37.厄介な依頼
土日は二回更新する余裕があるので、出来れば毎週二回更新したいですね。出来るとは言っていません。
「王族の、しかも次期陛下……第一王女殿下を……ですか」
「そ、今この国にいる信頼出来て、実力もある冒険者と言えば君ぐらいだからね」
女尊国家であるフラスカは、国のトップが女になる事も珍しくは無い。
しかし、辺境伯が王都へ向かう為の護衛だとか、そう言うのは受けたことがあるが……王族かぁ。
正直言って荷が重い、というよりも面倒そうだ。
「報酬と任期は?」
「任期は一年、報酬は王金貨十枚、任期満了時に払われるそうだ」
「そうだ……って、大丈夫なんでしょうね? 仮にも王族からの依頼ですよ?」
「ははは! そうだね、多少問題があるかもしれない」
カラカラと笑うエイベルはどこか面白そうな目で俺を見ると、今しがた運ばれてきたローストチキンを口に含む。
イケメンと言うのはただ食事をしているだけでも絵になるんだからズルい。
俺なんか『一週間は食べてない孤児みたいな食べ方するね』って言われるからな。
がっつく癖が浮浪児の時に付いたせいで、未だに時々恥ずかしい思いをする。
「断らせる気は……」
「先程も言ったが、相手が相手だ。断れば、この国で君が大手を振って活動する事は難しくなるだろうね」
選択権は無いようだ。
もう俺の意思に関係なく、既にそういう話になっていると考えた方がいい。
一年間もこの国に拘束されるのは痛い。
イミアの情報が手に入るかもしれないが、不確定だし。
「まあ、こちらから出来うる限りのサポートはするさ。ただ、第一王女、アザリア殿下はその、少々癖の強い御方だ。力になれないかもしれない」
「はあ……」
王侯貴族の癖が強いのはエイベルでもう知っている。
あとそれって、結局自分でどうにかしろってことだよね。
まあ、分かってたし、こういう無茶ぶりは慣れてるからいいけど。
せめて報酬の王金貨十枚をモチベーションにやるしかない。
「もう冒険者ギルド側には正式な依頼として通してあるから、明日にでも王城へ行ってくれ」
なんとも手際の早い事。
もう俺は驚くことも無く、ただ無心で料理を貪り食うのだった。
***
「……いつ見てもデカイな」
フラスカの王城は、碁盤の目のような王都の中央に位置する。
白亜の城は、まるでお伽噺に出てくるような美しさと長い歴史を感じさせてやまない。城内部に入れる事などは滅多に無いし、そもそも王族が城で何をしているのかは謎だ。
まあ、仕事をしているんだろうけど、ラノベにあるような感じでは無いと思う。
この世界の製紙技術は拙いから書類作業も無さそうだし。
もしかして一日中玉座に座って踏ん反り返ってるだけ、とかは無いよね?
「おい、そこのお前。止まれ」
そんな事を考えながら城内へと続くつり橋までやって来ると、衛兵にストップをかけられた。
万が一王都が敵に攻め込まれる事があってもいいように、城の周りには広い堀があり、城内と外は南北に掛けられたつり橋以外では行き来が出来ない。
そして、俺みたいな城に用がある奴をここで一度検める役割もある。
橋の横には詰め所があるし、衛兵はそこで寝泊まりして日夜城を守っているのだろう。
万が一に備えて、いつもいつもご苦労様ですと頭が上がらないぜ。
「……って、なんだ子供か。お嬢ちゃん、ここは子供が遊びに来る場所じゃないから街へ帰ろうか?」
小走りで駆けてくる鎧を着たおじさんは、ちゃんと俺の姿を捉えるとそう言った。
磨き上げられた白銀の鎧は……近衛騎士団のものだろう。
成程、最近は騎士がこういう雑務もやっているのか。
てっきり鎖帷子を着たモブみたいなお兄さんがしているものかと。
「冒険者ギルドフランベルク西区支部からの指名依頼で来た、ルフレ・ウィステリアだ」
「こ、これは失礼っ! 金証保持者殿であったか!」
俺が首に掛けた冒険者証を持ち上げて見せると、騎士のおじさんは途端に態度を変えて敬礼。
うんうん、そういう真面目なところ、俺嫌いじゃないよ。
「今訪問者予定表を確認するので、暫くお待ちいただきたい!」
そう言って、おじさんはドタバタと詰め所へ走っていく。
働き者なのか、ただせわしないだけなのかよくわからんな。
俺がボーッとそんな事を考えていると、直ぐにおじさんが息を切らして戻って来た。
「か、確認しました。冒険者ルフレ・ウィステリア殿の訪問予定は確かにありましたので、どうぞお通りになってください」
「ほい、ご苦労さん」
そう言われて吊橋を渡っている最中、城門に降りていた鉄格子が上がった。
物々しいことこの上無いが、人が来るたびに一々同じ事をしているのだろうか?
