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20.強くなる理由

先日ブックマークが40件を突破しまして、本当にありがたい限りです。

「そっか、すると師匠と出会ってもう半年になるのか」


「まあ、そう言う事だな」


 工房で意外な人物から自分が一つ歳を取っていた事に気付かされ、感慨深げにそう呟いた。


 思えばあっという間だったな。

 基本的には毎日エイジスの仕事に付いて回り、その合間に鍛錬。

 大きな仕事を終えた後は長期の休暇に入るので、そこでもひたすら鍛錬。

 夏場は休みを多めにとって、毎日基礎鍛錬。


 あれ?

 なんか俺の鍛錬に当ててる時間の方が多くないか?


 仕事だって熟練冒険者のエイジスにかかればすぐ終わる。

 大体午前中の内に依頼をこなし、午後は日が暮れるまで稽古を付けて貰ってた。

 これではまるで、俺の面倒を見る為に時間を割いているようではないか。


「さ、じゃあ折角だしギルドの修練所を借りて、試し切りの打ち込みでもするか」


「あ、うん……」


 多分だが、実際そうなのだろう。

 エイジスの行動は全て俺の為を思っての事だ。

 前回の炎竜戦でそれが痛い程分かった。

 疑う気持ちはもう無いし、今はただひたすらに尊敬の念だけがある。

 もしかすると俺は世界で一番師匠運がいいのかもしれない。

 他の運に関しては最悪だが、エイジスと出会えたことだけでも採算は釣り合う。


「な、師匠。私は師匠と会えて、本当に良かったと思う」


「……おいおいどうした急に、お前が素直にそんな事言うなんて。明日は槍が降るぞこりゃ!」


 むぅ……、折角人が素直に気持ちを伝えたというのに。

 エイジスはそう茶化してとっとと先に行ってしまった。


 私はいつか、もっとちゃんとしっかりと感謝の言葉を伝えられる日が来るのだろうか。



***


「それで、どうだったんですか?」


「……え?」


「だから、新しい武器での模擬戦ですよ。もしかして勝てたりしたんじゃないかなぁと思いまして」


「ああ、負けたよ。結構いいところまで行ったけどな」

 

 イミアの問いかけにそう答えて、俺は羊皮紙に走らせていた羽ペンを止める。


 今は夜も更けて、就寝前の魔法の勉強の時間だ。

 あれから俺はこの世界の法則について改めて検証を重ね、色々と新しい発見をしていた。


 ――そもそも魔法とは、生物の体内にある魔力が、大気中に存在する魔素と呼応して発生する事象の事。


 そして魔素についてだが。

 これは生き物の意思に強く影響を受け、あらゆる物に変化する性質を持つ。


 つまり魔素を介して世界の法則に則り、事象を疑似的に再現する技術の事を魔法と総称するっぽい。


 ここで重要なのはあくまで事象の再現だと言う事。

 一定以上の法則を無視した、あり得ない現象は起こせないのだ。 

 例えば時間を止めたり、念じただけで相手を殺したりと言ったことはまず出来ない。


 そう言うのはスキルの領分なのだ。


 魔法を使うには魔力と、糧となる魔素、そして使いたい魔法に対する現実的で明確なイメージが必要。


 例えば、氷とは水の温度が零度まで下がる事で出来るものだ。

 H₂Oの結合云々などの詳しい説明は省くが、とにかく-273.15℃にすればいい。

 それは、原子の振動数が限りなく低く、停止している状態を指す。

 学校で先生の話をそれなりに聞いてたなら、それくらいの想像をする事は容易い。

 

 イメージが出来るとどうなるかと言えば、適性が無い者でも氷属性魔法を使うことが出来るようになる。


 それを実践するべく、俺は掌にテニスボール大の水球を作り出す。

 そして水球を想像の力と魔力で操作。

 液体を氷へと変化させ、形状を整えれば完成。


 恐らく……適性とは一番得意な属性の事を指すんだと俺は思う。

 俺が氷属性の魔法を使おうとすれば、余計なプロセスを辿り、余分に魔力を消費する。適性の有無とはきっとそこに現れているのだ。

 

「ルフレ様、これはなんですか?」


「フィギュア……って言っても分かんないか、まあ、簡単な人形だよ。モデルはお前な」


「わ、私ですか!?」


 俺はそう言って氷で形成したねん〇ろいど、のような何かを机に置いた。

 因みにモデルはイミアで、かなり会心の出来である。

 

 水を生み出し、氷に変え、それを削り、形成。

 一見無駄に見えるこの4つの過程だが、前述の通り魔力消費が凄い。

 逆にただ巨大な氷塊を作るだけなら結構簡単で、前者の緻密な魔力操作の方がしんどかったりする。

 

 魔力消費を上げようとすると魔法の規模を大きくするか、精密な作業を要するかのどちらかなので、この作業は魔法の訓練にうってつけなのだ。


「しかし、見事な物ですね。ここ一ヵ月の間、毎日励んでいた成果という訳ですか」


「まだまだだけどな、こんなもんじゃ炎竜にかすり傷すら与えられないよ」

 

 なまじか白竜人としての能力があるだけに、魔法の基礎の部分は何となくこなせてしまった。

 

 なので『実は俺って天才なのかも!』なんて一ヵ月前なら思ってただろう。

 だが、俺は炎竜と戦って強く思い知らされた。

 この世界の強さの天井は恐ろしく高く、広いと。

 あの炎竜ですら片手間に屠る強者も勿論いると考えていい。

 それを上回る存在だっているかもしれない。

 

