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閑話.アルグリア帝国にて

【事前情報】


アルグリア帝国では新帝国速報にて階級に関係なく一定の情報が公開されている。これは現皇帝による政策の一つであり、帝国民一人一人が情報に関心を持つ為のものだと言われている。

 ――――清涼な風が頬を撫ぜる晴天の空を、一頭の竜が飛んでいた。


 グングンと速度を上げ、滑空しながら平原のスレスレを飛んだかと思えば、次の瞬間には翼膜に風を受けて高く飛び上がる。


 そして、およそ大の大人二人分はあろうかというその体の背には、一人の少女が跨り――――


「いぃぃぃぃやっほおおおおお!!」


 そう叫びながら全身で風を受けていた。


 蒼天よりも青い髪を風になびかせ、竜と共に飛ぶ少女。

 彼女の名前はソラ、家名のないただのソラだ。

 歳は今年で十四、跨る竜はシルヴィアと言い、六年間連れ添った相棒と呼べる。


 彼女はかつてルフレと言う竜人の少女より預かった、白銀のドラゴンと共に空を自由に駆ける竜騎兵(ドラゴンライダー)だ。


「ソラ、見えるかい?」


「うん、ばっちり見えるよ! 3時の方向にオークの群れ、数はえっと……10!」


 そして、そんなソラたちの真下には、草原を疾駆する二足歩行のリザード。

 ソラの指し示した地点まで凄まじい勢いで駆け、その背中に乗る金髪の青年が腰から剣を引き抜く。


「まずは一匹!」


 リザードが進行方向にいる巨大で醜悪な魔物――――猪男(オーク)とすれ違う瞬間、その剣閃が首を切り裂いた。


「シッ!」


 そのまま続けざまに二頭目の腹部を切り裂き、リザードは急旋回。

 数頭のオークを引き連れて、草原を逆走する。


「シルヴィ、やっちゃえ!」


「キュイッ!」


 直後、急降下して来たシルヴィアの鉤爪がオークの頭部へ食い込み、そのまま頭蓋を破壊した。

 

「グラン兄、今だよ!」


「了解!」


 オークを引きつけていた青年――――"グラン"がリザードの背の上でバランスを取りながら立ち上がると、手を魔物たちの方へ翳す。


「悪しきを砕く大地の怒りよ、彼の魔物を押しつぶす鉄槌とならん――――"土岩砕槌(ガイアブレイク)"!」


 詠唱を終えた途端大地がまるで意思を持ったかのように盛り上がり、残った全てのオークたちを押しつぶした。それを見て歓声を上げるソラに、グランは額の汗を拭いながらサムズアップする。

 




「これでいっちょ上がり!」


「無事に終えれて何よりだよソラ、怪我はないかい?」


「グラン兄こそ、あんな魔法使って疲れたでしょ」


 徐に地面へと着陸するシルヴィアからソラが飛び落り、グランの元へ駆けて行く。

 碧眼を優しく細めながらグランも愛竜、ラーウスから降り彼女を受け止めた。


 そんな二人の元へ、重厚な鎧を纏った中年の男性が歩み寄る。 


「隊長、こちらも一通り片付きました」


「そうか、被害は?」


「数人、軽いかすり傷を負いましたが、重傷者及び死者はゼロ人です」


「よかった、怪我人には治癒術士を付けておいて。僕らは報告に一度戻るよ」


「はっ!」 


 アルグリア帝国軍第三番隊百人隊長グラン中尉と、そして准尉で副隊長のソラ。


 およそ五年前、宛てのない放浪の末にソラと共に辿り着いた帝国において、その実力を見初められてのし上がった二人の肩書だ。


「そう言えば、グラン兄と出会ってそろそろ六年になるね」


「もうそんなに経ったのか、僕からしてみればあっという間だよ」


 自身に関するすべての記憶を失ったグランと、それを助けたソラ。

 互いの過去など知らぬまま六年を過ごし、今はこうして帝国に身を置いているが、二人は元々ある人物を探して旅をしていた。


 しかし、相手は一人な上、巧妙に素性や痕跡を隠しているとしか思えない程に足取りを追うのは難しく。当時10歳にも満たない少女を連れて旅をするのは限界があると、当面の間安定した生活が出来るように帝国へ身を寄せたのだ。


