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転生竜人の少女は、安寧の夢を見る  作者: 椎名甘楚
二章.第一王女護衛依頼
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48.タネを明かそう

 メイドは感嘆した風な声を漏らしたが、その顔には依然驚いた様子もない。


 まるでこの結果が分かっていたかのようで、俺は密かに仮面の下で眉を顰める。アザリアは何が何だか分からないと言った風だが、そりゃ仕組まれたなんて言われればそうだろう。


「いやはや、全部バレていたとは、我ながら情けない」


 テヘ、と舌を出しながらそう言うメイドは、全く悪びれる様子もない。


 その態度にイラっと来た俺が、一言、いや二言苦言を申そうと口を開きかけ――――


「お、お母様!?」


「えっ、え……?」

 

 アザリアのその言葉に苛立ちも何も全てが持っていかれてしまった。


 お、お母様……?

 どういうことだ?

 今、あそこにいるのがアザリアの母親……?


「はてさて、一体何の事やら――――と、言いたい所ですが、流石に無理がありましたか」


 白を切るような発言をしたその直後、メイド……ではなくアザリアの母、つまりこの国の女王は態度を改めた。


 先程までの飄々とした雰囲気は消え失せ、静かなる圧を放った、王族に相応しい風格を纏っている。

 

「騙すような真似をして申し訳ありません。私がこの国の王、アマリア・ヴィ・フランベルクです」


 楚々とした態度で、そうお辞儀をされるが俺の思考は止まったまま。意図的な襲撃をされた上に、メイドだと思って……いや、ただのメイドじゃないとは思っていたけどそれが女王で……。


「あ、この事はどうぞご内密に」


「いや、でもどうして……」


「市井の者と話すには膨大な手続きがいるので、こうでもしなければ気軽にお話も出来ないのですよ」


 だからメイドに扮して、俺に近づいて来たと言う事か……?

 まあ……確かに、ただのメイドにしてはオーラが違い過ぎたんだよなぁ。

 よく見れば顔立ちもアザリアと似ているし、なんで気付かなかったんだ俺……。


「それで……どの辺りで気付いたのですか?」


「へ?」


「だから、これが私の仕組んだものだと言う事にですよ! ああ悔しい、絶対バレないと思ったのに……!」


「お母様……?」


 ポカンとする俺とアザリアを余所に、アマリアは悔し気に両手を握り拳にして呻る。


「さあ、早く答えてください、さもなくば処刑しますよ!」


「えぇ……?」


「ほら、早く!」


「えっと、最初の違和感に気付いたのは襲撃時間だ……です。あなたの言った『日付の変わる頃』というのと、実際の襲撃時間があまりに一致し過ぎた」


 処刑とか言って脅してくる女王様に素直にそう答えると、考え込むように俯いてしまった。

 

 この世界で秘密とは普通、何処かから漏洩する前提で話される。

 だから、暗殺や秘密の会合などを行う際、少し前に敢えて嘘の時間を伝える。

 そして直前になって本当の時間をこっそりと伝えるのだ。

 だからアマリアが俺に伝えたのは嘘の時間である可能性が高く、だと言うのに時間ピッタリに行われた襲撃に俺は違和感を覚えた。


「続けて」


「次に、襲撃者……刺客の人たちが現れた場所ですね。全員が部屋の中に現れるのはおかしい、とよく考えれば分かる事です」


 普通、暗殺者は部屋の入口から堂々と、まではいかなくともある程度正規の通路を通って"外部"から部屋に侵入するもの。


 それを全員が部屋の中から現れては、おかしいと思わない方が変だ。

 しかも城には無数の隠し通路があると事前に聞かされていて、この部屋にも丁度五つある事も知っていた。


 全ての場所の把握はしていなかったが、襲撃者の数と一致する。


「最後は、全員が部屋の内装を詳細まで知っていた事です。気配を殺していた私に気付かないと言う事は、夜目は効いていない筈。それなのにアザリア様の眠るベッドの位置を正確に把握していたので」


