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転生竜人の少女は、安寧の夢を見る  作者: 椎名甘楚
二章.第一王女護衛依頼
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50.対策

 俺がアザリアの護衛を始めてから早数ヵ月、年が明けた。


 神歴745年から、746年に。


 この世界では正月なんていう文化は無いが、流石に年の変わり目にはそれなりのお祝いをする。一年間の厄を落とし、新しい年を幸せに過ごせるようにと酒を浴びる程飲むのだ。勿論城もお祭り騒ぎで、未成年のアザリアやリルシィは酒こそ飲めないが沢山のご馳走を前にはしゃぎまくっていた。


 俺は勿論飲んでない、仕事中にアルコールを入れるなんてもってのほかだ。


 そもそも護衛の身分で王侯貴族と同じテーブルを囲める訳もなく、部屋の外で一人寂しく厨房から差し入れられたささみを齧っていた。


 そして、年が明けても何か変わった事がある訳でも無く。相変わらずアザリアの護衛兼家庭教師として平穏な日々を送っている。ある意味で完成された暮らしではあるが、俺にはまだ足りない。 



「なーに深刻そうに考え事してんのよ?」


 そう言って、俺の顔を覗き込むのは"13歳"になったばかりのアザリア。彼女は最近体の成長が著しく、身長を抜かされてしまった。


 それと……


「どうしたの?」


「……いや、何でもないです」


 13歳とは思えない発育の胸部を見て、俺は目を逸らす。


 これは遺伝か? 遺伝なのか? アザリアも後少ししたらあの女王様と同じメロンちゃん(隠語)になっちゃうのか!? ……と、少々取り乱したが、アザリアの方も特に変わりなく。


 暗殺や誘拐なんていう、王族と絡んで発生しがちなイベントは今のところ起きていない。


 むしろ平和過ぎるくらいだ。相変わらずアザリアを疎ましく思う貴族はいるけど、それも直接危害を加えてくるわけでも無く、俺の方で接触をさせないようにもしている。


 そして今は丁度午後のお茶の時間。

 

 外は寒いのでアザリアの私室にて、バーソロミューが異国から仕入れた"黒茶"と言う珍しい茶葉でお茶を淹れてくれていた。

 

 合わせて出されたのは、"ロカ"というおやつ。


 練った小麦粉の中に肉と幾つかの野菜を混ぜ入れ揚げたもの。

 パッと見はピロシキだが、食べてみるとやっぱりピロシキ。


 そしてこれがまた渋めの黒茶とよく合うのだ。脂っこいロカとさっぱりとした黒茶、最高の組み合わせである。

 

 お茶の時間は俺も参加するようにアザリアに言われているので、遠慮なくロカを頬張る。


「……なあ、バーソロミューさん」


「どう致しましたか、ルフレ殿」


 黒茶でロカを流し込み、一息吐いた俺はバーソロミューに声を掛けた。


「頼んでいた()()()、問題は無いか?」


「滞りなく、とは言ってもまだ女王陛下のお耳に入れただけですが」


 バーソロミューは黒茶の如く、深く渋みのある声でそう答え、窓の外を見やった。

 

「……まさか、リルシィ様と同様の力を持つ者が他にもいるとは」


「くれぐれも内密に進めてくれ、場合によってはとんでもなくヤバイ奴らが出張ってくる可能性もあるからな」


 そう、俺はリルシィの治癒の力について、女王と直接話すつもりなのだ。

 そのために今はバーソロミューから影を通して、謁見の時間を確保してもらっている所。


 元々王城内では神秘術として知られるリルシィの力については、外部に漏れないように情報統制が敷かれていた。もし聖国がこの事を知ればどんな形で手を出してくるか分からない。


 なので、この件も極秘中の極秘として扱って貰っている。

 この前までは一介の冒険者の戯言など聞いてもらえないと思われていたから、こんな事考えもしなかったけどな。


 という訳で、後は女王の都合が付くまで待機――――











「――――の筈だったんだけどなァ!?」


「ごきげんよう、ルフレ様」


 翌々日、定期連絡の為に影に呼ばれて謁見の前にやって来たと思えば、そこにはこの前見たメイド服ではなくしっかりと豪奢なドレスを身に纏ったアマリアが待っていた。


「いや、謁見の間って時点でちょっとおかしいなとは思ってたけど……」


 この国は女尊の傾向が強く、代々王位も女性が継ぐ仕組みになっている。

 その為実務の殆どは国王――――公爵が行っているとは聞いたことがあるが……。


 これ多分、自分の分の仕事を旦那に押し付けて俺との時間を作ったな。

 

 すまん、顔も知らない王様、これも全部あなたの娘の為なんです。

 

「さて、時間は有限です。影から大まかな情報は聞きましたが、あなたの口から再度教えてはくれませんか――――リルシィの力について」


 そこからは、俺がリルシィの持つ治癒の能力について説明するだけなのだが、口にする情報は予め吟味し、選んだ。


 まず聖国にいる聖女がリルシィと同じ力を持つ事、それが神秘などではなく、れっきとした魔法である事を伝える。それらに関してアマリアはさして驚く事も無かったのは、事前知識としてある程度知っていたからだろう。


