閑話.意外なすれ違い
今日は二回投稿と言ったな、あれは嘘だ(19時にもう一話上げます)
アルトロンド王国の街ルヴィスから出た僕は、今宛ても無く彷徨っていた。
勇者パーティを追放されたと言っても別に復讐する気も無いし、かと言って特に何かすることがあるかと聞かれればそうでもない。それに、何処へ行こうにもお金が無いんです。
唯一換金できそうな本は、ルヴィスを出る際に道案内してくれた女の子にあげちゃったし……。今思えばあれは流石に代金としては高すぎたかな。無理やり押し付けたような形になったから、困って無いといいけど。
それにしてもあの子、可愛かったなぁ。モデルばりの美少女、美幼女? とにかく顔のパーツが全部整ってるのは凄かった。真っ白な髪色はこっちに来ても初めて見たし、その中にある赤い瞳がまた綺麗なんだ。
角と尻尾があるのはちょっとびっくりしたけど。それでもその辺の女の子とは比べ物にならないだろう。あの子とは……うちの国のお姫様くらいじゃないと張り合えないと思うな。
そんな益体の無い事を考えて歩いていると、前方から何か音が聞こえた。
顔を上げれば、いつの間にか街道から逸れていた事に気付き、サッと血の気が引いていく。
「ブルルルル……」
音の正体――――目の前にいたのはブラックボア。
黒い剛毛に覆われた体と一対の鋭い牙、人間程度なら挽肉のように潰せる程の力を持つ危険な魔物だった。
ま、マズい……!
どうする? どうすればいい?
今までは勇者たちが現れる魔物を全て倒していたから、僕は殆ど戦った事は無い。それに持っている武器と言えば、小さな果物を切る為のナイフだけだ。
でも、取り敢えず――――
「"能力看破"!」
いつものようにそう叫ぶことにした。
すると、僕の視界の右端に半透明のディスプレイのようなものと、その中に書かれた文字が現れる。これが僕のもう一つのスキル|《能力看破》《ステータス・オープン》。《言語理解》は神様がサービスしてくれたもので、こっちは僕が転生して自然と手に入れた物だ。
それで肝心のスキル内容だけども、
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種族名:ブラックボア
Lv.: 10
STR:50
DEF:35
AGI :30
MAG: 5
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こんな感じで対象のステータスを数値化してみる事が出来る。もっと集中してみれば、詳細な情報まで見えるけど今はそんな事をしている場合ではない。
因みに僕のステータスは、
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アキト
種族名:人間
Lv. : 1
STR: 10
DEF: 10
AGI: 15
MAG:10
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これです。
この世界の成人男性の平均が大体オール10なので、一応平均はあるんだけどね。でもブラックボアには完全に負けてる、戦ったら死ぬことは確実だ。というか、今そんな事してる場合じゃないって言ったばかりだろ! うわあ、本当にどうすればいいんだ!?
とにかくこの場を去ろうと、僕は極力ブラックボアを刺激しないように、ゆっくりと後退を試みる。一歩一歩慎重に目線を外さず、ゆっくり、ゆっくりと……。このまま街道の方へ戻り、その後は街へ向かって全力ダッシュしよう。
そう思って、1メートル程距離を取ったところで、
「ウギャッ!?」
転んだ。
ありがちなミスだ。
前を向いていたせいで、後ろに埋まっている石に気付かなかった。
「ブルルルッ!!」
尻餅を着いて転んだ僕を見て、ブラックボアが呻りを上げて迫りくる。もう駄目だ、どうやら僕は此処で死ぬらしい。お父さん、お母さん、僕、異世界に来て特に何も出来ずに死んじゃいます。せめてラノベにあるようなテンプレを一つくらいやってから死にたかった。
ああ……そう言えば勇者パーティー追放は、結構テンプレだったかぁ。
あと数十センチ、あと一秒もしないうちに僕の身体はミンチだ。襲ってくるだろう痛みが怖くて、ギュッと目を閉じる。
「……!!」
だが、
「…………?」
いつまで経っても痛みはやって来ない。
何事かとゆっくりと目を開いていくと、僕の前に誰かが立っているのが見える。大きな外套のせいで顔はよく見えないけど、女の人だ。
「無事ですか?」
「あ……はい」
透き通るような綺麗な声でそう聞かれ、呆けたように答える僕。なんだか夢でも見ているようだけど、どうやらこの人が助けてくれたらしい。
彼女の手に持つ槍……槍だよね?
先端に斧の付いた、ハルバードと言う奴だろうか、それがブラックボアの身体を貫いている。女の人がビクビクと痙攣を繰り返すブラックボアから槍斧を引き抜くと、不思議な事にそれは光の粒になって消えてしまった。
そして、女の人はしゃがみ込み、何やらブツブツと呟いている。回り込んでチラッと見れば、祈るように両手を合わせていた。
女の人は数分祈りを捧げ、徐に立ち上がると僕の方へ顔を向けて見せる。
「危ないところでしたね、無事で何よりです」
「あ、ありがとうございました……!」
眉目秀麗とはこういうことを言うのかと思った。あの女の子とは違うタイプだけど、間違いなく美人。大人っぽさの中に幼さを残した感じの、男装させたら似合いそうな感じ。
でも決して中性的という訳でも無く、優し気な瞳や柳眉は女を感じさせて止まない。
「では、私は先を急ぐのでこれで失礼します」
「あっ……」
さっきから喋る前に感動詞を付けなきゃいけない縛りでもしてるのか、僕は。カオナシでももう少し頑張って喋るぞ。とかなんとか言ってるうちに、その女性はいつの間にか姿を消していた。
慌てて辺りを見回してみれば、もう数十メートルも先にいるじゃないか。
どうしよう、追いかけるか?
助けてくれたお礼もしてないし……。いや、でもなんか急いでる感じだったから迷惑かな……?
と、
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name:イ縺ッ蜒・縺ェ?讌エ莉?
種族:ケ繧ソ繝シ?繝槭
Lv : 30
STR: 450
DEF: 300
AGI: 500
MAG:1250
状態異常:呪い
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視界の端へ新たに現れたこのステータスを見て、僕は思わず硬直した。今までこんなステータス値の人間は見たことが無い。あの勇者であるエヴァンですら平均で100前後しかないんだぞ。
なんか文字化けしてるし、種族名も名前も滅茶苦茶だ。
それに、状態異常:呪いって……。きっとあの女の人のなんだろうけど、不気味過ぎる。今は関わり合いにならない方がいいと、本能が告げていた。
うん、急いでいるらしいし、邪魔しちゃ悪いもんね。
そうして僕は彼女とは正反対へ歩き出し、自然と大陸の北部へと行くことになった。
――――数年後、意外な形で再開するとも今は知らずに。
アキト君、TRPGだと探索や交渉系技能に偏った、アイデア値(直感のようなもの)が異様に高いタイプのキャラだと思います。多分無駄に神話生物の足跡見つけたり正体とか知ってしまって発狂するタイプ。




