表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生竜人の少女は、安寧の夢を見る  作者: 椎名甘楚
二章.第一王女護衛依頼
49/210

45.魔法の勉強

「では、次はその火を長く維持する事を頑張りましょう」


「え~? おっきくしたり、もっとこう……強そうなのにしないの?」


 『もっとこう……強そうなの』が何なのかは分からないが、魔法を扱う上でまず大事なのが威力では無く制御する技術と魔力量(スタミナ)だ。


 パワプロでも投手は球速より制球とスタミナから上げる方が効率がいいからな。


 「いいですか、元の形より大きくしても、小さくしてもいけません」


 例にするならスクワットで一番しんどい姿勢のままでいろ、と言うが一番的確だろう。

 

 魔法と言うのは人が操る以上、制御しなければ形は崩れる。

 それは炎の揺らめきだったり、水のさざめきだったり、風の霧散だったり。

 常に送り込む魔力を一定に保ち、維持するのはかなり鍛錬になるのだ。


 そうしてスタミナが付いて来た頃には自然と威力の増減も出来るようになる。

 まあ、あくまで俺がそうやってして来ただけで、これが唯一正解って訳でもないが。


「むぐぐ……これ、結構難しいわね……」


「目標は一時間、と言いたいところですが、最初は五分、慣れてきたら段々と時間を伸ばしていきましょう」


「わ、分かったわ!」


 俺の言葉に素直に従って、アザリアは小さな火種をジッと見つめる。

 プルプルと震えながら、なんとか形を崩さないようにと必死になっているのがまた可愛らしい。


 そんなアザリアの様子を暫く眺めていたら、ふと気付いた。

 彼女(アザリア)の適性を調べたと言う事は、妹のリルシィもしている筈だと言う事に。

 リルシィは何故か光属性の魔法を使えるが、魔術師ギルドはそれに気が付かなかったのか?


 そもそも、何故あの子はイミアと同じ魔法を使えるのか。


 イミアは聖女と呼ばれる選ばれた存在で無ければ使えないと言っていたが、リルシィも聖女の器だと言う事なのだろうか?


 ……あくまでイミアは()聖女だ。


 なら、次代の聖女として彼女が神に選ばれた可能性は無いか? 今のところ新たな聖女がイグロスに誕生したという話は聞かないが……。聖国の情報は外部に伝わって来づらい、イミアが追放されたというのも偶然冒険者が噂していたからであって――――


「あれ――――」


 この時点で俺は自分が途轍もない勘違いをしているような気がしていた。何か、大事なことを見落としているような、間違ったパズルのピースを当てはめているような感覚。


 なんなんだ……?

 それが何か分からない。

 そもそも聖国とは、聖女とは一体……ウゴゴゴゴ……。


 駄目だ、考えても一向に答えが出る気がしない。

 言ってもこの世界で生きてまだ二十年弱だ、知識量が足りなさすぎる。

 というかそう考えると、


「……俺って、イミアについてなんにも知らないのか」


 彼女が自分から口にしない限り、身の周りの話を詮索する事は控えていた。


 国を追放された唯の一光属性魔法の適性者で、丁寧語キャラで、思い込みが激しくて、聖女と言うだけでも属性過多だったが……。


 聖国の内情や、イミアがどうやって過ごして来たか、両親はどんな人か。

 友達はいたのか、好きな遊び、好きな食べ物、嫌いな物。

 後の祭りだが、今更になって聞いておけばよかったと思う。 


 『余計な事は聞かない』なんていう気取った考えで、俺はイミアを理解する事を放棄していたんだ。


 何か複雑な事情があるからと言って、関わらないようにするのは彼女を遠ざける事と何も違わない。


 一番近くいたようで俺が一番、イミアを遠ざけていたのかもしれない。

 

 なら……次に会うときはもう間違えない。

 ちゃんとイミアの事を知って、その上でもう絶対に遠くへは行かせない。

 俺の手の届く場所で、彼女にめいいっぱい笑っていて貰うんだ。

 

「むう……」


「うわっ!?」


 俺が密かにそんな決意を固めていたのだが、ふと顔を上げるとすぐ目の前にアザリアの顔があった。


 頬をぷくっと膨らませ、不機嫌そうにジトっとした目で俺を見ている。


「どうしました……?」


「……この浮気者」


「えっ?」


 アザリアはそれだけ言うと、そっぽを向いてしまった。

 俺は彼女の気に障る事を何かしたのだろうか……?

