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転生竜人の少女は、安寧の夢を見る  作者: 椎名甘楚
六章.降誕せし魔の王
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166.似たりよったり

 使節団を新作のケーキでもてなし、掴みは上々。


 そういう規則でもあるのか何やら面倒臭い貴族たちの会話を終えた使節団は、次に国を支える技術の数々を見学して回った。


 先進的な農法を用いる大規模な農耕地や今現在絶賛開発中の街、砂糖の工場などなど……。どれを取っても使節団の面々は非常に驚いたり、興味を惹かれていた様子だ。


 ただ、柱と壁の構造を分けた建築様式に興味津々の技術者もいれば、ドワーフの刻印した魔道具の精密さに度肝を抜かれた者もいたりと興味の幅は千差万別。そういった者たちは現場に残って自由に見学や責任者へ質問して貰うようにしている。


 うちはこれら技術を独り占めするつもりも無いので、出来るならフラスカとの技術交流も図っていきたい。あちらの高度に発展した上下水道の仕組みや堅牢な城下町の構造等、大国ならではの技術を盗むチャンスなのだ。


 今は技術者があちこちに散らばった為、残っているのは私とウルシュ、専門知識に疎い貴族たちと責任者のエイベルとアザリアのみ。


「おや……? 陛下、この国には人間も住んでいるのですか?」


「ん、ああ。以前は他国の民だったが、彼らも立派なウェスタリカの国民だよ」


 そんな一行の中で一人の貴族が何かを見つけたのか足を止め、唐突に私へとそう質問をして来た。返事をしながらも彼の視線の先を見れば、最近は見慣れた元傭兵(ヴァルハラ)の兵士が街の住民と会話する光景が目に映る。


「成程……彼の魔人の国とは言え人間も受け入れると、種族については融和的な考えをしていらっしゃるのですか……」


「確かに以前この国は人類と敵対していたし、禍根も未だ消えたとは言えない。が、敢えてそんな狭窄的な視野で物事を考える必要もあるまいて」


「も、申し訳ありません……。そのようなつもりで言った訳では……」


「いや、気にしてはいないよ。ただ、私は出来ることならば、ヒト種も亜人種も移民は受け入れたいと思っている。その為にも貴国と国交を結んで人類に友好的であることを証明しなければな」


 どうやら彼は若い貴族の割に色々と歴史に造詣が深いのか、魔王の国で人間と魔人が仲良くしているのを見て思う所があったらしい。されど、そういった類の質問は失礼どころか、寧ろ人間に私達が無害だとアピールできるいい機会だ。


「きみは、えっと……」


「ブルーノです、ブルーノ・フォン・ローレイン。家督を継いだばかりの若輩ではありますが、一応伯爵の地位を頂いております」


「ローレイン?」


 『はて、何処かで聞いた名前だ』と首を傾げれば、アザリアに横っ腹を肘で突かれる。そのなんとも言えない表情と、更に向こうに並ぶエイベルも苦笑しているのを見ながら更に頭をひねる。


「あ」


 かくして数秒の思案の後、漸くその名前を思いだしたのだが……。


「ああ、あの伯爵の子息か!」


「その節は父が両王家に大変な迷惑を掛けたと聞いております……」


 どうやら彼は王城にて行われた第二王女の誕生日の祭事の折、暗殺を企てて死亡した例のローレイン伯爵のところの息子だった。綺麗な茶髪のブルーノはあのハゲ散らかした中年とどうにも結びつかなかったが、言われて見れば目の色は同じだ。


 それにしても……殺した張本人はメイビスとは言え私も結構死体蹴りのような真似をしたし、その彼女も現在私の仲間なのだけど大丈夫なのかしら? というかそんな腐った家の息子を使節団に入れるとかあの女王、些か人選を間違えているとしか思えないが。


「……ねえ、これ大丈夫なの? 父親の仇とか言って後ろから刺されたりしない?」


「……問題無いわよ、お母様がちゃんと一人一人選んだのだし……多分……」


 その次第を確認しようとこっそりアザリアに耳打ちすれば、なんとも不安な返事が返ってくる。


「あれは……仕方の無い事でした。王族を支えるべき貴族があまつさえ陥れようとしたのですから」


 しかも内緒話のつもりが筒抜け、本人からそんな言葉を引き出してしまった。


 なんか気を使わせているというか、さっき禍根がなんたらとか言った身としては言葉を返し辛い。幾ら口でそうは言おうとも、肉親を殺した仲間を前にして何も思わない筈はないだろう。


「ですが、それも終わった事。私が何をしようとも、父の犯した罪も死んだという事実も消えません。なればこそ禍根は絶つべきです、せめて私の代で再び王族へ忠義を見せるという意味でも」


「……悪いな」


「いえ、当然のことです」


 ただ、ブルーノは大人だった。


 貴族として自分の立場を理解し、私情に流される事なく責務を全うしようとしている。故に前言を撤回しよう、女王の人選はやはり間違ってはいないようだ。これだけしっかりとした者を送ってくれた事に感謝しなければな。


