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転生竜人の少女は、安寧の夢を見る  作者: 椎名甘楚
二章.第一王女護衛依頼
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52.とある王女の独り言

 生意気そうな子供。


 バーソロミューが連れて来た新しい護衛の第一印象。

 私に対して口答えをしたから、そう思った。


 前にやってた護衛の男は偉そうだったから、ちょっといじめてやったら夜逃げしてそれっきり。

 

 だから今回もちょっとからかうつもりで、着けていた変な仮面を取らせたの。そしたら中から現れた素顔を見て、本当に驚いた。


 あれはまず間違いなく平民の顔じゃない、品がありすぎるもの。


 それからとにかく白かった、睫毛も、髪も、肌も。まるで冬の日に一度だけ見た真っ白な雪の様だったわ。大きな真紅の瞳は、見ていると心が奪われそうなくらいキラキラしてた。髪の毛もサラサラふわふわで、とってもいい匂いがするし。


 胸は……ギリギリ私が勝ってたわね。


 でも悔しいけど、私と同じくらい――――いや、それ以上に可愛い。


 きっと白亜の天使がいるなら、彼女みたいな人の事をいうんだわ。だというのに口調は男みたいで、変な奴だと思った。


 折角綺麗なんだから、もっと可愛くしてればいいのに。

 

 けど――――そんな評価はあの人、ルフレがアルバートと戦った時に全部何処かへ行ってしまった。炎竜を3体も倒したなんて嘘を吐くから、私もついムキになって、騎士団で一番強いって言われてるアルバートと戦わせて証明させようとしたの。


 本当は無茶だって分かってた、アルバートはたった一人で何百と言う魔物を相手に戦って勝てるような凄い騎士。Aランクだろうと一介の冒険者が敵うような相手じゃない。


 そんな私の無茶ぶりに辟易としながらも、拒否しないのを見てまだ勝てると思ってるのかと、益々その高い鼻っ柱を叩き折ってやりたくなった。


 リルシィの傍付きのアルバートを勝たせるのは、ちょっと癪だったけど。


 騎士団の人たちも、リルシィも、当のアルバートでさえもルフレを舐めてた。


 けど、ルフレは何も言わず、戦いを始めて――――私は圧倒された。

 多分、そこにいた全員がそうだったと思う。

 

 閃光って呼ばれるくらいに速いアルバートの剣を、あいつは大したものじゃないと言わんばかりにいなしてみせたの。

 

 正直速すぎてよく見えなかったけど、あいつは互角に戦ってた。


 あんな苦戦するアルバートは初めて見たけど、それと同時に何処か楽しそうだったわ。きっと強い人同士にしか分からない、何かがあるんだと何となく思った。更に凄かったのが、あいつはアルバートの必殺技を素手で止めたの。


 それが剣の放った途轍もない風圧から私達を守る為だって分かった瞬間、胸の辺りが凄く熱くなった。


 「ああ、この人は絶対に私を守ってくれるんだ」って、そう思ったわ。


 それから、ルフレは私を驚かせ続けた。


 算術の教師よりもずっと頭が良くて、とても分かりやすく勉強を教えてくれたり。

 魔法を無詠唱で使った時なんて、本当に驚き過ぎて声も出なかった。

 リルシィの神秘術と違って、魔法は絶対に詠唱が必要だもの。

 剣だけでなく、ルフレは魔法も天才なのだわ。頭も人並みで走ったらすぐ転ぶ私とは大違い。


 けど、ルフレはそんな私にも魔法を教えてくれた。


 物覚えの悪い私に根気よく付き合って、分からないところは何度も何度も丁寧に説明して、教えてくれた。そのお陰で、私もちょっとした魔法なら使えるようになったの。これも全部ルフレのお陰ね。


 ああ、私はなんて優秀な護衛をもったのかしら。


 そんな風に私はルフレが天才だと、なんでもすぐに出来てしまうとそう思っていた。


 でも、それは違った。


 いつかの深夜、ふと目を覚ました私は物音に気付いたの。


 初めは侵入者か、泥棒かと思ったけど、それはずっと外で聞こえていた。

 だから気になってこっそりと部屋を抜け出して、音のする方へ歩いて行ったら、それは中庭で聞こえてるのだと分かった。


 それで、柱の陰から中庭を覗くと、そこにいたのはルフレだったの。

 いつも付けている仮面を外して、剣を一心不乱に振っていた。


 汗で髪が顔に張り付いてるのに全く気にせず、まるで何かに憑りつかれたように、目の前に本当に敵がいるみたいに、鬼気迫る表情で。


 結局それは明け方になるまで続いて、バーソロミューに確かめさせたら次の日も同じようにしていた。


 そこでようやく私は、ルフレが毎日、護衛の仕事でクタクタになった後でもずっと鍛錬を続けていたんだって知った。


 彼女は自分の事について多くは語りたがらない。

 だから今まで何をして生きて来たのかは分からないけど、一つだけ知った。


 ルフレが強いのは、天才だからじゃない。


 勿論才能もとてもあるのかもしれない、けど、それ以上に努力をしている。尋常じゃない程の努力を重ねて、それこそ本当に血反吐を吐くほどに鍛錬をして、強くなったんだって。


 それから私は、物の見方が少し変わったような気がする。きっと前よりも色んなものを認める事が出来るようになった。

 

 才能溢れる妹の事も、私を疎ましく思う貴族の事も、この国の事も、色々理解して、その上で好きとか嫌いとか、考えるようになった。


 それもこれも、全部ルフレのお陰。

 白亜の天使、最強の護衛、魔法の天才、努力の少女。

 彼女にとっては、きっとこれらの肩書も全部役不足。

 


 ――――けど、今だけは、この一年間だけは私の、私だけの "アザリアの護衛" でいて欲しい。


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