 というか浮気者って、一体何処でそんな言葉を覚えたんだ……。


「私の前で他の人(べつのおんな)の事を考えるなんて、さいてーよ」


 あ、どうやら俺が何か考え事をしていたのに対しての事らしい。

 女の勘というのは鋭いと言うが、別に浮気とかそう言う関係でもないだろうに。

 イミアはどちらかと言うと家族のようなものだし。

 恋愛では無く親愛で、一緒にいると落ち着くような、そんな相手だ。


 そもそもの話、もう俺の恋愛対象に女性は当て嵌まらないからなぁ。

 男と付き合えるのかと言われればそうでもないし、恐らく今の人生でも結婚とかはしないと思う。


 にしても家族、か……。


「アザリア様」


「……何よ」


「アザリア様は、妹君様の事は好きですか?」


「リルシィを……?」


 俺がそう訊ねると、突然の事だったのかキョトンとするアザリア。


「リルシィは声も小さいし、気が弱くてすぐ泣くし、すぐ謝るし、すぐに私を苛つかせる事ばかりするわ」


 だが、直ぐに口をへの字に曲げると、そう言い放った。

 成程、この悪いお口は妹相手にでも容赦は無いと。

 リルシィが今目の前に居なくて良かったな、絶対泣いてたぞ。


「でも、魔法の才能もあって、優しくて、私より頭も良くて……好きよ、たった一人の妹だもの!」


「……そうですか、それなら良かった」


 満足のいく答えが聞けて、俺はそう言いながらアザリアの頭を撫でた。

 周りの評価がどうであれちゃんと分かっているならそれでいい。

 俺がイミアを大事に思ってるように、アザリアにもリルシィを大事にして欲しいからな。


「それはそうとして、アザリア様、魔法の鍛錬はどうしたんですか?」


「げっ……」


 ばれた、とでも言わんばかりの顔でアザリアが後退る。


「いいですか、基礎鍛錬というのは反復する事が最も大事なんです。鍛錬中のお喋りは何度も何度も繰り返し行う事によって体に魔法を扱う感覚を覚えさせ、よそ見しながら手癖で出来るくらいになってからにしましょうね。分かったら早く五分間の維持を始めてください、五分やって、一分休憩、また五分やって一分ですよ。分かってますね?」


「うぐ……こういう事に関してはあんた、容赦ないのね」


 基礎練の鬼と言えば俺の事……と言うのはまあ冗談で。

 これに関しては完全にエイジスの受け売りだ。

 

 この世界はゲームではなく現実(リアル)

 手っ取り早く効率のいい経験値稼ぎなんてものは無い。

 特にこの基礎の部分においては、効率が悪いと思う位に何度も反復練習する事が大事なのだ。


 理由は幾つかあるが、一番は実戦において何も考えずに魔法を使えるようになる為。

 敵の動きを見ながら自分と仲間の立ち位置を考え、その上で魔法を発動する為の鍵符(キースペル)の詠唱やコントロールにリソースを割くのは難しい。


 だから、魔法だけは息をするように発動できるようにしなければいけない。

 一つでもタスク負荷を軽減出来れば、それだけで動きに幅が出る。

 格ゲーのコンボを脳死で撃てるようにするのと同じく、魔法も体に扱い方を覚えさせる必要があるのだ。


「……その前に、一つ聞かせてほしい事があるのだけど」


「何でしょう?」


 そんな高説を垂れた後、アザリアはそう言って俺をジッと見つめる。


「ルフレは――――」



 だがその問いは、













「――――どうして魔法を詠唱せずに使えるのか? ですよね」


「……っ」


 いつの間にか部屋の入り口に立っていたアルバートによって、横取りされた。

読んでいただき、ありがとうございました。

誤字脱字報告やブックマーク、下にある★など入れて頂くと嬉しいです。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

新作の投稿はじめました! 興味のある方は下のリンクから是非!

↓↓↓↓↓↓↓↓↓
『創成の聖女-突然ですが異世界転生したら幼女だったので、ジョブシステムを極めて無双します-』
― 新着の感想 ―
[一言] 読み間違いだとあえて気にしていなかったのだがやっぱり、一人称が俺になってるのかぁ...;;
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