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転生竜人の少女は、安寧の夢を見る  作者: 椎名甘楚
二章.第一王女護衛依頼
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62.後始末会議

「失礼します、商会員の方を連れてまいりました」


 女給の声と共に、部屋に入って来たのは短髪黒髪の青年。

 日本にいれば没個性だが、この世界ではかなり珍しい顔立ちをしている。

 

 あの事件から早五日、色々と後処理にもたついたものの、ようやく落ち着き始めて来た頃合いだ。

 

 直後は各貴族からの賠償の請求や責任の追及やらなんやらが殺到して、やはり利権と金に目敏い奴ららしいと俺も女王も呆れ果てていた。


 俺的にはアンネの魂の叫びも、欲の強い奴らには響かなかったと言う意味でもな。


 実際この国の貧困層問題はそれなりに深刻で、女王も頭を悩ませているらしい。

 だが、現場で動くのは貴族、彼らがちゃんとしてくれなければ解決は難しい。


 まあ、そういう内政的問題も抱えつつ、なんとかやっていかなければいけないのが王様な訳だが。



 そしてここは城の一室で、今は面会の為にと俺とアザリア、リルシィとその青年のみ。


「あ」


「久しぶりだな、いや……久しぶりですね、の方がいいか?」


 俺がそう言うと青年は驚いたように口を開け、足を止めた。

 一瞬時が止まったように静寂が訪れた後に、叫び声が響き渡る。


「やっっっっ……ぱりあの時の! そうじゃないかと思ってたんですよ!」


「こっちもだよ、そんな特徴的な顔こっちじゃあんまり見ないからな」


 青年は俺を指差し、驚いたような、嬉しそうな顔で駆け寄って来た。

 彼はいつかのルヴィスで出会った、タルトと魔導書をくれた青年。

 なんというか一目でわかるいい人っぽいオーラを醸し出している、悪く言えば幸薄そうだが。


 

 そんな薄幸顔の青年を見て「誰?」と言った感じのリアクションを取るアザリア。


「兼ねがねお噂は聞いてる、なんでも今はあのオーキッド商会の副会長補佐なんだって」


「はい、アキト・メイブリアです。というか、そこの王女様の前で一回自己紹介してる筈なんですけど……」


「あ、そうなの?」


 「そうらしいですよ」と目線で訴えかけると、誤魔化すように目を逸らされた。


 アザリアは人の顔を覚えるのは別に苦手ではないので、アキトの存在感が特別薄いんだろう。かわいそう。

 

「それで、今日呼んだのは他でもない、その王女様を陥れようとした主犯についてだ」


「あの、黒い魔物を生み出した人ですか……」


 アキトは声のトーンを落とし、思案するように眉を顰めた。

 現場にいた身としては、恐らく相当な恐怖だったに違いない。

 話をするのも気乗りしないのは当たり前か。


「あの後、何度か話を聞こうとしましたが、何も引き出せずにいます。そこであなたを呼ぶようにと言われました」


「僕を、ですか……?」


 自分が呼ばれた理由が分からず、アキトは首を傾げる。


 そりゃまあ国のトップを狙った大事件の後だ、この穏やかそうなただの青年が介入する余地なんて普通は無い。


 けど、


「少し調べさせて貰ったけどお前、"対象の状態を知る事が出来るスキル"……持ってるよな?」


「……っ、それは、まあ、ありますけど」


 こういう場合は別だ。


「具体的に、詳しく教えてはくれないか?」


「……他言無用でお願いします、僕の生命線なんで」


「王族の前だ、誓って誰にも言わないと保証する」


「えっとじゃあ、僕のスキル《能力看破(ステータス・オープン)》ですけど、これは人ならその人の名前、年齢、性別、あとは種族や身体能力から体調までが"何となく"分かります。あの時僕が倒れた人――――アンネさんを見た時、その体調は普通そのもの、毒なんかには掛かっている素振りもありませんでした」


「なるほど……」


「そしてもう一つ。このスキルは物にも使えて、それであの瓶が未使用の新品だと分かったんです」


「これはもう……凄まじいとしか言いようがありませんね……」


 女王に掛かれば、商会員と言えど一個人の情報なんてすぐに引っこ抜ける。


 俺があの場で見たアキトの目敏さと、死んだふりに気付いた勘の良さは異常だった。絶対に何らかのスキルを持っていると思ったが、まさかこれほどまでのとんでも性能だとは……。

 

 なんか俺の周り、俺以上にチートじみたスキル持ってる奴多くない?


「そ、そんな凄いスキルが本当にあるの……?」


「普通はコモン、もしくはエクストラですものね。アキト様のはユニーク……私も初めて持っている方を見ました……」


「ん? なにその、エクストラとか、ユニーク……? とか」


「「え?」」


 えっ?

