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転生竜人の少女は、安寧の夢を見る  作者: 椎名甘楚
六章.降誕せし魔の王
193/210

180.飛んでオスカント

 時間を遡る事少し。


「ん……」


 気づけば私はどこか遺跡のような屋内で立ち尽くしていた。


 倒れていない事を考えれば、恐らく転移が完了した瞬間だろう。流石に三度目ともなると慣れたのか、意識の回復も早いらしい。


「さて、今回はどこへ飛ばされた?」


 そう独り言ち、私は周囲の景色を鷹揚に見回す。


 無作為の転移によって今いる場所がどこなのか不明だが、ここまで落ち着いているのはメイビスのお陰だろう。彼女が私を見つけさえすればどこにいようとウェスタリカへ帰ることは容易だ。その肝心の見つける、という部分も契約によって魂が繋がっているから問題ないし。


 鍾乳洞にも似た洞窟から砂煉瓦の遺跡へ転移した故に、少々地理の把握が難しい事を除けば特に大事ではなかろう。


 寧ろあの転移陣がどこへ繋がっているのか知れるほうが大きい。あの部屋に施された術式を解析すれば、もしかするとワープゲートやポータルみたいな物を作れるようになるかもしれないのだ。これは魔法に長けた私の勘だが、あの魔法陣は恐らく空間魔法を詠唱で扱えない者でも再現出来る。


 魔法陣なんて要はソースコードな訳だし、必要分の魔力だけ与えれば起動する筈だろう。


「しかし、この場所は全くもって見覚えが無い」


 思案に耽りつつも遺跡内を歩き始めた私は、時折ある謎の台座や壁画を横目に嘆息を漏らす。遺跡の調査は何度かしたことはあるが、ここは来たことも無いし少し雰囲気も違う。


「……ダンジョンから転移したのだし、もしかしなくてもダンジョンに飛ばされた、という可能性は高いな」


 その可能性を確かめる為に起きた時に向いていた方向へ歩き続け、階段を見つけたので降りてみる。確認さえ出来ればいいので、別に適当に歩いて適当に階段を下ったわけではない。まあ……出口を探す為に上り階段を探すべきなのは確かだろうけど、折角だしちょっと探検してみようと思ったのだ。


 ―――ー冒険者と言えばやはりダンジョン


 ダンジョン側が勝手に財宝を溜め込むので、適当な時期に潜って適当に荒らし回ればかなーり稼げる。


 私の冒険者人生で稼いだ金の半分は、実はこのダンジョン金策によって得たものだ。ダンジョン探索がロマンだなんだと言っている連中には悪いが、一回踏破してしまえば往復で二時間も掛からないし。拠点を定めてその近場にあるダンジョン三つ程を定期的に周回すれば、金貨百枚くらいなら数ヶ月もあれば軽く稼げるだろう。


 さて、そんなダンジョンを稼ぎ場としている私だが、ここは恐らく然程深くはない低層のダンジョンだと睨んでいた。


 今どの階層にいるのかは不明だが、魔物の湧きが殆ど無い事を考えればそこまで深い場所ではない。基本的にダンジョンを構成している最奥のコアに近づけば近付く程、魔物の質も量も増える。これは階層が増えればその段階をどんどんと増やしていく為、深いダンジョンほど奥の魔物は強くなっていく。


 それをこのダンジョン内では比較的深い層であると踏んだのは、ここが一層であれば入り口に向かって空気が流れている筈だからだ。ここではそれが滞っている事から、ダンジョンの真ん中辺りであると目星を付けた。


「下は……やけに反応が多いな、アキトの魔力もある」


 なにより私の魔力感知では此処より地下、凡そ一層分下から、三層、四層と生物の反応を捉えている。更にその先にはアキトの物もあるし、見知らぬ魔力も複数検知できていた。


 最も近い物でこの先、大体二キロくらい離れているだろうか? 複数の魔力に囲まれている一つの小さな反応……


「……いや、待て待て待て!? これ、襲われてないか!?」


 邪悪な魔力と、微量の魔力。親しい者以外では種族単位程度にしか見分けられないものの、これは明らかに魔物に囲まれている人間の物だと分かる。


 私は急いで階段を駆け下りると、広間を走り抜けた。


 別に人助けの趣味はないが、同業者のよしみはある。今から向かう先で死なれていても困るし、ここがダンジョンならどうせ最奥で財宝を守るボスと戦う羽目になるだろう。それなら準備運動としては丁度良い。


「……一応着けておくか」


 走りながらも素性を晒すのを回避する為、久方ぶりに仮面とフードを装着。


 一応私はウェスタリカの王な訳だし、転移先が変な場所だった場合そこに居たという事実が残るのは少し厄介だ。まあ、幸いにして《白羊の悪魔》と《灰の魔剣士》は二つ名で私を知る者の中ではイコールにはならず、ウェスタリカの王と冒険者ルフレ・ウィステリアも同様。


 今の私は単なるAランク冒険者、闇社会の住人に悪魔と恐れられた女でいよう。


 そうこうしている内に、私の視界に二体のトロルとその奥にゴブリンが三匹映る。低層ダンジョンにしては厄介な魔物だ。大体Bランクのパーティー掛かりで一、二体討伐するのが普通の相手である。


