表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生竜人の少女は、安寧の夢を見る  作者: 椎名甘楚
二章.第一王女護衛依頼
64/210

60.圧倒的

 さて、概ね"予定通り"という感じではあるが、案の定と言うかなんというか……


「……腸が煮えくり返る思いだな」


 そう、俺はアザリアにも聞こえないように呟いた。


 まあでも、さっきも言った通り状況は俺とアマリアの見立て通りで間違いない。操られていた首謀者の一人どころか、黒幕が出て来てるのは正直意外だが。


 と、言うのも、貴族の内の誰かが何らかの方法で会場内で暗殺を装い、リルシィに治癒の力を使わせるところまでは思い描いていたシナリオと全く同じ。アマリアの予想が的中し過ぎて怖いくらいだ。


 あのアンネという女がまさか反第一王女派閥だとは思わなかったけど。

 そういう細かいところの差異で言えば、豚……じゃなくてローレイン伯爵も利用されていたという所も意外だ。


 あと、あの黒髪の日本人っぽい奴、めっちゃ目敏いし口が回る奴だったな。

 どっかで見た気もするし、後で声を掛けてみようか。


 そして、あの黒幕であろう撫子色の髪を持つ少女。あれは間違いなくあちら側の人間、バエルと同じ匂いがする。


 こっちはもう首根っこ捕まえて洗いざらい吐いて貰うしかない。その前にアザリアにした分きっちり泣かすが、殺すという選択肢はとらないでいいだろう。


「……予想外」


「何がだよ、私にとっちゃお前の方がイレギュラーなんだが」


 さして驚いた風でもなく、その少女は俺の前へふわりと姿を現わした。


 全身から漂う禍々しい魔力に、手札として相当大きいと見た黒蟲をやられたと言うのにあの余裕の態度、相当な大物かそれともただ現実を見れていないだけか。


「まずは自己紹介、私はメイビス・メリッサハーツ。七聖人が一人」


「やっぱりアース教関係か」


「……少し違う。私は七聖人」


「どういうことだ……?」


「言葉の通り」


 七聖人、と言う事はやはりバエルと同じだと思ったのだが、どうやら違うらしい。

 なんだかややこしいけど、でも取り敢えず敵と言う事には変わりない。


 そんな俺を見てジト目、ピンク髪、ロリ、クールと言う四拍子揃った眼前の少女は、少し困ったような顔で溜息を吐く。前世の俺ならばストライクゾーンど真ん中の超絶美少女だが、今はアザリアを泣かしたクソガキだ。


「まあいいや、まずは泣くまでボコるから覚悟しとけ」


「生意気というか、馬鹿? 七聖人は特別な力を持ってる、あなた程度が勝てる相手じゃない」


「それはどうかな」


 メイビスはそう言うと、俺に向かって手を翳して見せた。

 直後、魔法陣が展開され、赤黒い火球が三つ放たれる。


「無詠唱か」


「……当然」


 鍵符も無しに発動した所を見ると、相当魔法に関する知識があると見て良い。

 だが、


「……ッ」


 黒炎を全て紅蓮刀で両断すると、メイビスの顔が少し歪む。

 まさか魔法を刀で斬られるとは思っていなかったのか、悔しそうだ。


「じゃあ、次はこっちの番だな」


「なにを――――」


 ふくらはぎに力を籠め、思いっきり地面を蹴る。

 二歩あれば間合いを詰めるのには十分。

 急接近されたメイビスは先程よりも大きく目を見開き、距離を取ろうと後ろへ飛び退くが遅い。


「"氷球(アイス・ボール)"」


「やっ!?」


 直前で急停止し、そのまま至近距離で氷球をぶち込む。

 敢えて急所ではなく手足や肩などを狙ったそれによって、メイビスは大きく吹き飛んだ。


「……こ、の」


 更に追撃をと、踏み込んだ俺に対し、メイビスがバランスを崩した状態から放射状の黒炎を放つ。

 

