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136.不幸な事故

「ここにある文書は元老院に属する我が氏族の長とその補佐長が直々にしたためた物。逆らおうなんて気は起こさない事ね」


「ウェスタリカ……元老院……」


 なんてことだ、どうやら私達は既にウェスタリカの領土に片足を突っ込んでいたらしい。そして、先程の発言から大方の事情は察せた。恐らく、月下の森に隣接する領地を治める貴族――――氏族が私同様にこの地下室を暴きに来たのだろう。


 そして、偶然鉢合わせ、こちらがここの主だと誤解した……と。


 そこまでは理解出来たが、


「ウミノ、彼女たちは敵対者じゃない。お前なら分かってるだろ」


「すみません、つい」


「……ッ!?」


 不幸な事故とは言え如何せん間が悪すぎたな。

 

 彼女の背後に姿を現し、首筋に短剣をあてがうウミノへ下がるように言いつけたが……その、何か動きを見せればそのまま殺してしまいかねない程の静かな殺気に、二人の魔人も流石に驚愕の表情を浮かべている。


「いつの間に……」


「此処へやって来た時既に。そして我が主に対しての度し難い不敬さに始末するつもりでしたが……温情に救われましたね」


「何を言って……いや、そもそもなぜハーフエルフと人間が魔人の配下にいるの……?」


 しかして、ようやく思っていた事態と異なる事に気が付いたらしい。


 彼女は魔人化を解いたジンとウミノ、それから私とメイビスへと視線を往復させると、段々と目の焦点が合わなくなってきた。そのままその場でしゃがみ込み、なにやらブツブツ独り言を呟きながらウンウン呻っている。


「……嘘、よく見たらあれってフレイ様と同じ白角じゃん。それに……エルフが味方にいるって事は邪教徒でも無いって事でしょ……? そしたらなんでここにいるのって話になるけど、あれだけの大人数で来てるなら、それこそ私達と同じ目的で……ってうわぁぁぁぁぁぁ……私の早とちりだったわけぇ……!?」


「おい、レオ姉……?!」


 そうしてひとしきり生気の抜けたような声を漏らした後、レオと呼ばれた少女は地面をのたうち回り出した。


「誤解は解けたみたい……だな」


「多分きっと、恐らく」


 勝手に誤解して勝手に合点が行った所悪いが、取り敢えず彼女には立ち直って貰ってどうにか場を収めようか……。



***



「――――ほんっっとにごめんなさい! まさかあなた達も被害者だったなんて、思いもしなかったの!」


「いや、うん……もういいよ、お互いに怪我も無かったようだし」


 暫くして落ち着いたレオは開口一番にそう言うと、私へ向かって頭を下げた。因みにタイガと呼ばれていた少年はレオに指示されて、外で待機……もというちのキャラバンを包囲していたという仲間へと連絡に行っている。


「じゃあ改めて名乗るわ、私はレオ・コハク。ウェスタリカ十二氏族が一つ、獣魔(ライカンスロープ)虎人族(ワータイガー)であるコハク家に名を連ねる者の一人です」


「ルフレ・ウィステリアだ、えっと……話せば長くなるんだけど実は――――」


「うぃ、ウィステリア!?」


 自己紹介を返そうと私が名乗った瞬間、レオが身を乗り出して驚嘆の声を上げた。


 理由は色々想像できるがここは取り敢えず一通り説明しておきたいので、リアクションには敢えて反応せずに続けることにしよう。


「――――というわけなんだけども」


「まさか本当にフレイ様の血縁者様だったなんて、嘘、しかもウィステリアって……デボラ様の旧名と同じ本家の家名よね……? そしたら何、バーム様の娘っていうあのリーシャ様……とは名前が違うから……つまりはリーシャ様の娘、つまり魔王バーム様の孫娘で実質この国の一番偉い人ってことに……うぁぁぁぁぁあああああ!!! 私、此度の無礼の責任を取って首を斬ります!!」


「待て待て、いいから早くその首に向けたナイフを下ろして」


 が、レオは途轍もない早口でそう結論を出し、腰からナイフを引き抜いて自ら命を絶とうと刃先を首に向けた。なんというか、早合点は早合点でも一瞬でここまで間違った思考を展開した上での事なので、むしろ凄い頭の回る子なのかもしれない。


「でっ、ですが知らなかったとはいえ国で一番偉い人に私あんな事言って……不敬罪で死ぬべきなんですよぉ!! あれ……だったらどうして失踪したと言われているリーシャ様の御令嬢が今ここに? もしかして偽物? でもでも角と尻尾はフレイ様やデボラ様とそっくりだし、そしたらやっぱり私ってばとんでもない人に喧嘩を売ってしまったんじゃないですかぁぁああああ!!!」


