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79.やっぱり目立つ

 奴隷としての仕事は、普段から鍛えている俺からすれば大した事は無い。


 露天掘りされた鉱山の地下深くに幾つも存在する横穴へ潜り、少しづつ掘り進めながら鉱脈を探す。 

 

 アビスライトの鉱脈は龍脈と呼ばれる力の流れの上で鉱石が結晶化し、更に魔力を吸って硬質化する性質上、大きく開けた場所には存在しないのでこうして地道に探すほかないのだ。


 だが、深くなればなる程に危険も増す。

 それと言うのも、ここの鉱山の深層には泥人形(ゴーレム)系の魔物が湧くのだ。


 下に潜れるのは女子供のみなので、遭遇したらかなりの確率で命を落とす命がけの仕事である。


「ゴーレムが出たぞっ! 二メートル級だ!」


「奴隷共はとっとと退避しろ、警邏兵は早く前に出ろよ!」


 と、噂をすれば影が差す。


 丁度俺のいる階層で岩石人形(ストーン・ゴーレム)が出現した。その辺の岩石から魔物化するので、兆候が分かり辛いのが岩石人形(ストーン・ゴーレム)の特徴だ。


 外見はまんま群青色の岩を幾つも繋ぎ合わせた感じ。歪な凹凸のある手足でヨタヨタと歩いているが、殴られれば金属鎧を着てようとも無傷じゃ済まない程の力を持っている。それを目の当たりにした奴隷たちは慌てて逃げ出し、逆に槍を持った兵士たちは立ち向かっていく。


 ゴーレムの周囲を囲むようにして陣形を組み、鉄の槍でゴーレムの体を攻撃しているが、どうにも効いてる風には見えない。


「……稚拙だな」


「そうなのですか?」

 

 いつの間にか隣に立っていたウミノが、暴れ回るゴーレムを見たまま俺の呟きにそう返す。


 実際、彼らの戦い方は稚拙というか、慣れていない感じがするのだ。


物質(マテリアル)系の魔物(モンスター)なら刺突武器じゃなく、打撃武器で攻撃するのが好ましい。それにああも大人数で囲ってはいるが、槍の長さが足りないから結局先頭に立つ奴らしか殴れないしな」


「失礼、ご主人様はその……やはり戦い慣れをしておられるのでしょうか?」


「まあAランクだし、嗜み程度にはな」


 嗜み程度というのは少し嘘になります。三十人に限られたAランク冒険者という立場は、あのエイジスがいた高みだ。それを軽んじる訳では無いがまあ、俺にも出来る事は限られている。


「では、あのまま戦えば……」


「倒せるだろうけどニ、三人は怪我か……最悪死ぬかなぁ」


「そうですか」


 ここから見た所、監視兵は奴隷を見張る為の存在であって、対魔物戦の為の兵力じゃないだろう。

 

 俺としてはどうでもいいし、武器を持って敵と戦うという行為はそれなりの覚悟を持って臨むものだ。何が起きようとも自己責任以外の何物でもない、実力が足らずに死ぬ奴が悪いともいえる。


 強いて言うならサボれてラッキー程度だな。


 元々真面目に働きに来たわけでもないのだし。


「あっ――――」


 ウミノが思わず声を上げた直後、最前列で戦っていた兵士たちが纏めて薙ぎ払われた。死人はまだ出ていないが、何人か足をやられて動けないようだ。そんな下半身を引き摺るようにして逃げる兵士の一人に、ゴーレムが叩き潰さんと剛腕を振り上げている。

 

 強く両手を握りしめてその様子を見つめるウミノの顔は青褪め、苦悶に歪んでいた。


 目の前で人が死にそうになっているんだ、当然の反応だろう。

 

 だが、そう言う顔をされるのはなんとなく嫌だ。優しい人間は誰の死であっても平等に心を痛めるし、憐れむ。それはきっと美徳なのだと思う、俺には無いものだから逆に尊いものだと思える。


 だからかなぁ、体が勝手に動くのは。


「ご……主人様っ!?」


 半身の構えを取り、スタンディングスタートの要領で地面を蹴る。


 首輪の制限でいつもより二割減程度に足は遅いが、高々ゴーレム程度に後れを取る程ではない。 


「うおっ!?」


 標的にされた兵士の体を掴み上げると、そのまま地面を蹴って跳躍。ゴーレムの叩きつけは見事に空振り、大地が捲れ上がって土煙が舞い上がる。

 

 それを見てから一度洞窟の壁に足裏を付けて衝撃を殺し、三角飛びで後方へと一気に後退した。

  

「な、なんだ今の動き……!?」


「奴隷が、兵士を助けたのか?」


 抱えていた兵士の男を地面に降ろし、近くにいた同僚らしき男に視線を向ける。


「うっ、ぐぅ……」


「足の骨が砕けてるけど、破片だけ取り除いて薬を使えば治ると思います」


「えっと……そ、そうか。ありがとう……」


 彼は意外にも素直に礼を言うと、負傷した兵士を肩を担いで去っていった。意図せぬところで目立ってしまったが、後悔はない。が、依然周囲からは注目を浴びており、特に残った監視兵の視線は割と厳しいな。