 フラスカとの国交の見通しは、どうやら存外良好らしい。


 と、


「ルフレ様、報告があります」


「ん、なんだ」


「オーキッド商会の商隊が首都へ到着致しました。門前から現在此方へと向かっているとのことです」


 そんな折にウミノが私へと待ち侘びた報告をし、恭しく頭を下げた。


「思ったより早いな、受け入れ準備は出来ているのか?」


「はい、万事完了しております」


 ゲッツと和解した後日、アキトが紙鳥にて連絡を取った蘭商会のお偉方は自ら此方へ向かうという返答をした。


 本来は使節団の面々には大使館にて暫く待って貰う予定だったのだが、日程的にも幾らか早い到着は私としても少々意外である。それというのも(オーキッド)商会本部は北方諸国、妖精連合共和国の領内にあり、ここへは凡そ一ヶ月半程掛かる筈なのだ。


「何かあったか、それとも只の杞憂か……」


 まあ、ともあれ彼らとは結局話し合うのだから、その時にでも聞けばいいだろう。


 かくして、私達は貴族にも説明をした(のち)、官邸の直ぐ側に作られた大使館へと向かった。


 話し合いの際に一人でも多く参加出来るようにと、道中で拾える技術者たちも拾っている。大雑把に何を求めているのか口にするのは貴族だが、仔細を詰めるには彼らの仕事だ。その場にいてくれた方が色々と面倒が無いだろう。


「お待ちしておりました」


 入口前にて出迎えた女中の案内で館内に入り、一番初めに見えた部屋の扉が別の使用人の手で開かれる。そこへ私から先頭に部屋の扉を潜ると、長机を囲む椅子へと鎮座する獣人の男が待っていた。


「おっ、どうもお初お目に掛かりますルフレ陛下! ワイはオーキッド商会副会長のバカラと申すもんです。すいませんねほんまはこっちからお伺い立てなあかんところ、待たしてもろて」


「は、はじめましてだな……。バカラ氏の事はそちらの商会の副会長補佐殿から色々と話を聞いている」


 アカネと似た稲穂色の髪と耳を持ったバカラは、此方を見つけるや立ち上がり早口で自己紹介を行う。思わず面食らいながらも返事をして上座へと向かうと、疲れた顔をしたアキトが突っ伏していた。


「ああ……ルフレさん、取り敢えず副会長には報告と説明をしておきました……。これで僕もお役御免です」


「おつかれ様だな、ここまで順調に事が運んだのもお前のお陰だし、助かったよ」


 到着した隊商の相手をしていたのは彼なので、上司から色々と詰められたのだろう。


 国交に関わる商談まで漕ぎ着けた事はとんでもない成果だと思うので、後で彼の故郷の御馳走でも作って労らわねばな。会談の段取りから何まで準備する程有能な人材な上に個人的にも数少ない友人であるから、これで以前のように寝食を共に出来なくなるのは少し寂しい気もするが。


「えー……挨拶も程々に早速話し合いと行きたいんですが、よろしいでっか?」


「そうだな、今日はもう時間も少ない事だし、詰められる所まで詰めてしまいたいな」


 先程の調子で貴族たちと挨拶を交わしていたバカラがそう言った事で私の感傷も中断。全員が応じるように着席し、場は再び話し合いの空気へと変わった。


「僭越ながらワイがこの場を仕切らせて貰います……が、先ずお二方に確認しておきたい事があるんですわ」


「何かしら?」


「なんだろうか」


 第一印象からして仕切り屋なのだろう、此方としても特に異論は無いが彼の一言で会談が始まる。


「そもそも今回は確実に国交を結ぶと言う前提で、その内容決めをするという事でよろしいんやろか?」


「そうね、元々そのつもりだったし、実際にこの目で国を見て問題ないと私も判断したわ」


「こちらも同意だ、貿易や税についても出来るだけ譲歩出来る部分はしようと思っている」


 私とアザリアが代表としてそう答えれば、バカラは納得したように頷いて足元の荷物から羊皮紙の筒を取り出した。それはよく見なくても地図であり、この世界でも珍しい実際の縮尺と合った実用的な物であった。


 そして机の上へとそれを広げ、更に麻の巾着から適当な丸い小石を地図上へと転がす。


「そんで国交の樹立にワイら商人が絡むっちゅーことは、つまり取引でっしゃろ」


「合ってるよ、二国の間に商会が噛む事でより潤滑に貿易が行えると思ってな」


「ラグミニアフラスカ間の貿易もウチらから卸させて貰ってますさかい、その辺は心配せんでもろても大丈夫ですわ」


 彼は石を大陸西北部と中央部に置き、その間を指で示した。これがウェスタリカとフラスカの距離で、蘭商会としては物品を運ぶ交易路となるのだろう。片道最短で一ヶ月と少し、往復では三ヶ月強掛かる計算だ。


「ほな、そろそろ具体的な話を詰めていきましょか。互いに益のある取引をする為にも、しっかりじっくりと……!」


 ただ、私はその辺りの駆け引きには弱いので、ここからはウルシュの出番。


 似非な関西弁で思考の読めないこの男が嵌めて来るとは思えないが、彼の言う通りこちらとしても意味のある国交を結べるように是非とも頑張ってくれ。後、一応言っておくとこれは適材適所であり、決して私が面倒で丸投げしているわけではない。


 結局こういう場において私ってお飾りだし、アザリアと似たり寄ったりなのだ……。

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