 とにかく絶対に調子に乗ってはいけないと言う事だ。

 自分の身の程を知り、敵と相対した場合は勝てる相手か見極める事が必須。

 

 だがまあ、エイジスが師匠である限り、俺が驕るなんてことは多分無いだろう。

 単純に強いと言う部分でも、驕らないと言う面でもエイジスの考えは俺の価値観の根底に強く根付いている。彼は俺がこの世界で生きる為の見本なのだ。


「だからこそなんとなく……じゃ、駄目なんだろうけどな」


 剣の方はエイジスから耳に胼胝ができる程基礎を叩きこまれたが、

 感覚で魔法を使っているのは間違いじゃない。


 エイジスの戦い方は常に考え敵の動きを読み、逐一選択していく事が肝。

 相手がこうしたら、自分はこう動く。

 というテンプレのような動きがあって、今はそれを教えて貰っている最中である。

 これは基礎と違い、格ゲーの読み合いみたいな感じで結構楽しい。

 読み違えた時には色々と痛い思いをするのがゲームとは違う所だが……。


 つまりは最低でも大まかに攻撃か防御のどちらか、相手の選択に対し極力不利にならない方を取る。


 どんな状況でも二択以上はやれることがあると考えるのが彼の剣だ。

 

 そして、それに対して俺の魔法は『こうしたらいいのでは?』という感じである意味適当にやっている。


 剣と魔法では役割も戦い方も違うが、なんとなくで上手くいく事は余り無い。


「ルフレ様は、どうしてそこまで強さに固執するのですか?」


「え?」


 俺が瞑目し思案に耽っていると、唐突にイミアがそう投げかけた。

 どうして強さに固執するか、と来たか……。


「それは勿論、降りかかる火の粉を払う為……だよ」


「エイジスさんがいるのに、ですか」


 訝し気な色を孕んだ目に見つめられ、俺は思わず口籠る。


「あの方、エイジス・フォン・バージェンはキリシア大陸では数少ないAランク冒険者であり、アルグリア帝国子爵家の次男であり、神鉄流の範士。一時期は蒼の剣士と呼ばれた事もあったらしいです。少し世界に関心がある者ならだれでも知っている名でしょう」


「貴族……蒼の剣士……」


 イミアのその言葉に、俺は思わずエイジスの肩書を反芻していた。

 只者ではないと常々思っていたが、こんな世界的に有名な人物だったとは。

 思えばエイジスは基本的には素性を語らなかった気がする。

 

 やる仕事も、DやCランク冒険者と何ら変わらない。

 けど、王都に行けばもっと割のいい仕事だってある筈だ。

 地位も金も、こんな片田舎に隠居しなければ幾らでも欲しいがままに出来るだろう。


 何かやんごとなき事情があって、表舞台から姿を消したのだろうか?


「正直、私も彼がそうだと知ったときは驚きました。炎竜を屠るあの剣筋と、帝国人特有の顔立ちを見れば納得せざるを得ませんが」


「そんな人がなんでこんな国の端っこにあるような街に……?」


「分かりません、しかしルフレ様はあの方が守ってくれる事は確かでしょう。その上であなたが強さを望むのは……一体何故です?」


 最初は冒険者になる為に、利用できる物は何でも使う気でエイジスに指南を乞うた。


 お陰で既にもう一人でやっていけるだけの実力は付いただろう。以前と違い、自分の身は自分で守れるしな。

 

 それにエイジスがいれば、大抵の危険は危険でなくなる。

 戦う力という面では恵まれた環境にいる俺が、それでも尚強くなりたいと考えるのは……何故だろう。


 俺もルフレも、元々そういう荒事は嫌いだ。 

 日本育ちと言うだけで、争いとは無縁の生活だったからな。

 ルフレだって、なるべく波風を立てないように息を潜めて今まで生きて来た。


 けど、異世界転生すれば誰でもチート無双を夢見るだろう。

 授業中の妄想が現実になって、ひたすら主人公が持ち上げられる。

 

 俺だってそうだ、最初はそう思っていた。


 もしも最初から最強設定だったら、誰かに弟子入りして強くなるなんて選択肢は取らない。 


 敵も仲間も死なせず、圧倒的な力で問題を解決して。

 ご都合主義のようにヒロインたちに好意を寄せられ、王侯貴族とのコネを作り。

 スローライフなんて甘い幻想に溺れながら適当な塩梅で頑張るポーズを取って、それで生きていけたんだろう。

 

 現代人的物差し(ゲーム知識)で言えば、俺は能力値(ステータス)に関してかなり恵まれた方だ。

 それでも、この世界においては全く足りない。

 強さの天井が高すぎて、努力してもし過ぎるなんて事も無い。

 

 たった一つのものを、大事に抱えて歩く事で精一杯なのだ。


 だから、俺は多分――――


「誰かを、守る……為……?」


 自分で言ったにも関わらず、疑問形で確信は無い。

 しかし、俺は炎竜と戦った時に目の前で死んでいったあの二人を見て思った。

 俺が強ければ、守れた筈だと。

 昔から正義感ばかりが先走って、失敗した事も多々ある。

 偽善に浸って、悦を感じているだけかもしれない。

 それでも、守る力が欲しいと思ったんだ。


 



読んでいただき、ありがとうございました。

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