 それでも、


「光属性魔法と言うものが存在する事は知っていましたが、リルシィの力がそうだとは誰も……宮廷魔導士ですら知識にありませんでした」


 だとは言っていたが。

 

 恐らく伝聞にあるだけで、実際に見たことのある人などいないのだと思う。

 だから誰も神秘術と言う、ありもしない力に疑いを持たなかった。


 それから、聖国は五年前に先代聖女を追放し、異端としたことも伝える。

 この辺は一国の王、時事ネタはちゃんと知っていたので簡潔に済ませた。

 時事ネタと言っても一部の王族や、そう言う情報を仕入れられる地位の人間だけだが。


 イミア個人の情報や、俺が彼女と深い関わりにある事は……迷ったが口にした。

 女王に頼めば彼女を探す為の大きな助けになるだろう。

 それと同じくらいリスクもあるし、女王が俺の情報を売らないとも限らない。

 だから、相手(アマリア)も俺を信用している事を前提とした、賭けのようなものだ。

 

 幸いにして今は実の娘がそういう状況なので、裏切る可能性は限りなく低いだろう。


 そして、ある程度情報を共有して話は戻る。


「……まさか、イグロスに住まう光の聖女と面識があるとは」


「それを聞いたら本人は元、と訂正を入れると思いますけど」


「ともあれ、リルシィが光の聖女と同じ力を持つと言うのは問題です」


 だろうな、俺の話を聞いてた中で彼女が一番喰いついたのは『聖国がイミアを殺しに来た』という部分だ。


 俺の推測に過ぎないが、聖女以外の人間が光の魔法を使えるのは、聖国にとって都合が悪いのだろう。なので、もしあちら側にリルシィが聖女と同じ力を持つと知れれば、彼女は命の危険に晒される可能性が高い。


「念のために聞いておきますが、リアには、アザリアにはリルシィのような力は無いのですね?」


「今のところは、彼女は元素魔法の火属性適性しかありません」


 アマリアは俺の返事にホッとした様子で、玉座の背凭れに体を預けた。


「陛下、発言の許可を」


「バーソロミュー、申してみなさい」


「今までのようにリルシィ様の力は神秘術と言い張り、外部に情報を漏らさないだけではだめなのですか?」


「相手を超常の存在――――"神"と考えれば正直怪しい、と言うのが私の意見だな」


「成程……老骨が出過ぎた真似をしましたな、どうぞお話を続けてくださいませ」


 バエルも神の指示でイミアを殺しに来たのだ。

 どんな方法でリルシィの事を知るか分からない。

 この国にアース教の教会は存在しないが、もし信徒に情報が洩れれば終わり。

 神が天啓を下して、リルシィの存在を教えたらそれこそ対策のしようがないだろう。


「流石に他国の城を正面から襲う、なんて真似はしないと思うが……」


「暗殺ならば、リルシィにはアルバートが付いています。それに、この国の騎士団は優秀、そう易々と襲撃を許す事は無いでしょう」


 まあ、襲撃に対しての備えはほぼ万全ともいえる。

 アルバートなら、もしバエルクラスの奴が出張ってこようが撃退は可能だろう。

 

「ただ、一つ懸念がありまして……」


「懸念?」


 アマリアはそう言って、困ったように眉尻を下げた。


「実は、今年はリルシィが12歳になる年なのです」


「それが何の問題に……」


「王族は12歳になる年に、国内外の重鎮を招いての誕生日パーティーを催します。そこでリルシィも晴れて社交界へのデビューをするのですが……」


 成程、リルシィの存在が公になる場があるのが問題、と。


「そのパーティーを中止するわけにはいかないのですか?」


「既に各国の貴族や王族の方々へ招待状は送ってしまっています、今更中止にするのは難しいかと……」


「そうなると、神秘術を知る者全員に口封じをしなければいけませんね」


 これも正直現実的ではない。


 酒の席の事だ、貴族の一人でもうっかり口を滑らせれば瞬く間に他国まで噂は広がる。

 

「その件で、一人適した能力の持ち主がいます。アンネ」


 アマリアがそう言うと、何処から現れたのか黒装束の女性が俺の横で跪いていた。

 勿論頭をすっぽりと覆う頭巾に、怪しい仮面まで付けているのでその顔は伺い知れない。

 

 え? 俺は人の事を言えないって?


「彼女は言葉に制約を課す《幌金霊語》というスキルの使い手です、これによって身内の参加者はリルシィの事について口に出来なくなるでしょう」


「なら、どうして陛下はこれが問題だと?」


「いえ、問題という程では無くて……リルシィは怪我をした人を見るとどんな状況であろうと、治癒の力を使おうとするでしょう。そして、このパーティーは各国の重鎮の集まるもの……」


「あっ……」


 そうか……そういう輩が暗殺を目論むには絶好の機会だ。

 他国の貴族がそのパーティーの場で殺されれば、必然疑われるのはこの国の人間。

 そんな時、リルシィは黙ってそれを見ているだろうか?

 きっと治癒の力を、衆人環視の中で使ってしまうだろう。

 

 これはもう、こちらがどれだけ準備できるかにかかっていると言っても過言ではない。



「……なんとか、するしかないか」

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