「嘘ッ!?」


 が、それらすべてを刀を振った風圧で吹き飛ばすと、メイビスはあり得ないと言った風に俺を見た。


 今のも当たればきっと大火傷の筈だが、こういう時に使う言葉がある。


「当たらなければどうと言う事は無い、ってね」


「……反則ッ」


 実は今のはこの五年で手に入れた新しい技能、魔力による"身体強化"だ。


 元より、この世界の生物は地球とは比べ物にならない程の力を持つが、それらの要因は一体何なのかを考えて、俺は一つの結論に至った。


 魔力は魔法を使えない人の体にも流れている。なら、それを無意識の内に使っているのではないか? と。瞬歩がいい例で、あれは間違いなく下半身に体内の魔力を集中させて身体強化をしている。 


 だが、先程も言ったように大抵の人間は無意識下でしか使っていないし、そもそも身体強化という概念すらないのかもしれない。

 

 その為に身体強化を意識的に発動と出力を変化出来るように訓練を重ね、何度も何度もトライアンドエラーを繰り返し、そして得た一つの答えがこの技術。


「お前、肉体と刀身に魔力を纏わせて、力の底上げをしてるの?」


「御名答、だけど思ったより早くネタバレしたな……」


 刀も体の延長線上、と考えれば身体強化の範疇。

 これによって魔法を切り裂くお手軽魔剣の出来上がりだ。


 そんな魔剣の間合いから外れるようにメイビスはふわりと空中で姿勢制御をして見せ、再び睨み合う。


 こいつもこいつでさっきの黒い炎と言い、どうにも普通の魔法を使っているようには見えない。


 元素魔法ならば炎は赤、もしくは青しかないので、恐らくは俺と同じ古代魔法かそれに近しい力と見た。元素魔法で無い物は斬った事が無いから、あんまり油断しないようにしよう。


「……なら、これはどう?」

 

 そう言ってメイビスが生み出したのは漆黒の鎌。

 魔力で武器を生み出す、イミアも得意とした戦い方だな。

 こっちは真っ黒で禍々しいけど。

 


 地面を蹴って接近する彼女に対し、俺は中段に刀を構えた。

 

「っふ」


 首を刈り取ろうと振り抜かれたそれをきっちりと受け止め、弾く。

 重量を感じさせない動きで今度は逆方向から叩きつけられる鎌の先を屈んで避け、そのまま後転しながら飛び起きて距離を取った。


 追撃の為、軽やかに肉薄するメイビスを見据え、直後に放たれる斬撃全てを滑らせることで受け流す。


「軽いな」


「……なに、をっ!?」


 そして、受け流した勢いで交差する瞬間、刀の柄で腹部を殴りつけた。


「かはっ……!」


 鳩尾に重い一撃を貰って一瞬目の焦点が合わなくなったメイビスだが、直ぐに我に返って鎌を叩きつけてくる。


「これならまだ、バエルの方が強かったな」


 俺はそう言いつつ紙一重、毛先がほんの少し刃に触れるかどうかのところで避ける。

 実際問題、バエルと比較するとメイビスとの戦いはまるで子供の遊び。思い出補正もあるかもしれないが、とても大きな差があるように思えた。


「先駆放電――――"天走雷(アマミカヅチ)"」


 天走雷は纏った魔力を電流に変え、自身の動き自体を雷速に近づける。

 《識見深謀》の知覚補正が無ければそもそも成立しない技だ。


「疾ッ」


「――――ッ」


 雷を纏った刀身が棒立ちのメイビスの頬を掠め、切れた皮膚から血が噴き出した。

 メイビスは今の隙を敢えて見逃された事に気付いて、顔面を蒼白にして必死に後ろへ逃げながら俺を睨みつける。


「……っぐ……さっきから、わざとこんな攻撃ばっか……」


「最初に言っただろ――――」


 そう言いつつも、既にその実力差を感じ取って歯噛みすることしか出来ない。

 その顔には絶望と諦念が浮かび、先程までの見下し、勝利を疑わない驕った瞳は恐怖と怯えに塗り替えられていた。


 更にそこへ追撃を掛けるべく再び天走雷で肉薄、 


「お前は泣かすって」


「くぅ……!!」


 目の前で翳された手から放たれた衝撃波によって、吹き飛んだメイビスの体は数度地面をバウンドすると転がるように壁へ激突。


 ――――魔力波


 魔力に属性を付与せずに放つと、単純な衝撃として事象が顕現する。

 これもこの五年間で得た研究結果の一つ。

 それを利用し、俺は致命傷を与えずに相手を戦闘不能にする方法を編み出した。


「なあ、どうだ? 魔法でも接近戦でも負けて、這い蹲る気分は」


「……ふっ……う……っふ」


 実は外部から純粋な魔力を大量に浴びると、魔法が使えなくなる。

 つまりは魔法の詠唱も、無意識下の身体強化も出来ないただの人間(地球準拠)に成り下がるのだ。


 ただ、これには弱点もあって、相手が魔法さえ放てば相殺されるからタネがバレると使えない。

 