 そうして帝国へやって来た二人は実力主義のこの国でメキメキと力をつけ、頭角を現していく。

 グランは元より高い身体能力と魔法の才を、ソラは身体能力こそグランに劣るものの、空中での姿勢制御や視力に優れた斥候としてシルヴィアと共に竜騎兵となった。



「グラン中尉、ソラ准尉、ご帰還お待ちしておりました!」


「ああ、警備お疲れ」


「おっつ~」


 リザードで走る事数十分、帝国の玄関口である都市――ブリュッデンヒルが姿を現す。

 グラン及びソラの所属する第三番隊はここに駐屯しており、主に郊外の魔物の掃討、国境線の監視と他国との境界において重要な役割を持っている。


 ブリュッデンヒルを含めた帝国都市はこの世界で唯一と言っていい鉄と煙――――蒸気機関の街。


 高い技術力を誇る帝国は大陸内で最も発展した国として名高く、そして、それはそのまま軍事力へと繋がり、かの聖国に並ぶ列強と謳われる所以の一つとなっている。


「あ、今朝の新聞来てるよ」


 ここでは製紙技術も他国と比べれば格段に高く、軍人などの高給取りしか買えないものの新聞なども出回っている。


「どれどれ一面は……っと、また皇帝様のお世継ぎ問題の話かぁ……」


「仕方ないさ、現皇帝はもう歳と聞くし、三人の息子から一人選ぶなんて難儀な事なんだろう」


 詰め所の前に放られた新聞をソラがいち早く拾い上げ、歩きながら紙面を広げてそうぼやいた。

 こうして歩きながら何かするのがソラの悪い癖で、時折グランにも注意されているのだが一向に治る気配はない。


「……ん?」


「どうしたんだい? また一番隊が大捕り物でもしてた?」


「ううん、違う。グラン兄、これ見て」


 扉を潜った直後、そう言って立ち止まったソラに促されてグランも新聞を覗き込む。


"昨日未明フラスカ王国にて、王族が何者かによる襲撃を受けるも冒険者組合公認の金証保持冒険者、通称『白羊の悪魔』によって撃退される。彼の冒険者は白髪に同様の白い角を持つ何らかの魔人であり………………"


 他国の情報な上、噂程度のものしか載らないお遊びのような新聞ではあるものの、二人にとってこの記事は衝撃そのものだった。


「これ、きっとルフレお姉ちゃんだ……」


 外見的特徴の一致、そして王族を狙う襲撃者を撃退したと言うとんでもエピソードも加われば、より一層信憑性は増す。ソラにとって、ルフレとは奇想天外な発想をする、凄まじく強い存在だ。

 

「ルフレ……悪魔……」


 驚きと安堵、色々な感情の入り混じったソラの声と、何かを思い出すように呟くグランの声が重なる。


「……ッ」

「グラン兄!」

 

 直後、グランが頭を抑えて蹲り、苦痛に呻き声を上げた。

 

「……だ、大丈夫だ。ちょっと眩暈がしただけだから」


 そう言って立ち上がるグランを心配そうに見つめるソラだが、当のグランの顔色は大丈夫と言えない程には悪い。


 グランは記憶障害の症状なのか、時折こうして頭痛や眩暈に襲われる事がある。

 恐らくは何か記憶を取り戻すきっかけになる物を見た時になると思われるが、現在まで過去の事を思い出せた試しはない。


「……それで、これがソラの探してた人なのかい?」


「多分、そうだと思う。でもフラスカかぁ……ここからじゃ遠いよねぇ」


 北東のアルグリアと大陸中央のフラスカは間にアルトロンドを挟んでかなり距離がある。

 だが、


「会いに行きたい?」


「勿論だけど……でも、今は帝国人だし。お姉ちゃんも元気だって分かっただけいいかなって」


「……そっか」


 帝国軍人としての仕事を放りだす訳にもいかず、ルフレの安否を確認できただけでも幸いとソラは首を横に振った。


「それに、きっといつかまだ絶対会えるって信じてるから。お姉ちゃんの事だし、その内フラっと帝国にも遊びに来ると思うよ」


「それはいい、そしたら僕らで彼女に帝都を案内してあげよう」


「美味しいステーキのお店とか、可愛いお洋服のお店とかね!」

 

 二人の声が、何処へいるとも知れないかの魔人へといつか届くと信じて。

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