「おい貴様、ちゃんと首輪は付けているんだろうな?」


「勿論この通り、付いてますよ」


「えぇ……? おかしいな……普通に移動するのがやっとなくらいにまで負荷がかかる筈なんだが……」


 それは多分普通の人間基準の話だろう。


 ウミノは半魔だから元々素のスペックが高いし、ジンも伊達にBランク冒険者をやっていた訳ではない。

 

 ある程度力を持った存在には殆ど効力を発揮しないものなのか。正規で出回る奴隷はかなりしっかりと契約を交わすらしいし、この首輪も模造品の可能性もある。というか、隷属の首輪自体、過去に闇属性魔法と呪術を生み出した"魔女"と呼ばれる人が、それらの術を籠めて作った原作(オリジナル)の模造品らしいけど。


 フラスカに居た頃は図書館でありとあらゆる文献を調べ放題だったからな。


 魔女の話や、邪竜と呼ばれる悪神の話、果ては魔王の文献まで出て来て、あそこでは大変有意義な時間を過ごさせて貰った。因みに六年前の俺の推測は正しく、光は聖女、闇は魔女の司る魔法属性でした。


「ところで、いいんですか? まだゴーレム生きてますけど」


「お、俺は部隊長だから見ててもいいんだよ。指揮する奴がいなきゃ統率が乱れるだろう」


「……そうですか」


 この程度の練度で統率も何もないと思うが、口にはしない。

 

「……監視兵も一枚岩では無さそうだな」


「ん? 何か言ったか貴様」


「いえ、なんでもないです」


 さっきの兵士とこの隊長さんはかなり態度に差があるし、多分全員が全員好き好んでやってる仕事ではないんだろう。特にこの魔物退治は普段の仕事と比べても、リスクが高すぎる。不満を持つ兵士も多いのではないだろうか?


 と、


「オォ――――」


「ぎゃああああ!!!」


 呻りを上げてゴーレムが大暴れし、再び陣形が大きく乱れた。


 幾ら相性の悪い武器で練度の低い兵士と言えど、これだけの数で囲んでればいい加減倒せると思うのだが……。


「どけどけぇ! 俺様に任せろぉ!」


 そんな俺の疑念を晴らすかのように、坑道の入り口から現れたオーク……ではなく確か、リフトと呼ばれていた大男が巨体を揺らしながらゴーレムへ突貫していった。


 そして、手に持った巨大な肉叩きをゴーレムの横っ腹へ豪快に腕をスイングすると、破砕音と共にその体が粉々に飛び散る。先程まで兵士の攻撃にびくともしなかったゴーレムが一撃で倒されたらしい。


「うおおお! リフト様っ!」


「やはりこの方がいれば魔物など恐れるに足らずよ!」


「オラッ、いつまでも見てんじゃねえぞ!奴隷共はとっとと仕事へ戻れ!」


 成程、この男がいるから兵士たちは時間稼ぎをしていたのか。百の兵士にも勝る一人の豪傑、この世界の真理だな。

 

 それにしてもあのゴーレムを一発とは、冒険者で言えば余裕でBランクの実力はあるか。腕力だけで言えば下手すればAランクだが、総合的に見れば足りない部分の方が多い。仮想敵としてメイビスを置くと、一万回やってリフトが一回勝てればいい方だろうな。

 

 そんな益体の無いことを考えつつ、仕事に戻る為に作業途中の横穴へ向おうとした所、俺の顔に影が差した。


 見上げれば目の前には噂のリフトが仁王立ちしている。


「お前、ジョゼフを助けたってなぁ」


「……ああ、はい」


 一瞬誰? となったが、さっき助けた兵士の事だろう。


 半拍置いて返答した俺を見て、表情の見えない鉄の面の大男はしゃがみ込むと、俺の腕程もある太い指で首輪を掴んだ。


「故障してる様子はねえなぁ」


「あ、のっ……ぐる、しっ、いで、すっ」


 確かめるように何度か首輪を上下に揺すられ、その度に俺の体が持ち上がる。

 

「よぉし、お前は明日から一区で働け」


「は、え……?」


 リフトはそう言って俺を降ろし、ドスドスと大股で去って行く。


 えっと、奴隷生活二日目にして異動ですか?


「お嬢様、お怪我はございませんか?」


「無いけど、ちょっと厄介なことになったかもしれない」


 リフトの後ろ姿をジッと見つめたまま呟くと、ウミノは疑問気に目を細めた。


「では、どうしてあんなことをなされたのでしょう」


「ん……なんとなく、お前人が死ぬのとか嫌そうだったから」


 それを聞いて、今度は驚いたように目を見開いて、それから申し訳なさそうに口を引き結ぶ。


「顔に出ていたのですね。ですが、それだけの為にあなたが危険に身を晒す必要は……」


「無かったな、完全に私の自己満足だ」


「申し訳ございません」


「何で謝る?」


「え……何故、と問われましても今回のは私が感情を表に出すような未熟さを見せたばかりに、協力者であるあなた様に心配されたどころか目を付けられる結果になりましたし……」


 あーもう、そういう御託はいいんだよ。それに……咄嗟の部分で"あなた"って呼ぶ当たり、まだ全然信用されてないし。


 こういう時は――――




「無茶なことすんな馬鹿、でいいんだよ」


「……はい、ありがとうございます」


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