表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/210

21.金髪の青年


 今日は前に住んでた掘っ立て小屋に用があったので、久しぶりにスラム――――裏町へやって来た。


 裏町と言っても、その全てがハリボテのようなものだ。

 木板やトタンで繕ったような建物と、廃屋が立ち並んでいるだけ。

 住んでいる人間は皆社会の負け組。

 そんな裏町の路地を歩いていると、否応なしに死んだ目の視線に晒される。


 今は俺も小奇麗な恰好をしているからな。

 表の街の住人が何しに来たのかと思っているんだろう。

 今日着ている服は14歳の誕生日祝いに貰ったものだ。

 因みにシェリーが竜人族の民族衣装に似たのを選んでくれた。


 と、


「あ、白いお姉ちゃんだ!」


「おう?」


 不意に背後から声を掛けられ、俺は立ち止まる。

 振り向いてみれば、そこにはアイスを振舞った時にいた孤児の女の子がいた。 

 

 7歳か、8歳くらいだろう。

 こんな環境下でも子供だけは不思議と元気なものだ。

 死んだ魚のような目をした大人とは違い、生きる事に希望を持っているらしい。

 

「あのね、この前の冷たいやつ、美味しかった!」


「そりゃよかった、次は冷たくないけど死ぬ程甘いお菓子を作ってやるよ」


「……ほんと?」


「本当だ」


「やったー!」


 喜ぶ顔を見て、俺も思わず肩を竦めて苦笑を漏らす。

 どうやら甘い物と言うのは世界を隔てても共通で女子の好物らしい。

 かく言う俺も前世から甘味は大好きだし、その限りではないかもしれないが。


「じゃあ約束ね! えっと……わたしはソラ! お姉ちゃんは?」


「ソラか、いい名前だ。私はルフレ」


「えへへ……ありがと」


「でも、約束って言っても今すぐに作れる訳じゃないし、ちゃんと良い子にしてないと作ってやらないぞ」


「うん、分かった!」


 どこまでも純粋で、無垢。

 ソラの輝かんばかりの笑みは、穢れを知らないようだ。

 だが、もう少し大人になれば自分の置かれた状況を理解するのだろう。

 そして、記憶を取り戻す前の俺の様に絶望すると思うと、居たたまれない気持ちになる。


「お姉ちゃんは今からどこいくの?」


「ああ、ちょっと用事があってな」


「じゃあ、私もついてこーっと」


「なにも面白いことはないぞ?」


「んふふ、いーの!」


 ソラにそう言われ、別に付いてこられて困る事も無いので好きにさせる事に。


「ほら、行くぞ」


「うんっ!」


 とてとて、と後ろを付いてくるソラを見ていると前世の妹を思い出す。

 小さい頃はソラの様に何をするにも後ろへ引っ付いて来て、よく一緒に遊んだっけ。

 まあ、中学に上がった辺りで可愛げなんて消え去ってしまったが。

 多分、思春期の女子は皆そんなものだと思う。


「お姉ちゃんって、まじん? なんでしょ」


「そうだな、私は魔人だ」


 と言ってもハーフだけど。


「ふーん、じゃあ強いんだ?」


「少なくともソラよりは、な」


「なら、私たちを殴ったりする?」


「……どうしてそんな事を聞くんだ?」


「ガル爺がいってた、強い人は弱い人を虐めるって」


 ガル爺は裏町でも古株のホームレスで、ここの子供たちの保護者役を務めている老人だ。

 

 確か元々は何処かの騎士団に居たらしいが、腕を失ったとかで失業したらしい。

 その後はやけ酒に溺れ、気付けばこの掃き溜めにいたとか。

 俺も直接は話したことは無いが、富裕層を憎んでいると言う噂はよく聞く。


「虐めないさ。殴られたら、痛いもんな」


「……そっか、よかった!」


 そう言ってソラの頭を撫で、俺は小さく息を吐く。


 殴られれば、やられた方は当然痛い。

 そんな当たり前の事すら分からず、他者に痛みを与える輩は何処の世界にもいる。

 