 そして無効化出来る時間はおよそ三分、こういう不意打ちに使う位が関の山。





 力が入らないのか、辛うじて上体だけを起こして、メイビスは荒い呼吸を繰り返しながら俺を見上げた。


 魔法も使えない事に気付いて動揺を露わにし、呆然と俺を見つめている。


「怖いか? 怖いだろ」


 その顔は泣きそうな子供のように歪み、俺を恐れるが故にその紫紺の瞳は視線を外す事が出来ない。


「でもな、お前が軽率に殺そうとしたあの人たちの方がもっと怖かった」


「……う、あ」


 口から出る言葉はもはや意味をなさず。

 恐怖で震える喉から捻り出した精一杯の抵抗は、僅かに空気を震わせるのみ。


 そして、


「そう言えば言ってなかったけど、私はお前と同じ七聖人を名乗る人間を一人殺している」


「……あっ、えっ? しち、七聖人を……殺した?」


 俺がそう口にした瞬間、メイビスは明らかにその恐怖の表情を一層強めた。

 バエルは人間かどうかグレーゾーンだけど、この反応を見るに七聖人はかなり特殊な存在である事は確定か。


「……うそ、他の聖人は私の何倍も強い、殺せる筈がない」


「いや、確かにこの手で殺した。なんならどうやったか詳細に教えてやってもいい」


 俺は刀の切っ先をメイビスの額へ持っていくと、ゆっくりと肌に押し当てる。


「まず、こうやって、おでこから腰の付け根までを真っ二つにして」


「……あ、いや……やぁ、やめて」


 じわりと、彼女の目尻に涙が滲み始めた。

 カタカタと震える体のせいで、剣先がその柔らかな肌へ小さな傷を付け、真っ赤な血が滴る。


 バエルと違い、この少女はちゃんと血の流れる生き物らしい。

 最初の威勢はどこへやら、今はもう何の力も持たない幼子も同然だ。

 聖人、と呼ばれていても恐怖には抗えないのか、こうして負けたことが無い故の耐性の無さか。


「それからお腹にこうして氷の杭を突き刺して」


「……ご、ごめんな、ごめんな、さい、私が悪かったです、だから……やだ、ごめ……やめて」


 パキパキ、と音を鳴らして俺の手から彼女の腹部をゆっくりと氷が覆い尽くしていく。


 しかし、意趣返しの為に泣かせているとはいえ……こうして見た目小さな可愛い女の子を虐めると、何とも言えない背徳感のようなものが募るな。


 誓ってそういう趣味ではないが、思わず口角が上がってしまう。

 そんな俺の顔を見て益々恐怖を抱いたのか、メイビスがとうとう本格的にしゃくり上げ始めた。


「ひっく……ごめんなさい、私が、悪かった……です、だから、殺さないで、死にたく、ない、うぅ……ぁ」


「殺さねーよ、お前は貴重な情報源だからな」


 そう言ってメイビスの頭に手を乗せると、彼女は安堵の表情を浮かべて此方を見上げたが――――


「"紫電(ミカヅチ)"」


「ぁ――――」

 

 直接放たれた紫電によって気を失った。

 殺さないとは言っても、気絶させないとは言っていないからな。 


 予想だにしていない邂逅、あまりにも呆気ない幕切れだったが、俺は七聖人の二人目を討ち取った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

新作の投稿はじめました! 興味のある方は下のリンクから是非!

↓↓↓↓↓↓↓↓↓
『創成の聖女-突然ですが異世界転生したら幼女だったので、ジョブシステムを極めて無双します-』
― 新着の感想 ―
[一言] すいません、なんか萌えました
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