 

 なに、なんか凄い驚きの顔でリルシィとアザリアが俺を見てるんだけど。

 ちらっとアキトを見てみると、アイツだけは良く分かっていない様子。


「も、もしやルフレ様はスキルの階級について知らないのですか?」


「あ~……えっと、うん知らない」


「うっそ、あれだけ強いのに知らないの……?」


 あれ、また俺なんかやっちゃいました?

 

「で、では軽く説明をします」


「お願いします……」


 ……俺が頭を下げると、呆れた様子のリルシィが席を立って黒板に文字を書き始めた。


「……コホン。いいですか、スキルとは生まれつき与えられる足が速い、泳ぎが得意……などの才能のようなもので、人によってその優劣も違います。下からコモン、エクストラ、ユニークとあり、これらはスキルの名前、与えられた天賦の数で判別を付けます。例えば《俊足(しゅんそく)》ならコモン、《剛怪腕》ならエクストラ、《能力看破(ステータス・オープン)》ならユニークといった感じでしょうか」


 成程、権能の数や性能によってスキルのレア度が違う……と。


 ああ、だがあくまでこれは俺が分かりやすいように脳内で漢字に変換しているだけで、実際は現地の言葉だ。それがスキル名に反映されているわけで……要は長いスキル名のほうが大抵強い。


 そしてつまり、俺のスキル《識見深謀(インサイト・デザイア)》も、《憤怒之業(ラース)》も複数の権能がある事を考えれば恐らくユニークスキルなのだろう。


 聞いた感じユニークスキルはかなりレアっぽいし、これはあんまり口にしない方がいいかもしれん……。幸いスキルに関する知識が無かったので、エクストラ以上のスキルを持っているとは思われていなさそうだし。


 いや、別に誰も教えてくれる人がいなかっただけだし。


 俺だって知りたくなくて知らなかった訳じゃないし……。  


「どうやら理解したようですので、本題に戻りましょう」


「えっと、僕が呼ばれた理由でしたっけ。大方察しは付いてますが……」


「そ、お前のスキルでメイビスを見て欲しい」


 そうは言ったものの、俺達は得られる情報がどれ程のものなのか具体的に分かっていない。場合によっては完全な坊主、収穫無しという結果もあり得るが……やらないよりはマシだ。


「助けられた恩もありますし、何よりえっと……」


「ルフレだよ」


「ルフレさんの頼みなら、無碍には出来ませんからね」


 笑みを浮かべてやる気満々、と言った感じのアキト。一方でアザリアは何か思う所があるようで、思案気に視線を落としている。


 あの事件から、アザリアは少し変わった。


 どうにも、間近で死を体験したことから色々と考えさせられたらしい。一体どんな風の吹き回しか、今までは興味の無かった戦いの知識――――とりわけ戦略戦術について調べ回っているのだ。


 俺の契約期間はもう一ヵ月を切った。その気になれば更新も出来るんだろうけど、それは俺が良しとしない。

 

 銀証――――Cランク冒険者から上は国の危機だとかとんでもない魔物が現れた時、緊急時の招集が掛けられる対象なので集団戦闘におけるなんたるかを講習で学ばされる。


 それらを横流し……は人聞きが悪いので俺なりに噛み砕いた内容でも教えてあげたかったが、少し時間が足りないのだ。


「ねえ、ルフレ……あのメイビスって奴、何か隠してると思わない?」


「え? そりゃだんまりを決め込むくらいですし、色々と言いたくない情報はあると思いますけど……」


「そうじゃなくて彼女、何か……こう上手く言えないんだけど、"何か"抱えてる気がしたの」


 『何かを抱えている』そう言ったアザリアは、俺の気のせいかもしれないが彼女を心配するような目をしていた。


 俺としては護衛対象の命を脅かした敵に変わりはないだろう。


 守る戦いに相手の抱える事情なんて一々加味はしていられない。何が一番大切かを見失えば、最悪取り返しのつかないことになるのだ。


 だが、


「……分かりました、頭の隅に置いておきます」


「うん、お願いね」


 もう一緒に居られる時間も少ないアザリアの言葉とあれば、蔑ろにするわけには行くまいな。

 

「それと、今夜……その、大事な話があるから………………ベッドで待ってる」


「はい?」


 アザリアは顔を真っ赤にして上目遣いにそう言い、モジモジと両手の人差し指を捏ね繰り回している。


 大事な話をするのにわざわざ夜に、しかもベッドとはこれ如何に。

 夕方でもいいと思うんだけど、なんで夜なんだろう?


 大事な話……


 ベッド……


 夜…………


 ……


 …………


 ああ、成程。そう言う事。

 

 う~ん、アザリアもまだまだ子供だな!



「大丈夫ですよ、誰にも言いませんから」


「え……あ、うん……うん?」


 あんなことがあった後だ、

 きっとまだ一人で寝るのが怖いから、一緒に寝て欲しいんだろう。

 それが恥ずかしいから夜、こっそり言いたいと。





「……お姉様、難儀ですね」


 けど、そんな俺達のやり取りを見て、リルシィが憐れむような視線を送っていたのは何故だろう。

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