 『やり返さない方が悪い』なんていう奴もいるが、それは間違いだと俺は思う。

 奴らは、"やり返せない"人間を狙ってやっているのだ。

 半端な人間だからこそ、自分より弱い者を甚振って愉悦に浸るしか出来ない。


「もしソラが虐められそうになったら、私を呼べ。私か、私よりもっと怖ーいおっさんが来て助けてやるからさ」


「えへへ、ありがとぉ」


 だが、真に強いと言う事がなんたるかを俺はエイジスやイミアから学んだ。

 特撮のヒーローも、現実の英雄も弱者を守る為に身を挺すものだと。

 炎竜から俺を守ってくれた二人は、俺にとってまさしくそれだった。


 俺がスラムの人間を内心で見下していたのは否定しない。

 性格のひん曲がった奴なのも認めるし、今もこんなゴミ溜めのような場所に戻りたいとも思わない。


 助けてやる、なんて言葉だって俺自身本心からのものか甚だ疑問である。

 しかし、善意というのは受け取り手が感じるもの。

 ソラが今の言葉を心からの善意と思えば、俺の抱えている罪悪感や葛藤などはどうでもいい事なのだ。

 

「もし、そこの御方」


 俺がそんな思考に沈んでいると、今度は正面から声を掛けられた。


「貴女、表街の人ですか?」


 そう言って俺に話しかけて来たのは、柔らかな笑みを湛えた青年だった。

 簡素ながらも、質のいい服や、装飾品。

 定期的に湯浴みをしていると思われる艶のある金髪と白い肌に碧眼。

 おおよそ白人に相当する外見的特徴を兼ね備えた優男風の風貌は、この辺りでも珍しくはない。

 

 恐らくは貴族か、それに準ずる金持ちの輩だろう。


「え? ああ、はい」


「ああ良かった、実は道に迷ってしまって困り果てていたのですよ。それで……表街にはどう行けばいいんでしょう?」


 青年は困ったような笑みを浮かべ、頭を掻く。

 やはり余所者で、間違えて裏街に来てしまったらしい。

 

「ここからずっと西に行って、大きな看板のある路地を自分から見て左へ曲がれば表街です」


「ああ、そうですかそうですか! これはご丁寧にどうも」


 目の前の青年が浮かべる、ふわりと優し気な笑みは女性が見れば見惚れるような美しさがある。俺には効果がないが、それでも現実離れした美形である事は間違いない。

 

 だが、どうにもこの男……不思議な雰囲気を感じる。

 上手く言葉に言い表せないが、個人的にあまり好かない。

 どこか胡散臭いと言うか、誠実さの中に不穏な気配が見え隠れしているのだ。

 

「ところで、この街にいる髪の長い、十五歳くらいの少女を知りませんか?」


「いや、知りません。……ですがどうしてそんな事を?」


 十五歳くらいで髪が長いと言うと俺も該当するが、この世界的にはまだ十歳前後に見られるので違うだろう。


 イミアもあれは十七~八歳かそこらかだし、俺の交友関係の中にはいない。

 しかし子供を探しているとは、一体どういう理由だろうか。

 この年で子持ちという訳でもないだろうしこいつまさか、イケメンの皮を被ったロリコンか?


「それがですね、その少女――――私の古い友人なんですが、ここに引っ越したと聞いて、お祝いも兼ねて遊びに来たのですよ。かなり遠方から来たもので、少し旅疲れもあったのか気が抜けて迷ってしまって……ははは、本当にお恥ずかしい」


 や、前言撤回しよう。

 わざわざ遠くから引っ越し祝いに来るなんていい人じゃないか。

 俺がこういうあからさまな爽やかイケメンが苦手だから、先入観を持ってただけだ。

 

 人となりなんてちゃんと話してみないと分からないもんだ。


「だったら、豊穣亭という酒場で情報を集めるのが手っ取り早いと思います。あそこは人が集まりますから」


「そうですかそうですか、それはまた親切にありがとうございます」


「そのご友人、早く会えるといいですね」


「ええ、可及的速やかに見つけたいものです。では、私はこれで……」


 そう言って、青年は俺の言った方へ歩いて去っていく。

 なんだか随分自然体で話せた気がする。

 魔人相手だと変に距離を置く人の方が多いからな。


 よその国の人っぽいし、やっぱりこの国の魔人差別が酷いだけなんだろうか。 

読んでいただき、ありがとうございました。

誤字脱字報告やブックマーク、下にある★など入れて頂くと嬉しいです。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

新作の投稿はじめました! 興味のある方は下のリンクから是非!

↓↓↓↓↓↓↓↓↓
『創成の聖女-突然ですが異世界転生したら幼女だったので、ジョブシステムを極めて無双します-』
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