「駆け出しがそれをな……災難としか言えない」


 渦中にいたのは装備もまだ新しい方と言える少年。どう見たって熟練の冒険者ではないだろう。


 死を悟ったのかその足は止まり、何も出来ずに固まっている。


 あまり悠長にもしていられない故に、背後からというのはあまり趣味ではないが、抜剣するとその心臓部目掛けて突きを繰り出した。


 それだけで魔石から魔力が霧散し、予想した通りに血を流す事なく――――魔力で肉体を形作るダンジョンの魔物特有の現象――――トロルはその体を消滅させていく。


「成程、やっぱりここはダンジョンで間違い無さそうだな」


 確証を得てそう呟いていると、横に居たトロルが私に気付いて腕を振り上げる。


「だとしたら初心者がいるのはそれはそれで変か。トロルの湧くダンジョンに普通、入らなくない……?」


 そのまま叩きつけるようにして私へ迫る巨腕を切断し、独り言のついでに頭を刎ねた。仮初の肉体とは言え基本的な弱点は同じで、また激しく肉体を損傷すると再生が間に合わずに死ぬ。


「ほら、頭を下げないと死ぬぞ」


「あっ、えっ!? ちょ?!」


 少年にそう告げれば、言われた通り両手で頭を抱えて蹲ったところに魔法を見舞う。ダンジョンは酸素が貴重なので使えるのは風と水属性に限られるが、《風刃》程度でもゴブリンならオーバーキルもいいところだ。


 事実、私の風魔法でゴブリンは一撃の元に魔石へと還っている。


「これで片付いたな。見た感じ大丈夫そうだが、どこにも怪我は無いか?」


「……」


「おい?」


「……ッ! あ、ああ! ごめん!」


 呆けたように立ち尽くす少年は私の声掛けに正気を取り戻すと、慌てた様子でそう言った。見た感じ十五かそこら、私が冒険者になったのと丁度同じくらいの年齢だな。


 それをこんな状況に追い込まれれば、放心の一つや二つして当然だろう。


「きみが助けてくれなかったら俺、死ぬところだった。本当にありがとう」


「礼を言われる程じゃない、後輩を助けるのも先達の務めだからな」


「ということはきみも冒険者……なんだ。ちょっと小さいから先輩って言うのは怪しいけど……」


「お前が耳の丸いエルフや髭のないドワ―フで年齢を詐称でもしていない限り、私の方が冒険者としても人としても七年以上は先輩だ」


「本当かなぁ……?」


「……ふん、疑うのは勝手だ」


 私の口ぶりから未だ信じてはいないのか、少年は胡乱気な目でしきりの背の小ささを比べたりしている。一応白羊の悪魔は寡黙で無慈悲という印象が強いので、そんな態度にも鼻を鳴らして外方を向いた。


「いや……そんなことはどうでもいい。お前、ここが何処か教えろ」


「何処って……ここはオスカント王国の辺境伯領のダンジョン、アルビア古代遺跡だろ? まさかそんなことも知らないで入ってきたのか?」


「……いや、確認しただけだ。少しダンジョンの様子がおかしかったものでな」


 そういう体を装い返事をしたが、私は内心で衝撃に打ち震えていた。


 オスカント王国? おいそれって、私の記憶が正しければ正真正銘海に面している大陸の東端だぞ! まさかそんなところまで飛ばされたのか!? やばいじゃん、日帰りだからって余裕こいてたけど、このままだとメイビスと合流しない限りどうにもならない奴だ!


「……ッ! そうだ、ダンジョン! この先で師匠たちが戦ってるんだ!」


「……何?」


 そんな私の内心での動揺も他所に、少年は突然何かを思い出したように慌てて叫び出す。


「ここには出ないはずのトロルが出て、師匠たちは俺を逃がす為に足止めをして……それでっ!」


「……先ず落ち着け、簡潔に状況を説明しろ……ただし走りながらだ」


 今のでもなんとなく察しはつく。が、それでも具体的な状況を知る為に、踵を返して階段を降り始めた少年に説明を求めた。


 ――――曰く、彼の名前はユーリ、冒険者としては二年目の新人らしい。彼は師匠であるアレックスという冒険者とその仲間と共に、初心者向けのこのダンジョンへ潜ったが……予想外の事態に見舞われた。それが先程のトロルであり、此処にはそんな高ランクの魔物は本来出現しないと言う。


「出現したトロルは何体だ? それとパーティーの人数は」


「五体だ! パーティーは師匠……剣士のアレックスと魔術師のレン、斥候で元スリのギドの三人!」


「……なら、お前が逃げてきてからどれくらい経つ? それによって状況は変わってくる」


「まだそんなに経ってない、五分くらいだと思う」


「分かった」


「なあ、さっき見たけどきみって強いんだろ!? 師匠たちの事、助けてくれるか!?」


「……悪いが状況による。五対三、しかも格上相手となると今から同じ時間を掛けて戻った場合……厳しい。間に合ったとて、誰かが死んでいる可能性は高いだろう」


「そんな……」


 こればかりはもうどうしようもなく、五分もあれば全滅する可能性は大いにある。私もその師匠とやらがどれ程の強さかは知らないし、善戦していることを祈る以外には無い。


「ただ、一つだけ訂正しておこう」


「……?」


「それは救援に来るのが普通の冒険者なら、という話だ。私なら五秒で到達出来る」


「へ……?」


「捕まっていろ、飛ばすぞ」


 そうとだけ言って私は雷属性と半同質化し、ユーリを抱えて地面を蹴った。


 初速で亜音速を超えるこの体なら「走ったけど間に合いませんでした」なんて言い訳をする必要も無い。態々自分から首を突っ込むのは少し面倒ではあるが、ここで見捨てるわけに行くまいしな。


「ひぎゃあああああっ!?!?!?」


 それと、あまりの速度に絶叫しているユーリのそれは、まあ……助ける対価とでも思って欲しい。一応重力魔法で斥力を調整しているので死にはしないだろう、多分。

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