 まあ、それ以外にも割とボロはある。

 一人はアザリアの暗殺よりも、俺を優先した事や、わざわざ上掛けを剥いだ事など。

 どれもわざわざしなくていいことであり、それが殺す気が無いと俺に悟らせる原因となった。


「成程、こちらの詰めの甘さをしっかりと見破られたという訳ですね」


「能力値的には申し分ありませんが、彼女らがアザリア様に殺意を抱いていないと分かれば対処は楽でした」


 俺はそう言って、足元に転がる刺客……もとい、アマリアの部下を見下ろす。

 一度身体を密着させたので察してはいたが、女だ。

 しかもなんか「ぐへへ……」とか言うよく分からない笑い声を上げて涎を垂らしている。


 ちょっと強く締め過ぎたせいか、頭でもおかしくなったのか……?


「ああ、それは放っておいていいですよ。痛みに快感を感じる変態なので」


「えっ? あ、はい」


 ……。

 

 女王様の部下にこんな変態いていいのかな。

 

「それで……結局陛下は何故こんな事を?」


「試す、等と言った高尚な理由とはとても言えませんが、知りたかったのですよ。貴方がリアを守り切る強さを持つのかどうか」


 少し陰のあるアマリアの笑みに、俺は口籠る。

 彼女が何故そんな事を言ったのか、多少なりとも心当たりがあるからだ。


「今回は私の指示でしたが、リアを疎ましく思う貴族たちは少なからず存在します」


「彼らがこうやって強硬手段に出る可能性はある、と言う事ですね」


「はい、その時リアを守る者がどういう方か、私が把握しておかない訳にはいきませんから」


 それなら普通に謁見させて貰っても良かったんじゃないですかね――――とは言えない、今回のは俺にとってもいい演習になったからな。


 アザリアは怖かったかもしれないが、これで暗殺に対する備えはもっと盤石なものに出来るだろう。


「しかし、私の考えは杞憂に終わったようですね」


「お言葉ですが、私一人では守り切るには限度があります」


「分かっていますよ、その為の彼らです」


 アマリアがそう言い、目配せすると先程まで倒れていた者も含め、五人の黒装束たちは起き上がって跪いた。


「私直属の暗部、"影"です。これからは彼らを使ってあなたとは連絡を取り合いますので、そのつもりで」


 あ、影で合ってたんだ、適当だったんだけど。

 身のこなし的にそう言う人らだとは思ったが、強さで言えば中の上、正面切って戦う訳じゃないからそこまでだな。


「しかし……彼らもかなりの手練れの筈なのですが、あなた一人に敗北するとは……これは鍛え直す必要がありそうですね」


 面目なさそうに俯く影の五人に、アマリアは溜息交じりにそう言う。

 まあ、今回は殺す為にやった訳じゃないし、手を抜いて戦うのは難しい。

 そんな落ち込まなくても……と伝えたら、


「あなただって分かった上で手加減していたでしょう! 同じ土俵の上で負けたんですよこっちは!」


 と、影の人に怒鳴られてしまった。

 どうやら深く彼らのプライドを傷つけてしまったらしい。




「確かに私も無力化を目的に戦ってたが、別に手加減はしてない……」


「それが手加減だって言ってるんでしょうがぁ! ワンパンチで沈めておいてよく言いますよ!」


「そもそも、なんですかあれ! あんな速く動ける人見たことありませんし!」


「瞬歩……だけど?」


「瞬歩は常識的な範囲で速く動く歩法ですが!? あれもうそんなレベルじゃないですよね!?」


 あっ、いやこれ……ワンパンで気絶させた人しか怒ってないわ。

 なのでせめて、俺もちゃんと戦っていたという旨を伝えたかったのだが、逆効果だった。

読んでいただき、ありがとうございました。

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