「……」


 ただ物事には限度と言う物があってだな、一々彼女自問自答に付き合っていては進む話も進まなくなってしまうだろうに。


「……分かった、君の処遇は後でその氏族の長にでも尋ねるとして、今は取り敢えず森を抜けないか?」


「あっ、はいそうですね! 荘園はもう直ぐ近くですので、我が獣将戦団が責任を持ってご案内致しますよ! きっと長なら貴女様についても何か知っておられる筈ですし……ああでもそれでこの方が偉い人なら私はやっぱり処刑されてしまうんじゃ……うう、死にたくないよぉ……」


 何かにつけてマイナス思考へ向かう彼女の情緒は一体どうなっているんだろうか。


 そんな事を考えつつも、待機していたホメロスたちと合流する為にレオに連れられて地上へと上がると、そこでは 精悍な顔つきにむさ苦しい筋肉と獣耳、実に合わない組み合わせの男達が整列して待ち受けていた。


「団長‼ これは一体どういう事ですか、何故侵入者をむざむざと解放なんて……」


 その先頭に立つ壮年の獣戦士はレオに詰め寄って言い募るが、すぐに隣にいる私達に気付いて顔を顰める。


「……魔人の子供はまだいいとして人間、それにエルフが何故ここにいる」


 明らかに嫌悪の混じった声音とその顔から滲む敵疑心、どうにも穏やかじゃないようだ。


 魔人の国とは言え、ここでは外から来た私たちがアウェーという事か。一応この国の王族なのだから、もう少し歓迎されるかと思っていた分ちょっとショックである。


「やめなさい副団長、こちらの御方は竜人の系譜に名を連ねる者です。その従者である彼らも丁重に扱いなさい、分かりましたね?」


「それは一体どういう…………まさかっ、よそ者の妄言を真に受けたというのですか!?」


 レオの部下である彼としては信用ならないのか、私を指して声を荒げた。

 

 妄言なんて一蹴されるのは心外ではあるし、私以外の面々も若干眦が引き攣っているが……確かに外からやって来た奴がいきなり『この国の王族の親戚筋やで』なんて言っても説得力に欠けるのも確かだろう。


「確かにこの少女の面貌はフレイ様やデボラ様とは似ておりますが、それだけで外から来た者の言葉を信じるなど……!!」


「それ以上の発言は許可しませんよ。次この方を貶めるような物言いをした場合、あなたはここで処刑します」

 

「証拠を出せばいいんだろ……短絡的過ぎないかお前」


 放って置いたら自分も部下も全員処刑しそうな勢いのレオに代わり、私が腰の革ポーチから母の手紙を取り出して副団長へと見せる。彼もはじめは懐疑的な眼差しで目を眇めていたが、その竜印が押された封蝋を見つけるや否や表情を一変させた。


「……貴様、これが偽物だった場合どうなるか分かっているのか? 王家の紋章を偽ったとなれば、極刑だぞ」


「誓って本物だ」


「ふん、どうだかな。ただ、一応確認の為に首都へ送る故、これは預かりとさせて貰おう」


 そう言って副団長は私から手紙を引っ手繰ると、乱暴に懐へと押し込んだ。大事な物なんでもう少し丁重に扱って頂きたいのだが、然るべき所で確認が取れればこの拒絶的な雰囲気も変わるだろうし黙っておこう。


「うっ、うちの部下が先程から無礼な真似を……本当に申し訳ありませんっ! ただ、ちょっと外の人に対して過敏になっているだけなんです……」


「いいよ、元々最初から全部信じて貰おうなんて思ってないし」


 最初から母の手紙で全てが上手く行くなんてのは理想で、私とてこういう事態を想定していなかった訳でもない。


 どこかしらで躓くことは織り込み済みであり、最悪のパターンである偽物呼ばわりからの処刑追放までちゃんと対策を考えていた。今回は些かハプニング的な邂逅と相成ったが、こちらの話を聞いて貰えるだけありがたいというもの。


 と、それはそれとして。


 しっかりと先導はしてくれるらしく、獣魔の戦士たちに連れられて馬車がゆるやかに動き始めた。


「では、私たちも行きましょう。ご足労かと思いますが、四刻もあれば着きますので……あっ、馬車に乗られるなら私など放っておいてどうぞ! というか大事なお客様を歩かせるわけにも行きませんよねっ、配慮が足らずに本当に申し訳ないですぅ……」


 私も項垂れるレオに嘆息を漏らしつつ、手近な馬車後部の(へり)に飛び乗ってメイビスも引き上げる。すると、小柄かつ普段から魔法で自重の殆どを軽減させているからか、ふわりと持ち上がった彼女はここぞとばかりに私へ抱き着いて来た。


「金髪、身の程を弁えている娘は好き、私たちの為にがんばって」


「……はいっ! メイビス様‼」


 いつものように、女子にだけ甘いメイビスはそう言ってあでやかに微笑むと、レオも頬を紅潮させて応えた。まあ、なるようにしかならないのだろうし、ちょっとばかり期待していたが、故郷への凱旋なんて大抵こんなものだろう。


 平常運転の彼女を見習って、私も少し力んだ肩の力を抜くとしようか。

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