鉄格子は上がったがしかし、大門自体は開く事は無い。
押したり引いたりするタイプの物でも無さそうだし、何処から入るのかとキョロキョロと辺りを見回せば、右端に小さな戸口のようなものを見つけた。
歩いて近づくと、大門とのサイズ比で小さく見えたが普通に戸口は大きかった。
そして、俺はこれ見よがしに取り付けられた蝶番をドンドンと壁に打ち付ける。
すると隣にあった仕切り板が上がり、中から白髪の老人がニュッと顔を出した。
思わずギョっとしたが、仮面を付けているのでバレていない筈。
「……あんた名前は」
「ル、ルフレです」
俺が名乗ると老人は一度顔を引っ込め、直ぐに戻ってくるとガチャリ、と鍵の開く音がした。
「……入っていいよ」
どうやらつり橋前とこことで二重のチェックがあるらしい。
これも防犯の一環なのだろう、あまり気にしないでおくことにする。
鍵の開いた扉を通り、中へ入ると先程の老人が難しそうな顔で木の台に並べた石を動かしている。
あれは確か、この世界にもあるボードゲームだ。
いつだったか何処かのギルドで冒険者たちがやっているのを見たことがある。
ルールは将棋に似ているものの、駒の数や動きも違う。
きっとここでの仕事は退屈だから、こうして暇つぶしをしているんだろう。
にしてもここは、なんだか狭いな……?
「お待ちしておりました、ルフレ殿」
老人とはまた違う――――深く重みのある声が聞こえ、思考を中断し、声のする方へ視線を向ける。
そこには白髪の混じる黒髪を後ろへ撫でつけた、老齢の執事の姿が。
伸びた背筋や、百八十センチをゆうに超える上背は威圧感の塊だ。
燕尾服にループタイ、服装から見るに執事か何かである事は間違いない。
「私はここの家令をやらせて頂いております、執事のバーソロミューと申します」
「あ、どうも。冒険者のルフレ・ウィステリアです」
あ、やっぱり執事だった。しかも家令って事は筆頭だな。
どうやら俺が来ることを見越してここで待機していたらしい。
「しかし、わざわざ裏門から来る辺り、どこかで似たような仕事をしたことが?」
「あ、いや……今回が初めてです」
ああ、こっち裏門だったのか。
成程確かに、普通お城の玄関ってもっと解放感に溢れてるもんね。
ここはスタッフオンリーとでも書かれていそうな、細い通路しかない。
「左様で、大抵の者は表門から来るものですので、てっきり」
「そうなんですね」
じゃあ、俺が表門から来た時の為に、あっちにも人を配置してたって訳か。
中々どうして、試験でも受けているような気分になって来た。
HxHでこういうのあったよね、となると次は何十キロも走らされる?
「では、城内を案内いたしますので此方へ」
さて、冗談は置いといて一年間お世話になる職場だ。真面目に城内見学と行きますか。