気を打ち切るべく、僕は切り出した。
「あのさ…小中と一緒だったのに、なんだかんだ接点なかったよね」
「…そう、だよね。一緒って言っても、クラス被ったの小学校と中学校で一回ずつだしね」
高嶺さんは少し俯いて答えた。
「そうそう、だからびっくりしたんだよなぁ。高嶺さんが同じ高校だったの!しかも、新入生代表で挨拶してて、本当すごいなぁって!」
「そんなことないよ!!」
高嶺さんは首を強く横に振り否定した。その後少し気まずそうに話を続けた。
「あの…私もびっくりした。…まさか、同じ中学の人がいると思わなくて。あの、中学が悪いとかじゃないけど、偏差値が高い高校だし、もっと条件の良い学校も多いから、どうしてこの学校にしたのかなって…思っちゃって」
「…そうだなぁ、まぁ、古い学校だけど、落ち着いてて良いなって思ったからかな?偏差値高いし、実際入ってからの勉強量も多いからちょっと大変だけどね。…高嶺さんは?なんでこの学校にしたの」
「…えっと、制服とかかな?私セーラー服に憧れてて、セーラー服の学校がいいなって!!あの…他の学校はブレザーとかが多いし、セーラー服に近のもあるけど、デザイン性が高いって言うか…私が求めてたザ・セーラー服みたいな感じなのは、この高校くらいしかなくて…」
「……」
…なにそれ。かわいい。
高嶺さんのあまり必死な発言に思わず言葉が出なかった。
確かに高嶺さんのセーラー服姿は本当に可愛らしく、冬服でも夏服でも可愛らしさは一切途切れない。本当に眼福この上ない。
「…や、やっぱり、ちょっと子供じみてるよね…もちろん大学のことも視野に入れた進学なんだよ…?」
「…やっ!全然!!いいと思うよ!制服、確かにセーラー服似合ってるし!!」
「…あ、ありがとう」
高嶺さんは戸惑ったような声色で返事をした。いまだにうつむきがちで歩いているため、表情は読み取れないが、照れているのだろうと思った。
高嶺さんはそういえば昔からキャラものが好きだった。デフォルメされた動物のキャラクターの筆記用具やストラップを持っていた。きっと、高嶺さんの可愛い物好きが、学校の制服にも当てはまったのだ。
会話は高嶺さんの「ありがとう」を境に途切れてしまった。お互いさっき以上の沈黙と緊張感にさらされていた。
と、今度は高嶺さんが沈黙を打ち破った。
「あっ、そういえば、お母さんに買い物頼まれてたんだった!ごめんね、そこのスーパー寄って帰るから!」
と、帰り道中にちょうどあるスーパーを指差し、慌ただしく言った。
「じゃあね!水野くん…またね!」
「うん!バイバイ!」
高嶺さんはリスのようにすばしっこくスーパーに向かって行った。
僕はズボンのポケットに入れていたスマホを取り出し、イヤホンをつけて音楽を流した。
高嶺さんと話せたことはもちろんのことだけど、高嶺さんの天然なところを見ることができてとても満足な気分になった。
幸せな気分についついニヤケが止まらないまま僕は家へと帰った。